⑩ お前、自分が死なないと思ってるんじゃないか?
串刺しのアリスの背後で号泣するルカ。
その前にいる三つ首の異形のリザードマン。
ヒロシの姿は確認出来ない。
床に粉々の肉片が飛び散っている。まさか、あれが。
「おい、あれ」
キョウヤが指刺す先、異形リザードマンの後ろの壁に顔が貼り付けてあった。
人の顔。
恐怖に歪んだ顔は縁日のお面のように、壁に固定されている。
「おっと、これを付けなくては」
異形リザードマンが床から何かを拾う。
眼鏡だった。
壁に張り付いた顔に眼鏡をかける。
ヒロシの顔が完成する。
満足そうに異形リザードマンはうなづいた。
「これでよし」
全身からブワッと汗が吹き出る。
やばい。一目でわかる。レベルが違う。
「引くぞっ、撤退だっ!」
扉の先には入らない。
ハイドだけが鉄扉から中に入っていく。
一刻も早くここから去らなければならない。
「えっ?」
思わず目を疑う。
アイ、ナナ、キョウヤの三人が扉に向かって駆け寄っている。
「ダメだっ、撤退をっ......!!」
違う。三人は駆け寄ってるのではない。
吸い込まれているのだ。
磁力のようなものだろうか。
自分も得体のしれない力で扉の中に吸い込まれる。
なだれ込むように四人が部屋に入ったとたんに、大きな鉄扉が音を立てて閉まる。
「逃がさんよ、人間共」
念動力!? 異形リザードマンのスキルかっ!
「や、ヤバいで。閉じ込められたで」
「ちょっ、どうするの?」
キョウヤとアイが鉄扉を開けようとしているがビクともしない。
「《《三人》》か。誰から遊ぶ?」
部屋に入る前から隠密スキルを使っていた。
異形リザードマンは俺を認識していない。
認識せずとも吸い込まれたということは、念動力は精密なものではなく、大雑把なものだろう。
とにかく、姿を確認される前に倒す。
それしか勝ち目はない。
床に落ちていた剣が何十本も宙に浮く。
あれでアリスはやられたのか。
「あああぁああああぁ、アリス、アリスっ」
ルカは壊れたように泣いている。
アリスは死んでしまったのか。
立ったまま、完全に沈黙している。
ハイドがルカに近寄るが、ルカはアリスに抱きついて泣くだけで気づいていない。
もう、一人でやるしかない。
「ワ、ワシがやったるわ」
ナナとアイ、二人を守るように前にでるキョウヤ。
震えている。
異形リザードマンが攻撃に入る前に仕留めないと、キョウヤは死んでしまうだろう。
「震えているぞ」「弱そうだ」「いたぶるか」
三つの首が同時に喋る。
弱点はどこだろうか。
真ん中の首が怪しいが、一つ切っても生きていそうだ。
心臓も三つあるのだろうか?
尻尾を切って転倒させたほうがいいのか。
考えている時間がない。
全部試すか。
まずは頭。次に胴体。最後に尻尾。
「おら、来いやっ」
キョウヤが挑発する。
空中に浮いている剣が回転して、切っ先がキョウヤに向く。
だがその前に、異形リザードマンの背後に回り込んだ。
剣を上段に構え、思い切り勢いをつけて振りかぶる。
スイカ割りのように、リザードマンの真ん中の頭がパッカリと割れる。
「なんと」「もう一匹いたのか」
残った二匹が振り向く。
やはり、死なないのか。
剣を引き抜き、次は胴体に突き刺す。
「ふむ」「中々どうして」
全く効いていない。不味いな、これは。
異形リザードマンの六本の腕。
その手に握られたすべての剣が高速で回転する。
人間がミキサーにかけられたらこうなるのか。
六方向から回転する剣の斬撃を受ける。
身体中の肉が裂け、血が飛び散る。
致命傷ではない。
こいつはいたぶって殺す気だ。
「うああああああっ」
キョウヤが突っ込んでくる。
だが、その足元に数本の剣が突き刺さり、動きを止める。
「焦るな、一人ずつだ」
不味いな。勝つイメージが全く浮かばない。
本当にこのデスゲームは俺が作ったのか?
こんなバランスの悪いボスキャラを設定したのか?
ゲームなら負けても生き残る強制イベントでないと、おかしいくらいの強敵だ。
真ん中の真っ二つにした頭が再生されている。
回復の能力もあるのか。
チートすぎるな。
今から出来ることは限られている。
1 ここから逃げる。
2 カムイとクリスの到着を待つ。
3 全員でなんとか倒す。
どれも望みが薄い。
だが4つ目の選択がある。
神が死ねばゲームクリア。
つまり俺が最初に死ねば、ゲームが終わってアイ達は助かるかもしれない。
「お前は」 「なんだ」 「なぜ怯えない?」
全身を刻まれ、立っているのも辛い。
だが、引かない。
どうせ勝てずに全滅するなら、せめて仲間を生かしてやりたい。
「なんだろうな、俺もよくわからないんだ」
「「「お前、自分が死なないと思ってるんじゃないか?」」」
三つの頭が同時に同じことを言う。
最初のミッションから違和感は感じていた。
死の恐怖がほとんどない。
いや、異形リザードマンの言うように、何処かで自分は死なないと思っているのか?
「殺すぞ」「うむ、殺そう」 「不気味だ」
手加減なしの攻撃が来る。
そう思った瞬間。
土煙が舞う。
何者かが粉塵とともに異形リザードマンの背後に現れた。
「なっ?」 「んっ?」 「だっ!?」
土煙が収まり、隠れていた姿が見える。
赤と黒の全身機械。
カムイだ。
手にビームサーベルのようなものを持っている。
本当にダースベイダーかっ。
「まだいた?」 「なんだ?」 「人間か?」
異形リザードマンが振り向くと同時にカムイがサーベルを真横に振った。
ぶつり、という肉が切断される音がして、異形リザードマンが崩れ落ちた。




