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⑫ サイドI ボブ

 

 黒人の父と日本人の母。

 ハーフだったが父の血を深く受け継いだのか、日本人らしさは皆無だった。

 子供の頃から100パーセント黒人の外見だった。

 だが、父は物心つく前にいなくなり、日本で日本人の母に育てられた。

 英語を喋れる訳がなく、普通に日本語しか喋れない。


「お前、外人のくせに日本語しゃべんなよ」


 小さい頃からそう言われてきた。


「田中 一郎ってなんだよ」


「お前、今日からボブな」


「せめて、片言でしゃべれよ」


「ワカリマシター」


 僕は無理矢理カタコトで喋るようになった。



「ボブ、コイツ、隠し通路があるって言ってたね。探せる?」


 マゼちゃんが頭のめり込んだ盗賊を指指して話しかける。


「ケモノニナレバ、ワカルカモ」


 カタコトで話して、レッサーパンダに変身する。

 嗅覚が異常に発達するのを感じる。

 人の匂いの痕跡を探ると、少し先の方に微かに匂いを感じた。


「タブン、コッチデース」


 そう言うとマゼちゃんが嬉しそうに僕の頭を撫でてくれた。


「偉いねぇ、ボブ。お前だけは頭割らないでやるからな。ペットとして、ずっとワッチの側にいるんだよ」


 その言葉に安らぎを覚える。

 ああ、僕は今、あのマゼちゃんと共にいるのだ。



 魔法少女マゼっ娘マゼちゃんが始まったのは、僕が小学六年生の時だった。

 小さい子が見るアニメでクラスのみんなは観ていなかったようだが僕は釘付けになった。


 マゼちゃんは、いじめっこといじめられっ子が合体して上手くバランスが取れるという魔法少女だった。

 外人と日本人が合体して生まれたのに、上手くバランスが取れなかった僕は、マゼちゃんを羨ましく思って観ていた。


 人間模様が複雑に絡み合い、愛憎絡み合うストーリーは本当に子供向けなのか疑った。

 シーズンも第三部まで続き、僕は中学生になっても毎週欠かさず観ていた。

 しかし、マゼちゃんは唐突に終わることになる。

 最終回を迎える前に一つの事件が起きたからだ。


「マゼちゃんコスプレ殺人事件」


 後にそう呼ばれる衝撃的殺人事件がテレビで放送された。

 マゼちゃんのコスプレをした少女がクラスメイトを鉄球のついた杖で撲殺した事件。

 犠牲者は十三人。うち死亡十一人、残り二人も身体に障害の残る重症を負うという悲惨な事件だった。

 犯人は未成年で写真は公開されなかったが、ネットなどで拡散され、僕はその顔を知ることになる。

 普通のどこにでもいるような、少女の顔がそこにあった。

 記事などから彼女がいじめられっ子でいじめっこを殺害したと知る。


 ああ、彼女も僕と同じで合体に失敗したのか。

 僕は何故か彼女に妙な親近感を覚えた。



「タブン、ココデース」


 獣道の脇にある小さな穴を発見する。

 そこだけ、人の匂いが強く残っている。


「よし、ここで待ち構えよう」


 マゼちゃんは今から行っても追いつかないという判断で隠し通路から逃げてきた盗賊団を倒す作戦にした。

 しばらく待って来なかった場合は、この通路から奇襲をするようだ。


「いっぱい頭割れたらいいなぁ」


 マゼちゃんが笑う。

 事件の犯人の写真と同じ顔で笑う。

 彼女は上手く合体出来たのだろう。

 実に幸せそうな彼女の横顔を見ながら、いつか自分も完全な合体をしてみたいと思った。



「ぎゃあああぁぁ」


 隠し通路から全身包帯の男が出てきた瞬間に、マゼちゃんはファイヤーボールを放った。

 見事に当たり、包帯男は炎に包まれ、転げ回る。

 僕はレッサーパンダになって、入り口の横にいる。

 隠し通路から人の匂いがしたときに変身するように言われた。

 いま二分程経過したので、あと一分くらいで変化が解ける。

 先ほどチビ盗賊を倒した時のように、不意打ちをする予定だったが、予定外のことが起きた。

 次に穴の中から出た男がいきなり消えた。

 片腕のない男だった。

 一瞬で消えて、マゼちゃんの背後に現れる。


「瞬間移動かっ」


 マゼちゃんが後ろを振り向く前に男が残っている腕で羽交い締めにする。


「動くな、動けば......なっ!」


 マゼちゃんがファイヤーボールを自分に放った。

 燃え上がるマゼちゃん。

 片腕男はマゼちゃんを離す。

 自爆、そう思っているのだろう。

 だが、それは一瞬でマゼちゃんは炎を解除する。

 全身に火傷を負いながらもマゼちゃんは笑っていた。

 狂気を含んだ笑みに身体が震える。


「ロイ、下がれ。俺がやる」


 隠し通路から迫力のある男が出てきた。

 赤い髪に、赤い髭。髑髏の眼帯をした男。

 ボスだ。これまでの盗賊と段違いのオーラを感じる。

 変身はまだ解けない。

 さらに隠し通路から二人の気配がする。

 最初の一人は長く炎に包まれていた為、瀕死なのか動けないでいる。

 まずい、一人ずつ倒していくはずだったが、逆に挟み撃ちの形になっている。


 マゼちゃんが両手にファイヤーボールを作っているが、それを放てずにいる。

 外したら終わる。

 だが、さらに二人が出てくる前に、二人倒さないといけない。

 大ピンチだ。変身が解けるまであと三十秒。

 それまでマゼちゃんは生きているだろうか。

 ボスが巨大な斧を構える。

 瞬間移動をする片腕男もナイフを取り出している。


 周りの空気が張り詰める。

 その時、さっきまで倒れていた包帯男がいきなり悲鳴を上げた。


「ひ、ぎゃあああぁぁあぁ」


 なんだ、アレはっ?


 包帯男の上に何かが立っていた。

 人間? いや、身体が透けているように見える。

 ハジメという男に似ているが、黒目が大きく、ゆらゆらとゆれている姿は幽鬼のようで、同一人物に見えない。

 死んで化けて出たのだろうか。

 背筋に寒気が走る。


「あ、うあ、嗚呼、たすけ......」


 包帯男の身体が溶けていた。

 ドロドロと生きながら、消えていく。


「もう、来たのかっ!」


 ボスが歯ぎしりしながら、叫ぶ。


 硬直状態になった。

 誰もが動けないでいる。

 映画か何かで見たようなシーン。

 それぞれがそれぞれの命を握っている。


 永遠のような時が流れたように感じた。

 きっかけは僕の変化だった。

 レッサーパンダの変身が解け、黒人の姿に戻る。


「うわあああああ」


 カタコトを喋るのも忘れて叫んだ。

 剣を抜いて、ボスに斬りかかる。

 ボスが巨大な斧を振るう。

 マゼちゃんがファイヤーボールを放つ。

 片腕男が瞬間移動する。

 穴から二人の男女の盗賊が飛び出してくる。

 溶けている包帯男の上で、幽鬼のような男がこの世の物とは思えぬ叫び声をあげた。


 八つの命がぐちゃぐちゃに混ざり合い、弾け、飛び散った。





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