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⑩ サイドB アリス その6 救い

 

 昼食時にイベントが発表された。


『本日のイベント』


『バカンス』


『十三時スタート』


「アリス、バカンスだって。あれか、ワイキキとかグアム的なやつかっ、バーベキューとかあるんじゃないかっ」


 ルカが興奮している。


「いいわねぇ、バカンス。ワタシ焼いちゃおうかしら。リキマル、あんたサンオイル塗りなさいよ」


「オカマに塗るくらいなら、まだカナに塗ったほうがマシだぜ」


「ああんっ、呪うぞ、クソロック野郎」


 バカンスイベントに皆、テンションが上がっている。

 だが、リーダーのラスとカムイは対象的に冷静だ。


「カムイは参加するのか?」


 ラスの問いにカムイは首を振る。


「そっか、じゃあオレもやめとく」


 二人は参加しないようだ。


 普段皆がいる時には教室に出てこないアキラが携帯機械のマリアと共に現れる。


「参加するのか、アキラ」


 シズクが少し嬉しそうに話しかける。


「マリアに海を見せてやりたい」


 アキラは少し照れたように呟いた。

 バカンス。皆、そのイベントに心を奪われている。


「なあ、アリス。ポイントで水着をゲットしよう。競泳水着じゃなくて、きわっきわっのビキニがいいな」


 ルカが一番心を奪われている。


「ルカ、頼みがあるんだ」


 カムイとラスが二人だけイベントに参加しない。

 このチャンスを逃したくはなかった。



 リザードマン討伐ミッションで三首リザードマンを倒した時に手に入れたアイテム、リザードマンロードの玉をポイント変換する。


 三つのスキル玉と変換できた。

 一つは隠密玉。

 一定時間、姿を隠すことが出来るスキル玉。

 二つ目は変身玉。

 変身したい者の髪の毛を仕込むことにより、その者に変身できるスキル玉。

 そして、最後の一つは爆裂玉。

 10メートル四方に大爆発を起こすスキル玉。

 どれも一回きりしか使えないが、躊躇わず使う。



『出席番号12番 アリスさん』


「ハイ」


 答えたのはルカだった。代返してもらい、そのタイミングで私は隠密玉で姿を消し、バカンスイベントに参加した振りをして教室に残った。

 バカンスの方には、私に変身したハイドとルカが行っている。

 ルカはかなりゴネたが、あとでなんでも一つ言うことを聞くと言うと、ハイテンションでバカンスに向かった。

 後で何を言ってくるのか、少し怖い。



「カムイ、なんでバカンス行かなかったんだ? たまには息抜きも大事だぞ」


 二人きりになったと思っているラスがカムイに話しかける。


「奴が覚醒している」


 ラスの表情が強張った。

 今迄にこんなラスの顔を見たことがない。

 なんだ? 奴とは、誰の事だ?


「神スキルかっ、発動したのかっ」


 神スキル? 聞いたことがないスキルだ。

 二人は一体、何を話しているのか。


「このまま暴走したらそれまでだが、もしコントロール出来たなら、奴が俺の......」


 どんっ、とラスがカムイの机を叩いて会話を遮った。


「オレはそんなもの認めないっ」


 ラスの顔は涙目だ。


「今回も二人で倒して次に行こう。次はきっと全員生き残ってクリア出来る」


 全員生き残る? クリア?

 やはり、二人で何回もクリアを繰り返しているのだろう。


「たぶん、次はクリア出来ない」


 カムイが機械に覆われた自分の腕を見る。


「俺の力は、すでに全盛期の半分もない。次の周回はさらに力は衰えているだろう」


「そのぶんオレが強くなるっ、オレ一人でもクリア出来るくらい強くなる」


 ラスがカムイに噛みつく。

 やはり、二人の目的は違う。

 ラスはカムイと共にゲームクリアを繰り返そうとしている。しかし、カムイは違うようだ。一体、何をしようとしているのか。


「気付いてないのか? それとも気付かないフリをしているのか? すでにお前も......」


「あああああぁああああっ!」


 ラスが自分の耳を塞いで叫ぶ。

 子供秘奥義、「聞こえない」だ。


「嫌だ。オレはカムイとクリアするっ、絶対だっ、邪魔する奴は全部ぶっ殺すっ!」


 ラスが叫びながら自分の部屋に戻る。

 教室にカムイと二人きりになった。


「ふぅ」


 カムイが天井を向いてため息をつく。

 情報処理が追いつかない。

 二人は一体、何を目的にしているのか。


「アリス、いるんだろう」


 不意に話しかけられ、びくっと身体が震える。

 知っていたのか。


「ルカの代返は下手くそだった。誤魔化されるのはラスくらいだ」


「そうか」


 隠密玉を解除してカムイの前に立つ。


「カムイ、お前達は一体何をしようとしているんだ?」


 ストレートに聞く。

 少しの沈黙の後、カムイが答える。


「悪あがき」


 仮面で顔は見えないがカムイは笑っているのではないか。何故かそんな気がした。


「無駄だとわかって踠いているだけだ。俺達は失敗した」


 答ではない。

 しかし、これ以上聞けなかった。

 違う質問をする。


「このゲームに救いはあるのか?」


 カムイは答えない。

 じっ、と此方を見たまま、動かない。

 そして、ようやく絞り出すように答える。


「......わからない。だが、あると信じている」


 それが全員生き残ってのクリアなんだろうか?


「アリス、ミッションは後二回で終わる。最終ミッションはBクラスとの合同ミッションだ」


 後、二回。

 本当なら、数日ですべてが終わる。


「救いはハジメか、俺か、もうすぐ答えが出る」


「ハジメ? 何故だ、ハジメは何者なんだ? 覚醒や神スキルは、ハジメの事なのか?」


 カムイは答えない。

 答えずに席を立つ。


「カムイっ」


 背を向けるカムイに向かって叫ぶ。

 カムイがゆっくりと此方を向いた。

 そして、自分の仮面に手をかけた。

 初めて、カムイの姿を見る。

 息を飲み、ただ呆然と立ち尽くす。


 ああ、そうか、そうなのか。

 残酷な真実に、終焉が近いことを理解した。





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