カタカナ四文字の漫画雑誌っぽい
城のすぐ側。
テニスコートほどの広さの更地があった。
その両端には、テーブルのようなものが置かれている。
大きさはシステム学習机ほどで、水筒のようなものが三つほど手前についている。
「これ何?」
「スタンドですね。ここに私たち神体の素体をセットします」
「素体?」
「あなたがフィギュアと呼んでいるものです」
「ああ、なるほど」
レキが両手を翳すと、胸から淡い光と共にフィギュアがふわりと抜けだしてきた。
タカラはそれを受け取ったが、確かに自分の作ったものである。
「基本的に、素体を自由に取り出すことができます。或いは、この等身大の姿を解除して素体の状態になることもできます」
「なるほど。……で、これを、セットね」
スタンド中央はすり鉢状になっており、とりあえずその底の平らな部分に立ててみる。
「……何も起こらないけど」
「そうですね。ジャッジがいない状態では基本的には反応しません」
「ジャッジ?」
「はい。神体の対戦に際し、立ち会い並びに判定を行う方で……」
「吾輩であるっ!」
地面がもぞもぞと動いたと思ったらばっ、とそれが飛び上がった。
いや、それは地面ではない。
サンドカラーで塗装された布だった。
それが空中で翻ると、タキシードにマントというどこぞのアニメの美形キャラのような出で立ちの男が飛び出した。
一つアニメと違うのは、それがおっさんだという点である。
それもカイゼルひげという、明治時代のような顔だった。
「へ、変態だ……」
「変態ではない! 吾輩は人呼んで『流星ジャッジ』ヨミーであるっ!」
ヨミーは胸を張って言った。
「え? この人がジャッジ?」
「そうですよ?」
何か不思議なことでも? という顔でレキが見てくる。
「そう……なんだ……」
この世界では普通の人なのだろう。
地球なら間違いなく変態だが。
「あれ?」
やや離れた位置でなりゆきを見ていたエポナが声を上げた。
「どうしました?」
「ジャッジが来てるちゅうこつは、対戦があるっちゅうこつですばい!」
「あっ!」
レキも声を上げる。
ぽかんとしているのはタカラだけである。
「ふっふっふっ。無論、その通りである。スタンドに素体をセットした時点で対戦の要項を満たしているのである。ゆえに、対戦をさけることはできないのである」
「ま、待って下さい。確かにそれはそうですが、対戦相手がいないことには……」
「あっちを見るのである!」
ばん、とヨミーが指差した方向は林である。
誰も、いない。
「……」
変な空気が場を支配する。
「……そっちじゃなかった。……こっちである!」
今度指差したのは、反対側のスタンド。
そしてそこには、人影があった。
「おいこらジャッジっ! ボク様がスベったみたいになってるじゃないかっ!」
「知らんのである! 当方は一切関知しないのであるっ!」
思い切り胸を反らして言うヨミー。
「……威張るこつじゃなか気がしますけど……」
「ええい、とにかくっ! ボク様はトニール国のマイスター、マルサだっ!」
小柄でどこかひねたような表情の少年――マルサが叫んだ。
マルサはパチンと指を鳴らす。
すると地響きを上げて黒服の集団が現れた。
「ボク様の執事軍団さ」
格好つけるマルサだが……
「ひい、ふう、みい……十二人。ちょうど一ダースになっとーね」
「なんの意味があるんでしょうか」
「さぁ?」
完全に無視されたマルサはぷるぷると震え、
「うるさーい! とにかく! ボク様は凄い金持ちだ。そういうことが言いたいのだ」
「自分で言うか普通」
「わかってないなぁそれがどういうことか! すっごいお金かけて神体を作ってるのだ! 万年最下位のLVリバーの神体なんかが勝てると思ってんのぉ?」
マルサはけたけた笑った。
それを聞き、レキの身体がびくりと跳ねるのを、タカラは見た。
「これは勝負なんかじゃないのさぁ。貴様らはせいぜいボク様のウォーミングアップの相手なんだよ!」
マルサは懐から石の塊のようなものを取り出すと、スタンドにセットした。
「出でよ! 我が神体――スーパーグレートゴーレムっ!」
その声と同時に、スタンドが輝き、その前に虚空から「何か」が構成されていく。
それはやがて岩の塊のようになった。
『ヴぉおおおん』
岩の塊は声を上げ、体を開いた。
ゴーレム。
確かにいわゆるゴーレムである。
腕も足も、岩の塊にしか見えない。
「さぁ! 行くぞお!」
「ちょーっと待ったあ! その仕切りは吾輩が行うであるっ!」
ゴーレムをけしかけようとしていたマルサを遮り、ヨミーが無駄に大回転しながら飛び出した。
「キャラの濃い二人がバッティングしとるねえ」
エポナがしみじみ呟いた。
「なんかあいつらだけカタカナ四文字の漫画雑誌みたいだな」
タカラの呟きは、異世界の誰にも通じるはずがなかった。