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歴史的一勝。
あの一勝は、そういうことだったらしい。
城へ戻ったタカラを待っていたのは、凄まじいほどの称賛の雨あられだった。
何人もの貴族や高官からほめちぎられ、悪い気はしないけれども、そこまでの実感はないのであった。
しかもハセ姫に至っては、喜びのあまりまた気絶したりしてひと騒動あったが、起きるなり、
「広く国民に伝えよ。この勝利を記念し、明日は一勝祭りを開催するとな!」
などと御触れまで出してしまった。
なぜこんなに大事になっているかエポナに聞いたところ、
「LVリバーは二十五回連続、つまり一〇〇年連続最下位やったですからねえ……ここ何回かは一勝もできとりませんでしたから、無理もなかでしょう」
とのことだった。
一緒に居たレキは、勝った時のように大喜びするかと思ったが、どこか物憂げな表情をしながら賛辞を受けていた。
「どうした? 嬉しくないの?」
「嬉しい……ですよ。もちろん」
レキはそう答え笑ったが、どこかその笑みがぎこちなかった。
「変なの……」
まぁ、ここまで褒めそやされるのが久しぶりすぎてどうしたらいいのかわからないんだろう、そうタカラは納得した。
とにかく、周りの盛り上がりぶりに、当の本人であるタカラはついていけないのだった。
一人で自室に戻ってみたものの、地下なんぞに飛ばされたせいで有機溶剤の臭いが充満しており、シンナー中毒でもないタカラからすればそんなところに長居できるわけもなく。
城の中の客室をあてがってもらい、早々に騒ぎを抜け出してそこで横になっていた。
ぼんやり天井を見つめながら、タカラは現状を整理してみた。
・夢に出てきた少女の姿映しのフィギュアを作ったら、異世界に飛ばされた。
・少女は自分のフィギュアについた精霊である。
・この世界ではオリンピックみたいに四年に一度各国がフィギュアを作って戦わせる大会がある。
・自分はその選手らしい。
「ふうん、こんな感じか」
改めて、現実感がまるでない。
「戦いかぁ……」
戦い。
言葉にしてみて、改めて実感する。
「おれには向いてないよなぁ……」
戦いどころか競争だってほとんどしたことがない。
ずっとフィギュアだけに情熱を注いできた。
他のことはどうでもよかった。
……
そうか?
本当にそうなのか?
疑念が湧いてくる。
競争せずただフィギュアに打ち込んだ。
だが、フィギュアのコンテストだってあるのだ。
タカラはそれに出品したことがない。
それはなぜだ?
競争が嫌いなのか?
「……わからん」
こんなに考えたのも久しぶりだ。
「考えるの向いてないしなぁ。向こうの世界じゃいつも暇さえあれば粘土こねてたし……」
言って、気づく。
「ん? 向こうの世界?」
タカラの表情が、真っ青になる。
「あーーっ! っていうか帰る方法聞いてないぞ!」
ばたばたして周りに流されたため、一番重要なそれを聞き忘れていたのだ。
「……そんな大事なこと忘れるなんて……いや……」
もしかしたら。
「どっかで喜んでるのか?」
向こうの世界では、フィギュアの理解者はいなかった。
親もワイドショーの報道を鵜呑みにして息子が犯罪に走るのではないかと考え、腫れものに触れるように扱っている節がある。
弟に至っては、オタクだというだけで露骨に嫌悪感を示していた。
オーブンで焼成を必要とする粘土のスカルピーを使わずファンドを使っているのも、オーブンのある食堂で家族と顔をあわせるのが気不味いからだったかもしれない。
学校でも、似たようなものだ。
フィギュア作りが趣味だなんて言った日には、根暗な奴だと思われる。
この間は無心だったから気づかなかったが、学校でフィギュア作りなんてしてしまって大丈夫だったのだろうか。
戻ったとして、居場所はあるのだろうか。
だから。
「おれ……戻りたがってないのか……?」
ぞっ。
背中に冷たいものが流れた。
わからない。
何がそれをもたらしたのか。
だけど。
とにかく恐ろしかった。
もしかしたら、自分が元の世界に居たくなかったから、この世界に来たのかもしれない。
この世界でなら自分は英雄になれるのかもしれない。
いや、必要とされている。
でも。
何かがひっかかった。