⑮ サイドL アキラ
静まり返った教室。
少女がロッカー部屋に入ったと同時にクラッシックの音楽は止まっていた。
天井にめり込み、ぶら下がる男。
誰も口を開かない。
うん、雑音がないのはいい事だ。
「マリア、分析」
『はい、マスター』
マリアの素敵な声が届く。至福である。
他は全部、死ねばいいのに。
『カノンと呼ばれる少女の髪の毛を採取。魔王との戦闘で得たハジメの肉片と照合します』
ああ、マリア。君はなんて優秀で素敵なんだろうか。
その無機質な身体。気持ちの悪い体温をもつ人間とは比べ物にならない。
「ちょっと、いい?」
マリアと俺の間を邪魔するノイズ。
聞こえないフリをして無視をする。
もげればいいのに。
「聞こえてるだろ、こっち向け」
不気味な女が藁人形の首を曲げる。
俺の首も曲がり、無理矢理、気持ち悪い顔を見せられる。
ああ、やはり、人はおぞましい。
「あいつ、心臓止まってる。アンタ、ここでなら治せるんだろう」
天井にぶら下がった男を指差す。
醜い。本当にどうでもいい。
しかし、この女、教室での魔王との戦いを見ていたのか。呪術スキルか。科学とあまりに真逆で調べる気も起こらない。
「今、忙しい。もう少ししたら消えてなくなるから我慢してくれないか?」
「今、私と戦うのと、あいつ、蘇らせるのどっちが忙しくなると思う?」
女の髪が伸びている。
教室の床まで伸びた髪は、まるで別の生き物のようにうねうねと動き、こちらに迫ってきている。
気持ち悪い。関わりたくない。
「マリア、携帯ハック」
『了解。解析を中断し、リキマルの携帯をハックします』
男の携帯情報がハックしたマリアから流れてくる。目の前に俺にしか見えないノートパソコンが浮かび上がる。パソコンを叩いて男のデータを調べる。ポイントは足りているようだ。
『ハック完了。操作出来ます』
ポイントで再生させると、男が天井から落ちてきた。
「ん、なんだ? あれ? 白いのどこ行った?」
「バカが、もう居ねぇよ」
女は悪態をつきながらも、声が涙声になっている。
吐き気を催す。
何故、人と人の恋愛はこんなにも気持ちが悪いのか。
ああ、人類、壊滅すればいいのに。
幼い頃から人を愛することが出来なかった。
自分の事ですら気持ち悪いと思う。
この世界でマリアに会わなければきっと俺は自ら死を選んでいただろう。
『解析完了しました。DNA鑑定の結果。100パーセントの確率で二人は親子です』
「そうか」
この世界の謎。
彼女はその深淵に迫る重大な鍵だろう。
だが、今はそんな事はどうでもよかった。
もっと重大な問題が発生していた。
マリアの解析と同時に鑑定スキルでハジメと少女のDNAを鑑定した。
結果は100パーセントの確率で親子ではなかった。
いや、それどころか......。
カムイの席の前まで歩く。
足元にまだラスがくっついている。
「カムイ、アレはゲームマスターなんだろう。何故、今回だけ、此方に関わってきた?」
「今回だけでない。ずっと裏から監視して様々な操作している。姿を現さなければいけなかったのは、黒板に書かれた通りだろう」
『皆さんの戦力と新しいラスボスの強さを比較した結果、勝率はゼロパーセントとなりました。よってこちらから皆さんに強力な助っ人、特待生を召喚させて頂きます』
黒板に書かれた文字を見る。
裏からでは間に合わない程のラスボスか。
まあ、それもどうでもいい。
問題はそこではない。
「マリア、一つ答えてほしい」
『ハイ、マスター』
いや、出来れば答えて欲しくはない。
「魔王が来た時、ハジメ達と協力して討伐することを提案したな。あれは自らの計算に基づくものか? 誰かからの指示によるものか?」
『......』
マリアはすぐに答えない。
そんな事は今迄に一度もなかった。
沈黙の後、マリアがゆっくり口を開く。
『特秘事項により、お答えすることが出来ません。申し訳ございません』
「そうか」
マリア、マリア、マリア。
お前も俺を愛してはくれないのか。
いや、あの女を倒せばマリアは解放され、自由になるのではないか?
「カムイ、107年振りに会ったと言っていたな。来る条件を満たしていないとも。あの女がここに来る条件は一体なんなんだ?」
「完璧なハッピーエンド。50人、全て生存のまま、最終ミッションをクリアした後に現れる真のラスボス。それが彼女だ」
真のラスボス。それがあの女だとしたら、オリジナルの存在はどうなっている?
そして、あの女を倒した時、この世界は、マリアはどうなってしまうのか?
「約束は? あの女と何を約束した?」
「それは言えない。クリアした者しか知ることが出来ないし、クリア条件を満たしていない状態で彼女を倒しても約束は果たされない」
考えろ。考えろ。考えろ。
神。神のコピー。神の子供。オリジナル。
機械仕掛けの世界。
他はすべてどうでもいい。
マリアだけが残っていれば後は何もいらない。
「オリジナル。神のオリジナルはどこにいる?」
カムイは答えない。
知らないのか、知っているのか。
「マリア、解析」
『解析できません。特秘事項に該当致します』
マリアの記憶は圧縮されて俺の脳のチップにある。
だが、それを解析はしない。
マリアの口からすべてを聞く。
「俺はあの少女を倒す。マリアはどちらの味方をする?」
『もちろん、マスターの味方を致します』
表情のないマリアが笑っている気がした。
初めてマリアに人間を感じる。
嘘をつく人間。
汚く醜くおぞましい人間。
「それは本当か?」
『はい、マリアは嘘をつきません』
いいだろう、マリア。
すべてを捨てることになっても、お前を解放してあげよう。




