ガレージキット
「バトルステージ、ステンブアイッ!」
後半叫びすぎで何言っているかよくわからないが、とにかくヨミーの叫びと同時に周囲に雑に七色に輝く光がまき散らされた。
「おおお……」
感嘆の声を上げるタカラの頭上を光が広がって行き、かなりの距離をドーム状に覆った。
それからすう、と色を落としていき、やがて透明になった。
「それじゃあ新顔もいることだし、おおまかにルール言っとくである!
1・対戦により神体が破壊された場合負けとなる。
2・神体以外による神体への攻撃、またマイスターへの攻撃は禁止とする。
3・対戦はジャッジの立ち会いのもと、ジャッジの召喚する結界内で行う。
4・逃走することも可能。
ほかにもあるであるが、だいたいこれだけ知ってればいいである」
「そんな一気に言われても……」
「苦情お問い合わせは受け付けないのである!」
「ちょ……」
「それでは、バトルゥウウウウウウウウスタアアアアアティナウ!」
やはり無駄きわまる動きでヨミーが大きく両手を交差させた。
瞬間、どこかからゴングの音が鳴り響く。
「ははは! 行けえ! スーパーグレートゴーレムっ!」
『ヴぉおおおおおおおんっ!』
ゴーレムがどしどしどしと足音を立てて走り出してくる。
「こちらも行きますよ。タカラ様、指示を」
「え?」
くるりと振り返ったレキ、そのきらきらとした視線に、タカラが答えられるはずもなく。
「指示って言われても」
「そ、そんな。私たちはマイスターの指示がないと動けません」
「じ、じゃあ、ガンガンいこうぜ?」
「は、はぁ……じゃあ、ガンガン行きます」
レキもまた走り出した。
「ははは。バカめ! このスーパーグレートゴーレムはレベロント鋼によって作られているんだぞぉ。バトルフィールド内では素材の強度が神体に反映される以上、無敵なのだあっ! はははっ!」
胸を反らして悦にひたり笑うマルサ。
「ぷっ」
その姿はあまりにも子どもじみていて、エポナは思わず笑ってしまった。
だが――
「……!」
タカラの顔面は蒼白だった。
「どげんしたと? タカラさ……」
「行くなレキーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
「えっ?」
しかしレキはもうダッシュしており、その勢いは急に止められない。
また、ゴーレムも既に間合いに入っていた。
打ち放たれるゴーレムの拳。
レキは何とか体をひねり、それをかわそうとした。
だが、走り出していたその慣性は消せない。
「くっ……」
ゴーレムの拳がレキの体をかすめた。
そう、僅かに触れる程度だった。
が。
「きゃあっ!?」
レキの左肩を覆っていた鎧部が粉々に砕け、レキは吹っ飛ばされた。
「そんなっ、精霊様!?」
「はははっ! なんだこりゃ弱ええ! さすが万年最下位だなぁ!」
「レキ! 下がれっ!」
「は、はいっ」
レキは左肩をおさえ、猫のような動きで距離をとった。
スピードは遙かにレキの方が上だ。
「タ、タカラ様、ど、どげんしてこげな簡単に壊れて……」
「彼女はレジンキャストなんだ……」
タカラは青白い顔のまま呟くように言った。
「レジンキャストって……?」
「樹脂の一種でね……粘土に比べれば全然硬度があるけど、鋼なんかぶつけられたらひとたまりもない……!」
「ええっ!?」
実際、ガレキの鋭利なパーツなどは折れやすい。
しかし、鉱石や金属などよりは遥かに軽い。
即ち、速度はレキの方が相当上になる。
レキはゴーレムの間合いに入らないように距離を取っていた。
「レキ、とにかく距離を取るんだ! 当たったらおしまいだ」
「はいっ、マイ・マイスター!」
「はははっ無能な国には無能なマイスターしか集まらないなぁ! バカめ。素早いくらいでボク様のスーパーグレートゴーレムに勝てるかよぉ! そういう奴への対策も万全さぁ。追加武装――ゴールデンアックス!」
マルサは懐から鉛筆ほどの長さの、金色に輝く小さな斧を取り出した。
そしてそれをスタンドの前の筒に放り込んだ。
すると、それはスタンド中央の素体の手に転送される。
同時にゴーレム本体の手にも等倍されて現れた。
「な、なんだあれ……」
「プラススロットにアイテムを投入すると追加武装となるのである」
えっへん、とばかりにヨミーが胸を張って言う。
「はよ言えええっ!」
絶叫するタカラをよそに、ゴーレムは鈍重な動きながら、巨大な斧を振り上げていた。
「だけどっ……そんなものは当たりませんっ」
レキは十分な間合いを取っている。
例えゴーレムが踏み込もうが手を伸ばそうが、その斧が届くことはない。投げようともあの鈍重なモーションでは容易に軌道を読めるだろう。
ただ、そのくらいは、いかにアホそうなマルサだとてわかっているはずである。
そのマルサは、不敵な笑みを浮かべていた。
「違うっ! レキ、とにかく離れるんだっ!」
「遅いよ。ばぁか。砕けっ! スーパーグレートゴーレムッ!」
『ヴぉおおおん!』
ゴーレムは大上段に振りかぶった斧を振り下ろした。
そこにはレキはいない。
だが――
ごがああああああん!
圧倒的な自重を乗せた壮絶な一撃は地面を爆砕した。
砕かれた大地は飛礫となり、四方八方に飛び散った。
「しまっ……」
レキは咄嗟に回避行動に移った。
しかし、遅い。
微細な破片を含め、石つぶての数は膨大で、とてもかわせるものではない。
「くっ……きゃああああっ!」
レキはまともに石つぶてをくらい、マシンガンに撃たれたかのように体のあちこちを震わせながら吹っ飛んだ。
「う、うぎゃああああああああっ!」
レキの叫びに合わせるかのように、タカラもまた絶叫した。
タカラは石つぶてをくらったわけではない。
それでも激痛を受けていた。
「……い、痛みは共有かよ……っ」
体は直接傷ついていないため、その痛みはすぐにひいていった。
神体の傷が消えたわけではないのに痛みが永続しないのは、マイスターが指揮出来なくなっては困るからだろう。
「そ、そうだ。レキは! 大丈夫か! レキっ!」
レキは地面に倒れ伏していた。
体のいたるところにヒビが入っている。
もしあと一撃でも食らえば粉々だろう。
「レキっ!」
駆けて行こうとするタカラを、ヨミーが遮った。
「対戦中の神体を直接手助けしてはいかんのである」
「そんなこと言ってる場合かよっ」
「場合である。恨むんなら自分の腕を恨むである。神体を傷つけたくないのなら自分の腕を磨くのが筋である」
ヨミーの言葉は冷たかった。
だが、正論だった。