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⑯ オリジナル

 

 四人でルカの部屋に入る。

 会話をカムイに聞かれたくないという理由でルカの部屋にした。


淫媚(いんび)な香が残っているな」


 カノンの言葉にルカとアリスが紅くなりながら目線を逸らす。


「と、とりあえず座ろうか」


 テーブルを四人で囲む。

 カノンは俺の腕にくっついて離れない。

 自然とカノンと俺。その正面にルカとアリスという構図になる。


「カノン、話を始める前に一つだけ約束してくれ。何があっても二人には手を出さない。はい、復唱」


「むう、何があっても二人には手を出さない」


 ほっぺを膨らましながら復唱するカノン。

 思わず頭を撫でる。


「ふへへ」


 カノンの顔面が崩れる。なんだろう。癒される。本当にカノンは俺の娘なのだろか。


「ハジメ、その娘は本当にお前の子供なのか?」


 アリスも同じ事を考えている。


「記憶は蘇らないんだ。分からない」


 正直に答える。カノンのほうを見るが反応がない。

 記憶が蘇らないのは想定の範囲内なのか?


「では、ボクはカノンに質問だ。君は本当にハジメと血の繋がった親子なのか? やらしい意味でのパパとかじゃないのか?」


 ルカの質問に部屋の温度が一気に下がる。

 カノンから殺気が溢れ出す。

 だが、耐えている。

 ぷるぷる震えながら拳を握っている。

 最初に復唱させていて良かったと心から思う。


「その腐った耳でよく聞け。我は正真正銘、お父様の娘だ。いや、親子などと言うものは超越している。我はお父様を補完する為にピーーられたピーーで、その全てを」


「ストップ、カノン。よくわかった」


 興奮して髪の毛が逆立っている。

 パチパチと静電気が発生したような音もしていた。

 あまり、怒らせないほうがいい。


「カノン、俺からも聞いていいか? カノンは俺達の味方になってパーティーを組んだりすることはできるのか?」


「残念ですがお父様。我はゲスト扱いなので不可能です。本当は人生のパートナーとして、パーティーも組みたいのですが......」


 やはり不可能か。

 カノンがパーティーに加入すれば、カムイ達との戦闘での勝率が格段にアップするのだが。


「こちらに来たのも、かなり反則スレスレです。明日の最終ミッションのボスを弱らせる事以外のサポートはほぼ出来ないと思ってください」


「それは、自分の意思なのか?」


 ルールを決めた者。それはカノンではない。

 やはり、このゲームを作ったのは。


「すべてお父様のご命令です。我はそれに逆らう事が出来ません」


 カノンが真っ直ぐこちらを見る。

 表情からは感情がまるで読み取れない。


「たとえ、お父様が死ぬことになろうと、我はお父様に言われたことを最後まで守ります」


 それは、記憶を失っていない俺。オリジナルのことだろう。

 すべての元凶。


「もしハジメが黒幕だったとしても、今記憶なければそれはもう別のハジメだよね」


 アイの言葉を思い出す。

 そうだ。オリジナルの俺と今の俺はもう別の人間だ。


「なあ、カノン。俺がこのゲームを作ったとしても記憶はない。お前のいた所に、記憶のある、本当のお父様がいるんじゃないのか?」


「え?」


 時が止まったかと思った。

 それ程、カノンは固まった。

 フリーズしたようにこちらを見たまま動かない。


「何か、音がする」


 アリスの言葉で耳をすます。

 カノンから、何か機械音がしている。

 なんだ、この音は?

 テープが巻き戻されるようなキュルキュルといった機械音がカノンの頭の中から聞こえてくる。


「我のいた所に」


 急にカノンが話したので、身体がびくっと震える。

 カノンの白い眼球が猫の目のように小さくなっている。


「我のいた所にお父様はいません。でも大丈夫。お父様はここにいます」


 ここにいる? オリジナルが? それとも、まさか、俺がオリジナルとでも言いたいのか?


「まさか......」


 不意にアキラの事を思い出した。

 脳に埋め込まれた21グラムのチップ。

 そこにマリアの記憶を圧縮して保存しているアキラ。

 なら俺の記憶はどこにある?

 もし、記憶が保存されているとしたらその場所は?


「俺は、俺の記憶は、お前の中にあるのか?」


「はい、お父様」


 無くなったすべての記憶。

 オリジナル。

 それはカノンの中に存在していた。


「言ったでしょう。誰が正妻か分からせると。我以上にお父様を理解している者は存在しない。お父様の全てはこの中にあるのですから」


 自分の頭を指差すカノン。

 目がイッテル。

 ぞっ、と背筋が寒くなる。

 カノンが本当の娘だとしたら、その娘に自分の記憶を埋め込む。

 どういう神経でそんな事が出来るのか。


「カノン、その記憶は......」


 ふっ、と電池が切れたようにカノンが後ろに倒れる。

 そのまま、静かに寝息をたてる。


 神のオリジナル。

 俺のすべての記憶。

 それがカノンの中にあるのなら、それを取り戻したいとは思わない。

 たった10日足らずの記憶。

 それだけの自分だが、それでいい。

 今の俺にとってはそれが全てだ。

 このゲームを作り出した記憶なら、そんなものは......。


「ハジメ」


 アリスに肩を掴まれる。

 アリスとルカの表情が強張っている。

 俺はどんな顔をしてカノンを見ていたのだろうか。

 娘を見る親の顔ではなかっただろう。


 カムイが目指していた完璧なハッピーエンド。

 カムイは知っていたのだろうか。

 カノンの中にオリジナルの記憶が存在する事を。

 もし、真の黒幕を倒すのが目標だったなら、カムイの最終目標は、カノンを倒すということではないのか。


 だが、俺の目的は違う。

 記憶もいらない。黒幕を倒そうとも思わない。

 何故、俺がこんなゲームを作ったのか、知りたいとも思わない。

 もう一度、アリスやルカと共にアイに会いに行く。


 ただ、それだけでいい。




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