① サイドC アイ その2
朝、シャワーを浴び、汗を流す。
身体中べとべとだった。
汗ではない白い液体も身体中についている。
朝までハジメと猿のように交尾した。
童貞恐るべし。
ハジメ。最初は魅了のスキルで虜にして、シュンのように利用しようと思っていた。
だが、前回パーティーを組んだ時から調子が狂ってきた。
長らく感じたことがなかった感情。
あの日、四人で組んだパーティーは楽しかったのだ。
打算なく動くのは、うちらしくない。
こんな世界で感情で動いたら死に繋がる。
だが、ハジメを見ているとなぜか感情が先に動いてしまう。
「あいつ、消えそうだからかな」
ハジメのスキルの影響なのか。
たまにそう思ってしまう。
そこにいるのに、いまにも消えてなくなりそうな気配。
ここに来た時からずっと何かに悩んでいる。
記憶もないと言っていた。
なぜだろう。ほっとけない。調子が狂う。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴る。
朝御飯の時間。
タオルで身体を拭いて、服を着る。
ポイントで初期装備を獲得したので下着もある。
だけど面白いからハジメには黙っておこう。
教室に行くとハジメが椅子に座っていた。
まだ食べずに待ってくれているようだ。
お、バナナがついてる。テンションが2上がる。
「おはよう、ハジメ」
「お、おはよう、アイさん」
照れとる。うむ、可愛い。
「さん、いらないって言ったよね」
からかってみる。
「お、おはよう。あ、アイ」
真っ赤になってこっちを見ないで言う。
ダメだ。なんかキュンってなる。
やばいぞ。抱きしめたくなるが、我慢する。
惚れた方が負けの自分ルールがある。
負けない。うちは負けない。
左隣の席に食事を運ぶ。
何か喋ろうとしたが、意識しているハジメを見ているとこっちも意識して話せなくなってしまう。
無言で二人で御飯を食べる。
なんだ、これ、中学生のカップルかっ。
「見て見て、ハジメ。エロいバナナの食べ方」
沈黙に耐えられず捨て身のギャグをかます。
「ぶっ、ごふっ」
ハジメがバナナを豪快に噴き出した。
「げ、ぶっ、ぐ、げっふ、げふっ」
しかもむせて呼吸困難に。
「ちょっ、大丈夫っ? 牛乳飲む?」
牛乳を渡す。
涙目で牛乳を飲むハジメ。
なんだろう。この感覚。いじめたくなる。
「見て見て、ハジメ。エロい牛乳の飲み方」
ハジメが噴水のように牛乳を噴出した。
午前中はハジメをからかって過ぎていった。
服が牛乳臭くなったが、爆笑したのでよしとしよう。
じっとハジメがこっちを見てくる。
散々からかったので、警戒していらっしゃる。
そろそろ昼食後のイベント発表だし、少し真面目に話をしなければならない。
「ハジメ」
「な、なんですか」
スカートをチラッと上げる。
「見たい?」
いかん。なぜか真面目に話せぬ。
ハジメがブンブンと首を振る。
見たいくせに愛い奴め。
「ま、冗談はおいといて」
絶対冗談じゃないだろ、という目で睨まれる。
「もうすぐ今日のイベント発表だけど、明日ミッションだから、かなりの確率で転校生イベントだと思う」
ハジメが真剣な顔になる。
「それで次はどうするの? また全員でパーティー組むの?」
確認しなくてはいけない。
ハジメがただの甘ちゃんか、それとも......
「次は組まない。俺たちは人を助けられるほど強くない」
ハジメは携帯を取り出してステータスの項目をうちに見せた。
「いま、俺はレベル3。職業を選べるレベル10までは二人だけでパーティーを組もうと思う」
「うん」
ハジメはただの甘ちゃんではない。
このデスゲームを生き抜こうとしている。
「助けられる範囲では助ける。でもアイ以外は助けるのに無理はしない。俺にはまだそんな力はない」
誰も見捨てずに強くなる。
そんな夢みたいなことは、このゲームでは不可能だ。
キーンコーンカーンコーン
昼のチャイムが鳴り、食事が机に出てくる。
この後はイベント発表だ。
いったいどんな転校生がくるのか。
出来れば一人でも生き残れるスキルを持っていてくれたらいいのだが。
二人で昼御飯を食べる。
今度はふざけない。
何人転校生が来るのか。
強い転校生なのか。
それにより今後、うちとハジメの運命が変わって来る。
『三年B組ーーっ、黒板先生ーーっ!!』
スピーカーからいつもの音声が響く。
黒板に文字が書き込まれ、それを二人で見る。
『本日のイベント 転校生イベント』
『男子1名、女子1名』
『皆さん、仲良くしてください』
二人。いったいどんな二人が来るのか。
教室の机に二つのプレートが出現する。
前にアリスがいた席、一番後ろの右から2番目の席。
「リリン」
そう書かれたプレートが出て来る。
リリン? なんだか、キラキラネームぽい。
そして、自分の隣の席、もともとシュンの席だったところにもプレートが出て来る。
「ボブ」
なにこれ、外人?
なんだか癖が強そうなイメージの二人。
大丈夫だろうか。
「うっ」
いきなりだった。
急に吐き気が込み上げる。
気持ち悪い。いま食べた昼食をリバースしそうになる。
「ご、ごめん。ちょっとトイレ」
「えっ、大丈夫?」
ハジメの声を背にロッカーに飛び込む。
慌ててトイレに入ると同時に吐いていた。
なんだ。これ。やばいぞ。
違和感。
自分のお腹に何かがいる。
ここに来てから一回も生理が来てない。
もしかしてと思っていた。
初日にオークに犯されてから、昨日ハジメとエッチするまで一回もしていない。
シュンは魅了のスキルで、焦らすだけ焦らしてコントロールしてきた。
だから、もし妊娠していたらあの豚共の子供ということになる。
「くそヘビーだな、ちくしょう」
最悪、腹を突き破って豚が生まれてきても、ここならポイントで回復できる。
お腹をさすると、それに呼応するかのようにドクンと、何かが動いた。
神がいるならきっとうちが大嫌いで、様々な試練を与えているのだろう。
泣かない。諦めない。なにがあっても生き残る。
平然を装い教室に戻る。
笑顔でハジメに話しかけた。




