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デスゲームに巻き込まれたようだけどこのゲーム作ったの俺でした  作者: 恋魂
四月四日 リザードマン討伐ミッション
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⑧ サイドF ルカ その2 慟哭

 

「ふむ、犬か」


 向かってきたハイドを異形リザードマンは六つの冷酷な目で見る。

 弓を放つ。

 一本、二本、三本。

 六本の剣の一つが回転する。

 簡単に弓は弾かれる。


「よく訓練されている」


 ハイドが素早く背後に回り込み、尻尾を噛もうとする。


「ぎゃんっ」


 ハイドが悲鳴をあげた。

 異形リザードマンが背後も見ずにハイドに向かって剣を投げていた。

 上空に投げられた剣が正確無比にハイドに向かって落ちてきた。

 それがハイドの脇をえぐり血が飛び散る。


「うあぁああああぁああああぁ」


 叫ぶ。叫んで弓を撃ちまくる。

 当たらない。すべてが簡単に弾かれる。


「それは当たらない。見本を見せてやろう」


 異形リザードマンが三本の剣を宙に投げる。

 クルクルと回転した後、剣が空中で止まる。刃先はすべてこちらを向いていた。

 そして、それが同時に、ものすごいスピードで飛んでくる。

 避けれないっ。

 死。

 その一文字が頭をよぎる。

 だがその剣は当たる寸前に弾け飛ぶ。


「ふぅううううう」


 アリスが目の前に立っていた。

 持っている剣が巨大化している。

 スキル 不倶戴天ふぐたいてん

 持っている武器を巨大化させるスキルで、剣は普段の五倍にもなっている。

 まるで巨大な鉄塊だ。

 盾のように構えて、三本の剣を同時に弾き飛ばした。


「ほう、面白い」


 異形リザードマンが地面に刺さっている剣を抜く。

 再び六本の腕に六本の剣が揃う。


「行くぞ、人間」


 今までのリザードマンからは想像もつかないような加速で、一瞬で距離を詰めてくる。


「ふんっ」


 巨大な剣を横殴りに振るアリス。

 六本の剣をすべて交差させて、異形リザードマンがそれを受け止めた。


「いいぞ、人間、楽しめそうだ」


 力比べ、アリスと異形リザードマンがお互いに相手を押し込もうとする。

 ジリジリと下がるアリス。

 筋力増加のスキルを持つアリスが力負けしている!


「そこまでか、人間」


「まだ、やれ、る」


 苦しそうな表情のアリス。

 今だ。相手は手がふさがっている。

 真ん中の顔面めがけて弓を放つ。

 それがいとも簡単に弾かれる。持っている剣に弾かれたのではない。


「バカな......」


 絶望を絵にしたらまさにこの情景だろう。

 異形リザードマンの上空。

 何十本もの剣が浮いている。

 その一本が顔に向かって飛んできた弓矢を弾き返したのだ。

 地面に刺さっていた剣が全部なくなっていた。

 そのすべてを異形リザードマンは操れるのかっ。


「邪魔をするな」


 宙に浮いた剣が何十本も飛んでくる。

 今度こそ終わる。アリスの剣でも防ぎきれないほどの数。

 だが、それでもいい。アリスを守る。

 剣を避けずに異形リザードマンの頭を狙う。

 相討ち覚悟で弓を放つ。

 全身に剣が突き刺さる。


 ......はずだった。


「え?」


 目の前の光景が信じれない。

 アリスはいままで仲間を救ってきた。

 だがそれは無理はしない範囲で、だ。


 両手を広げボクの盾になるように数十本の剣を受け止めるアリス。

 バカなっ、ボクはっ、そんなものっ、望んでいないっ!!


「アリスっ」


 叫ぶ。


「ああ、うん」


 アリスが血を吐きながら答える。


「なんで、どうしてっ」


「わからん」


 剣は肩、胸、腹、足に刺さり貫通している。


「自然と動いた。理屈なんてない」


 血が流れる。アリスが死ぬ。嫌だ嫌だ。嫌だ。


「つまらんな」「これで終わりか」


 右の頭と左の頭が喋る。

 これまで話していた中央の頭は話さない。

 最後に放った弓が中央の頭に刺さっていた。中央の顔はぐったりと下を向いている。


 異形リザードマンが自ら弓を引き抜く。ぐったりとしていた頭が起きる。


「み、三つ同時です。でないと再生します」


 ヒロシが悲壮ひそうな顔で背後に立っていた。


「真ん中の頭が倒れた時に弱点が見えました。三つ同時に攻撃したら倒せます」


 倒す? アリスがこんな状態で?


「アリス、アリスっ」


「あーー、ルカ」


 蚊の鳴くような声、アリスの生命の炎が消える。


「この胸、クッションにならなかった。やっぱり邪魔なだけだ」


「うん、うん、そうだなっ」


 いつのまにか泣いていた。

 アリスの背中を見ながら崩れ落ちる。


「アリス、死なないで、アリスっ」


「大丈夫、少し休むだけだ。いいか、ルカ」


 アリスはこちらを向かない。

 異形のリザードマンと対峙したまま、後ろで泣きわめくボクの頭を軽く撫でる。


「死ぬなよ......」


 撫でてくれた腕が力なく落ちる。


「あぁああああぁああああぁ」


 子供のように泣く。


 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。


「ハイドっ!」


 瀕死のハイドを呼ぶ。

 まだ間に合うかもしれない。

 治療のスキルを持つ少女がいた。

 アリスを直してもらう。


 剣で斬られたハイドがそばにくる。

 肉は裂かれ、骨が見えている。


「ハイド、探してきてくれ。治療の少女を」


 ハイドが閉まっている鉄扉に体当たりする。

 まるで動かない。ハイドの身体が弾かれる。


「仲間を呼びに行くのか? いいだろう」


 異形リザードマンが鉄扉を睨むとゆっくりと開いていく。

 そこからハイドが出て行った。


「あ、じゃあ先生もお邪魔しますね」


 続いてヒロシが出て行こうとするが、目の前で鉄扉は再び閉じられた。


「仲間が来るまでお前で遊ぼう」


 ヒロシを見て、それからゴミを見るようにボクとアリスを見る。


「こいつらはもう飽きた」


 剣がヒロシに向って放たれる。


「ひぃ」


 ヒロシの足元に剣が数本突き刺さる。

 わざと外している。

 本当に遊んでいるのだろう。

 少しでも粘ってくれればいい。


「アリス、アリス」


 呼びかけるが反応はない。

 だが鑑定すればスキルが見える。

 まだ生きている。

 早く、早く来てくれ。

 神に祈る。

 そんな者の存在を信じたことはない。

 だがそれでも祈ることしかできず、ボクは神に祈り続けた。


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