⑬ 特待生イベント
昼食が終わり静まり返る教室。
緊張感が漂っている。
どんなイベントが発表されるのか。
ミッションの中止という予測外の展開。
黒板には侵入者により、ドラゴンが壊滅したと書かれている。
ジーククラスのドラゴンを壊滅させる侵入者。
想像出来ない敵に皆、不安が広がっている。
『三年A組ーーっ、黒板先生ーーっ!!』
スピーカーから機械音声が流れ、皆が黒板に注目する。
黒板に自動で文字が一字一字書き込まれていく。
『本日のイベント 特待生イベント』
『最終ミッションの魔王が予定外のトラブルによりお亡くなりになりました。急遽、代わりのラスボスを用意したのですが、予想以上に強くなってしまいました』
嫌な予感が的中する。
あの魔王よりも強い?
冗談ではない。
『皆さんの戦力と新しいラスボスの強さを比較した結果、勝率はゼロパーセントとなりました。よってこちらから皆さんに強力な助っ人、特待生を召喚させて頂きます』
特待生?
向こう側の人間か?
「まさか......」
心当たりがあるのか。
カムイのつぶやきが聞こえた。
『皆さん、めっちゃ仲良くしてください』
転校生イベントのようにロッカーから出てくるのか。
皆が振り返る。
しかし、ロッカーから出てくる気配はない。
その代わりに。
『ガ、ピー、ガ、ガ』
スピーカーからノイズが聞こえる。
その後に音楽が流れてきた。
『たん、た、た、たん、た、た、たん、た、た、た』
パッヘルバルのカノン。
携帯で流れてきた音楽と同じものがスピーカーからオーケストラで演奏される。
同時に。
黒板前の教壇がゆっくりと下がっていく。
教壇周りの床に丸い穴が空いて、そこに吸い込まれていく。
穴の奥は見えない。
奈落の穴かと思える程、どこまでも深い。
完全に見えなくなる教壇。
流れるクラッシック。
消えた教壇が穴からまたゆっくりと現れる。
そこに、一人の少女が座っていた。
白い。
全てが白い少女。
歳は12歳くらいだろうか。
真っ白な長い髪。
黒目がなく白い瞳。
透き通るような白い肌。
白いドレス。
幻想的に白く美しい。
ニッコリと笑って正面にいる俺を見る。
この子の名前をつけてほしいな
まるでずっと昔から決めていた名前。
俺がその名前にすることが昔から決まっていたような名前。
その名前と同じ名前を口にする。
「カノン」
「はい、お父様」
少女が教壇の上でペコリとお辞儀する。
携帯で聞いた声と同じ声。
ガタっ、と後ろで席を立つ音が聞こえる。
だが、振り向けない。
白い少女。カノンに釘付けになっていた。
俺に子供がいた?
だが、思い出せるのはこの少女の名前だけだ。
すでに子供がいたからアイとの子供の名前をすぐに答えたのか?
わからない。
記憶の映像は流れない。
「ハジメっ、どういう事だっ、お前にこんなに大きな子供がいたのかっ」
掴みかかりそうな勢いでやってくるルカ。
「詳しく聞きたい。説明してくれるな」
アリスは剣に手をかけている。
「いや、待ってくれ。ハッキリとは思い出せないんだ」
「ほう、それは仕方ないな」
アリスの目が座っている。
「ならボク達が思い出させてあげようか」
ルカが拳をポキポキとならす。
「ちょっ、まっ」
待ってと言おうとした瞬間。
両脇にいたアリスとルカが宙に舞った。
クルクルと回転し、自分の席に着地する。
教壇の上のカノンが両手を前に突き出していた。
「下賤が。お父様に纏わりつくな」
教壇の上にカノンが立つ。
見上げるとドレスの下の下着が丸見えになった。
下着ももちろん純白だった。
「さて、我の席を作らねばな」
右手を出して、掌を上に向ける。
くいっ、とそれを上に曲げると同時に、俺の左隣に椅子が出現した。
「うん」
教壇から飛び降りて、歩いてくる。
俺の隣に座ると、目を細め、幸せそうに笑う。
「末永くよろしくお願いします」
まるで結婚するみたいな挨拶に思わず身構える。
ダメだ。状況が把握できない。
「本当にここに来るとは。正気か。カノン」
いつの間にか、カムイが背後に立っている。
カムイはカノンを知っているのか?
「久しぶりね。カムイ。100年ぶりくらいかしら」
カノンは振り向かない。
黒板を見たまま話している。
「107年ぶりだ。まさか、もう一度会えるとは思わなかった」
107年?
なんだ、その年月は?
「どうしてやって来た? お前が来る条件は満たされていないだろう」
「さあ、どうしてでしょうね。待ちくたびれた、かも知れません」
二人の会話には何処か違和感がある。
だが、その違和感が何かがわからない。
何かが喉に詰まっているような、例え難い、違和感。
「あの約束はそのままなのか」
「そうね、約束は変わらないわ。きっと叶うことはないでしょうけど」
沈黙。カムイはそのまま席に戻る。
「カムイ、なんだ、約束とは」
カムイの足にへばりついているラスが質問しているがカムイは答えない。
ラスも知らないカムイとカノンの約束とは何だろうか。
「か、カムイと何か約束したのか?」
隣に座るカノンに尋ねる。
緊張する。なんだ。魔王と対峙した時に似た重圧感。
この少女は、本当に俺の子供なのか。
「完璧なハッピーエンドを迎えた時の報酬。昔、そんな約束をしたの」
そう言ってカノンは目を閉じる。
「今はもう意味のない約束」
スピーカーからはまだパッヘルバルのカノンが流れている。
カノンがそれに合わせて鼻歌を歌う。
音程がズレている。
本当にカノンが俺の子供かどうかはわからない。
だが一つだけ、今、確信出来る事があった。
正真正銘、真のラスボス。
この白い少女がその存在だという事を。




