マイスター
「……」
タカラはほっぺたをつねってみた。
痛い。
つまり、夢ではない。
「……とにかく、明日になったら戻る方法を聞こう」
と、その時、
「失礼しますね」
ドアが開き、レキが入ってきた。
「うわぁっ!?」
タカラは驚きのあまりベッドから転げ落ちてしまった。
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、ああ。ちょっと急だったから驚いただけ」
「そうですか? ノックはしたんですけど……聞こえませんでした?」
「え?」
まったく、気づかなかった。
「ちょ、ちょっとぼーっとしててね」
「そうだったんですか。お休みのところ申し訳ありませんでした」
レキは深々と頭を下げた。
「いやいやいやいや! そんな頭下げなくてもいいよ!」
「しかし、タカラ様の休息の邪魔を……」
「そのタカラ様ってのもいいから。夢野かタカラでいいからさ、普通にしてよ」
「はぁ、タカラ様がそう言うのなら」
「だーかーらー」
「はっ、はいっ、タカラ。タカラですね」
びしっと気をつけしてレキは言った。
「では、タカラ……」
言って、レキは止まる。
「……うーん、やっぱり呼び捨ては慣れませんね……タカラさんでいいですか?」
「あ、うん。構わないけど」
「はい。では以後タカラさんとお呼びいたしますね」
言って、レキはにこりと笑った。
その笑みにタカラは半ば気押されながらも、
「で、できれば敬語もやめてほしいんだけど」
「ええ? でも、いわばあなたは私の造物主でもあられますし……」
「だったら丁寧語くらいでいいからさ。造物主とかそんな畏まったものじゃなくて、どっちかって言うとパートナーだし、対等でいいじゃん」
「タカラさんがいいというなら……」
「よし、決まり!」
今度はタカラがにっ、と笑った。
つられてレキも笑う。
二人でにたにたしてしまう。
しばらくそうして時が流れ――
「あっ、そういえば、タカラさんに用があったんでした」
レキは、ぱん、と手を叩いた。
「用?」
「はい。地下では換気が悪すぎるとのことで、姫様が城の近くにアトリエを用意してくれるそうです」
「あ、それは助かるかも」
流石にシンナー中毒にはなりたくない。
「よーし、そしたらレキの素体の修理も出来る……ってあれ? よく見たら傷消えてるな?」
先ほどの戦いでレキは体中に微細なひびが入っていたはずだ。
だが、今では全くその痕がない。
「はい。神体には自己修復能力がありますから。バトルフィールド内では制限されますが、そこから出ればある程度の傷ならすぐに治りますよ」
「なるほど。いいなぁ」
もしガレキにそんな能力があれば、角などのエッジにあんなに気をつけなくてもいいのに。
「まぁ、完全破壊されれば精霊が抜けてしまいますから素体から修理しないといけませんが」
「へえ……覚えとこ」
「では、用件も伝えましたし、そろそろ失礼しますね」
「あ、うん」
そうしてレキは戻ろうとしたが、部屋から出る寸前、そのドアから顔だけを出し、
「私、タカラさんがマイスターで良かったです。……絶対、優勝しましょうね」
にっこりと笑った。
タカラは反射的に頷いた。
「……」
だが、後ろめたい気持ちでいっぱいだった。
まだ、戦う意義は、見いだせていなかったから。