表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デスゲームに巻き込まれたようだけどこのゲーム作ったの俺でした  作者: 恋魂
四月八日 ドラゴン討伐ミッション 改め 緊急メンテナンス
70/111

⑦ 緊急メンテナンス

 

 昼食のチャイムが鳴ってロッカーから出る。

 教室にはアキラ以外のメンバーが揃っていた。

 じとり、と女性陣から嫌な視線を感じる。


「クズ」 「性欲魔人」 「女なら誰でもいい」


 心の声が聞こえてくる。

 誰とも目を合わさずに席に着く。


 席にはトレイにラーメンのどんぶりと餃子があり、定番の牛乳も付いている。

 朝も食べてなかったため腹はへっているはずだがあまり食欲がない。

 しかし、体力を減らすわけにはいかない。

 この後、ミッションが控えているかもしれないのだ。


 やけ食いのように無理矢理腹に入れていく。

 ナナが死んだ時、アイが励ましてくれた。

 そのアイはもういない。

 一人で立ち上がるしかない。


 昼食後にイベントの発表があるため、食事後も部屋に戻らず待機する。


 ルカとアリス。カナとリキマル。カムイとラス。シズクとクリスがそれぞれ雑談しているが耳に入らない。


 電話の事で頭がいっぱいだった。

 アイと自分の子供につけた名前を名乗る女性。

 何故、彼女がその名前を名乗るのか。

 何故、俺は自然にその名前が口に出たのか。


 イベント発表五分前にアキラがマリアと共に部屋から出てくる。

 食事が消える寸前に早食い競争をしているように食べるアキラ。彼が食べ終わると同時に。


『三年A組ーーっ、黒板先生ーーっ!!』


 スピーカーから機械音声が流れ、黒板に文字が自動で書き込まれていく。B組と全く同じだ。


『ドラゴン討伐ミッション』


 その文字に身体が震える。

 ドラゴン。

 ナナやキョウヤの命を奪ったジークの姿を思い出す。

 あのレベルのモンスターを倒すのか。


『メインミッショ......』


 急に黒板の文字が止まる。

 そして、スピーカーから小さな機械音声の呟きが漏れる。


『え、準備できてへん? 姐さん、なにしてはる

 ん?』


『なんか、誰かに電話して落ち込んでるみたいやで。

 Aやん、強制スタートで接続できひんか?』


 初めての事態。

 誰かに電話して落ち込む姐さん。間違いない。彼女だ。


『あかんわ、姐さんのパスなしに接続できひん。もう今回のイベント間に合わへんで』


『どないしよ。章のタイトルもドラゴン討伐ミッションになっとるで。いまさらかえれらへんやろ』


 章のタイトル?

 この機械音声達も訳の分からないことを言っている。


『そんなん、こっそり消して書き換えたらええやん』


『もう、七話目やで。いまさら変えてもあかんのちゃう?』


 また出た。話の単位。こちらとあちらでは時間の単位が違うのか?


『あ、Bやん、これ音声入っとるで』


『あ、やっぺえぞ、これ』


 プツンとスピーカーが切れる。

 沈黙。教室で全員固まっている。



「え、なんだ、いまの?」


 しばらくしてリキマルが皆に聞くが誰も事態を飲み込めない。


「黒板先生じゃ、ない、かな? AとかBとか言ってたし」


 シズクがかろうじて答える。


「関西人なんだ」


 ルカがボソリと言う。

 それ以上は誰も何も言わない。


 しばらくして、『メインミッショ』と書かれた文字が自動で消えていく。


 そして代わりに『ドラゴン討伐ミッション』の後に新しい文字が書かれていく。


『ドラゴン討伐ミッション 改め 緊急メンテナンスのお知らせ』


 あ、これ、あかんヤツだ。


『日頃より当ゲームをご利用いただき、誠にありがとうございます。

 四月八日、緊急メンテナンスによりミッションのサービスが一時的にご利用いただくことができなくなりました。

 ご利用のお客様には大変ご迷惑をお掛けいたしましたことを深くお詫び申し上げます』


 黒板に次々と羅列される文字。


『尚、今回のお詫びといたしまして皆様に100ポイントを付与させて頂きます。

 引き続き皆様に安心してお楽しみいただける環境が提供できるよう努めて参りますので、今後ともご愛顧いただけますようお願い申し上げます』


 どこかで見たようなお詫びの文章。

 携帯を見ると確かに100ポイントプラスされている。


「相変わらずふざけてやがる」


 後ろの席でラスが歯ぎしりしている。


「仕方ない。想定の範囲内だ」


 カムイが席を立つ。


「休むぞ。ミッションは明日だ」


 カムイとラスは知っているのか。奴らの正体を。


 ロッカー部屋にそれぞれ戻るカムイとラス。


「なー、カナ。今のなんだと思うよ? 姐さんやらAやらBやら。あれか、黒幕か? オレらをここに連れてきた奴らか?」


「しらねーよ。ただ、油断すんな。アホみたいな会話

 の中にヤバイ単語が混ざってる」


 リキマルとカナの会話に共感する。


『こっそり消して書き換えたらええやん』


 何を書き換えるかはわからない。

 ただ、コイツらはこちら側が手を出せないものを簡単に書き換えることができるのだ。


「アキラ、今の会話どう思う?」


「......マリア、分析」


 シズクの問いにアキラは答えず、携帯機械のマリアに話しかける。


『録音した会話を解析します』


 初めてマリアの声を聞く。

 それは黒板先生と同じ機械音声だった。


『電子音声による会話。感情数値。限りなく0。関西弁。限りなく嘘くさい。会話内容。理解不能。会話場所。次元相違。やっぺえぞ。ナダル......』


 早口で解析していくマリア。

 そして、数分後、解答を口にする。


『結論。99パーセントの確率で、黒板先生はマリアと同じ人工知能です』


 黒板先生が機械?

 だったらあの電話の女性が作ったものか?

 それとも俺が作ったものか?


 携帯を見る。

 パッヘルベルのカノンはもう鳴ることはなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ