④ スキル強化
睨み合う女性二人。
その間に気配を消して挟まれる俺。
怖い。だが、止めなければならない。
「前の世界に貴様みたいなギャルがいたよ」
猫耳がアイを指差す。
「クラスの中心的存在でさ、ワッチのようなアニメオタクをゴミのような目で見ていたよ」
両手を広げる。ファイヤーボールが二つ手の前にできあがる。
猫耳もやはり現実世界に絶望していたのだろう。
明らかにここに来てテンションがおかしくなっている。
「ワッチはここで真の魔法少女になる!」
「くだらねー」
アイがそう言った瞬間、猫耳がファイヤーボールを放とうとする。
止める。両手を押さえ、スキルを使う前に摑みかかろうとした。
だが、掴む前に、目の前でいきなり猫耳は崩れ落ちた。
手にあったファイヤーボールが二つとも消える。
「は、はぅ、な、なんっ、はぁん」
色っぽい声をあげながら悶え出す。
股を両手で押さえている。
「なん、だ。これ、貴様、なに、ぁ、ん、んっ」
間違いない魅了のスキルだ。
だがこれは魅了というよりも催淫といった感じだ。
「同性に使うと性的欲求だけが膨れ上がるみたい、盛ってる猫には効果抜群ね」
「ふ、ふざ、あっ、ちょ、これ、や、やめ」
見た目がヤバい。顔がアヘ顔になっている。
「あんた、処女? はじめての快感? どうスキルとか使える?」
アイがドSな女王様みたいに、猫耳の顎を手でくいっ、と上げる。
「触れたらこのスキル威力増すんだ。耐えられかにゃあ」
すっごい嬉しそうな笑顔。
止めなくていいかな、どれくらい威力が増すのか知っておきたい。うん、決してスケベ心ではない。今後のミッションでの参考の為だ。
「ちょ、まっ、て、んっ、ワタシがわる、かっ、あぁああああぁああああぁ!」
猫耳が絶頂の叫び声を上げて、仰け反った。
じゃばー、と水が流れる音がする。
失禁していた。
アヘ顔のまま倒れて、ピクピク動いている。
「あ、ふぅ、ん、あぁ」
目がいってる。凄いな、魅了のスキル。
「ハジメ、出てきて」
「は、はい」
気配を消すのをやめて、アイの前に現れる。
「ロッカー開けるからこの猫、うちの部屋に放り込んどいて、さすがにこのままじゃ可哀想」
「わかった」
良かった。慈悲の心を持っていて。
猫耳をお姫様だっこで抱えあげる。
びくん、と震えるが、動けずにそのまま痙攣している。
アイがロッカーを開けて、そのまま外から中に入れる。
「あうあうあー」
なんか喋ろうとしているが話せないようだ。
アイは無視して扉を閉めた。
「レベルが上がるとスキルは強くなるみたい。前のミッションでレベル4になってから初めて使ったけど、かなりの手応えを感じた」
アイはレベル4に上がっていたのか。
個人スキルは同時に熟練されていくのだろうか。
隠密スキルも、レベルが上がればさらに気配を消すことができるのだろうか。
今は敵に攻撃したら気がつかれてしまうが、進化を遂げ、カムイの光学迷彩のように完全に姿を消せたら、かなり使えるスキルになる。
「オー、ノー」
ボブが携帯をいじりながらオデコを押さえていた。
そう言えばボブのスキルを聞いてなかった。
残念そうな顔をしている。ハズレスキルだったのだろうか。
「ボブ、どんなスキルだったんだ?」
携帯を覗く。
ステータス画面を開いていない。
「イマノ、動画トレナカッタ、残念スギマス」
おい。
「コノ携帯ダメダメ、写真モトレナイ」
「真面目にやろうね、ボブも失禁したくないよね?」
アイが笑って近づく。怖いですよ。
「オウ、クレイジーガール! ソーリー、チャントヤリマース」
ボブが慌てて携帯のステータス画面を開く。
ボブ レベル1
HP 150
攻撃 25
守備 25
速さ 2
個人スキル 獣人変化
装備スキル なし
サブスキル なし
なんだこれ、明らかにステータスがおかしい。
速さ以外、レベル1の時の自分の数値の五倍はある。
しかも獣人変化って凄そうなスキルがある。
これ、初期装備なしでもいけるんじゃないか?
「獣人変化のとこ、押してみて」
「オウ、イェイ」
ボブがタップすると獣人変化の項目に一文追加される。
熊に変化するスキル。
三分で戻る。インターバルは一分。
「うおっ、熊かっ」
「ベアー! ベリーグッド! マゼチャンノペットト、同ジデース」
そういや猫耳、リアルな熊のパンツ履いてた。あれがペットなのか、なんだそのアニメ。
しかし、ただでさえ強いボブが熊になれば、凄い戦力になるんじゃないか。
アイのほうを見ると、コクンとうなづく。
「ボブ、ちょっと変身してくれないか」
どれほどの熊になれるのか。
熊になっても人間の理性は残っているのか。
もしもの時は、アイとロッカーに避難しよう。
「ウ、ウオーー」
ボブが力を込め、雄叫びを上げる。
「アイ、ロッカーの方に」
「ハジメも気配消しといて」
ボブの身体が変化していく。
全身に毛が生え、口元から牙が見え始める。
これはもしかすると最強戦力になるのではないか。
期待が膨らむ。
「グ、グルルルッ」
声はもう人間のものではない。
どんどんと獣の姿になっていく。
爪が伸び、全身は毛に覆われていく。
顔も変形していき、すでに人より熊に近い。
もとからでかいボブの身体がさらに大きく......。
「あれ?」
さらに大きくはならない。
「なんか、ちぢんでない?」
アイの言う通りだ。
ちぢんでる。どんどん小さくなっている。
二メートルはあったボブの身体は、いまは半分くらいになっている。
「これ、動物園でみたことある」
「うん、俺も記憶が蘇った」
ちょこんと可愛く立つレッサーパンダ。
明らかに弱体化したボブがそこにいた。
「二人トモ、巨大化シタ?」
アイと二人でボブを見下ろす。変身しても理性もあるし、話せるようだ。
「ま、まあ、レベル上がったらスキル強化されるみたいだし、やがては大きな熊になれるよな、アイ」
「それまで生き延びれたら良いけどね」
ボブはミッションでスキル禁止が決定した。