表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/111

⑰ サイドM クリス

 

 夜、これが最後の夜になるのだろう。

 様々な想いが交差している。

 明日、その殆どが散ることになる。

 きっとワタシも、ワタシの恋も消えて無くなる。

 それはそれで構わない。

 花は散るからこそ美しい。


「クリス。ご本読んで」


 夕食の後、ラスに呼ばれて彼女の部屋に行く。

 この子の面倒を見るのも今夜が最後だろうか。

 カムイと共に悪夢のようなゲームを何周もする幼女。

 ワタシは彼女と共に何を望んだのか。

 カムイとラス。そして、ワタシ。

 決してワタシが手に入れる事が出来ない家族。

 カムイちゃんがお父さんでワタシが奥さん。ラスが娘。

 くだらない家族ごっこをワタシは楽しんでいたのだろう。


「おいで、読んであげる」


 ラスがワタシの膝に座る。

 見た目は小学生低学年くらいだが、中身は違う。

 本のタイトルを見る。


「誰にでもできる上手な暗殺」


 子供が読む本ではなかった。


「ねぇ、まだハジメ達をハメようとしているの?」


 ラスの立てた計画はことごとく失敗した。

 むしろ、ダメな方に傾いた。

 何度か止めようとしたがやめておいた。

 どんなに馬鹿な娘でも、ワタシだけは味方しようと決めたからだ。


「違う、もうカムイを信じることにした。これはただの趣味」


「はいはい」


 黙って本を読む。


「ね、クリス」


「何、リーダー」


 ラスがワタシの手をぎゅっと握る。

 何箇所か骨折する。

 自分の力をわかって欲しい。

 後でポイントで回復しなければ。


「今回終わったらカムイを説得しよう。もう周回をやめて、三人で家族みたいに暮らそう」


「いいわね、ワタシからもお願いしてみるわ」


 きっと叶わない夢。

 だけど夢を見るだけなら自由だからね。


 教室にカノンが現れたことにより、戦いの行方はわからなくなった。

 ハジメ達と行動を共にするあの少女。

 明らかに異常な存在だ。

 恋愛パラメーターのスキルで観察したら、エラーが出た。スキル事態が通用しない。

 あれが敵にまわったら、こちらの勝率はかなり落ちることになる。


 やれる事はやらなければならない。


 ラスが寝息を立て始める。

 そっとベッドに運び、毛布をかける。


「おやすみなさい」


 最後の寝顔。

 ラスはもう限界なのがわかる。

 筋力倍加のスキルで身体はボロボロになっている。

 カムイちゃんもそう。

 ワタシの蘇った記憶。

 鬼神ごとく。全てを力でねじ伏せる。そんなカムイちゃんはもういない。

 電気の切れかかったスタンド。そんな微かな淡い光のようにカムイちゃんの寿命は終わりに近づいている。


 クリア報酬のやり直し。記憶やレベル、装備はそのままで最初からやり直せるが、肉体は年を取っていく。


 リミットはもうすぐ、そこまで来ているのね。

 教室に戻るとカムイちゃんだけがそこに残っていた。

 自分の席でただ座っている。


 一人。他に一人でいる人は誰もいない。

 最後の夜。

 皆、誰かと共にいたいと思っている。

 恋愛パラメーターが壊れそうな程に、色々な所から恋の波動が漏れている。


 カナの部屋からリキマルの強い波動が漏れている。

 ついに告白したのかしら。

 いいわ、甘酸っぱい恋の波動。


 アキラの部屋からはシズクの強い波動。

 ダメ元でアタックするのね。

 そうよ、乙女は後先なんて考えちゃダメ。

 頑張って。どんな時でも可能性はゼロじゃないのよ。


 ルカの部屋はスキルジャミングによって波動を感じることは出来ない。

 でもきっと、四人同時にあんなことやこんなことをしているのね。羨ましいわ。妬ましいわ。


「最後の夜よ、リーダーの所に行かないの? カムイちゃん」


 後ろから話かける。振り向かずカムイちゃんは答える。


「最後は教室にいる。ずっとそうしてきた」


 そうね。貴方はワタシ達とは目的が違う。

 ラスの指示で色々邪魔をしてきてハッキリとわかった。

 完璧なハッピーエンドを目指してたカムイちゃんはもういない。

 クリアしての周回も望んでいない。

 ワタシの想像が正しければ、カムイちゃんは次が本当の最後になる。


「家族ごっこだったけど楽しかったわ。ワタシはずっと一人だったから」


 外見は男で中身は乙女。

 ワタシはここに来る前もずっと一人で生きてきた。

 それでいいと自ら納得していた。

 手に入らないものを追い続ける虚しさは知っている。

 だけど、何故だろう。

 ただの家族ごっこだったはずなのに、それが無くなることが酷く悲しく感じてしまう。


「家族に変わりはいないのよ、それが例えごっこでもね」


 カムイちゃんは答えない。


「リーダーを悲しませないでね。もし泣かせたら」


 カムイの席まで行く。耳元で囁いた。


「もし泣かせたら、オレが全部壊してやる」


 感情が男になることは滅多にない。

 だがいつもラスのことになると反転する。

 どうやらオレは恋愛よりも家族愛の方が強いようだ。

 意外な事実に自分でも驚いてしまう。


 感情を抑えながら、部屋に戻ろうとする。

 その刹那、背後でカムイが立ち上がった。


「クリス」


 振り返る。一瞬で男と女が反転する。

 ああ、やはりワタシはカムイちゃんが大好きなのだ。


「俺も楽しかった。ありがとう」


 きっと、これまでの周回でも言われたことのない言葉。

 涙が溢れる。

 三人で家族のように暮らす情景が浮かぶ。

 叶わない夢。

 ワタシの夢はいつも叶わない。


 それでも構わない。

 夢を見れた。

 それだけでワタシは最後まで戦える。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ