トンデモ設定
「機動王ガンゾート――その盾、タイムキーパー。表面の時間が極端に遅れているため、いくら攻撃されようが破壊されるのは百年後だ」
「は?」
タカラの説明も、バインドには何を言っているのかわからない様子だ。
それはそうだろう。
『機動王ガンゾート』とは、日本で有名な(、、、、、、)高視聴率ロボットアニメである。
リアルに戦争を描いたいわゆる「リアルロボットもの」の世界に、荒唐無稽なヒーロータイプのロボット、俗に言う「スーパーロボットもの」のロボットがやって来て戦うというストーリーだ。
だが、重要なのはそこではない。
この作品はグッズとしてプラモデルを展開しているのだが、その人気が凄まじいのだ。
登場した全てのロボットのみならず、プラモオリジナルのロボットも販売され、そのバリエーションは1000をゆうに超える。
中でも主役機のガンゾートは特に人気が高く、何度もプラモデルが発売され、ファンの間ではその全長、重量はもちろん武器のスペックから型番まで覚えているのが当然なのである。
「レキ、武器も投入するぞ!」
「はいっ!」
タカラはもう一つ作っていた武装をスロットに入れた。
そしてレキの前に現れたのは、黒光りするライフルだった。
無論この世界にはライフルなどない。
「あの……これ……」
レキにはどう持つのかすらわからず、手の中でわたわたしていた。
「ああ。下の二つの突起を持つんだ。そして相手の方に筒を向ける」
「こうですか」
「うん。それでいい。そしてクロスボウの要領で狙いを定めて、引き金を引くんだ」
「引き金……? これかな?」
それをレキが引いた瞬間――
ぴきゅーーーんっ!
この世界に存在しようのない電子音(、、、)と共に、漆黒の光が放たれた。
「なっ……!?」
咄嗟にフリーダは盾で受けたが――
しゅごごごごごっ!
命中箇所が、渦を巻いて盾をえぐり取った。
浴槽の栓を抜いたかのように、あっさりと渦は盾の大半を奪い去る。
「そ、そんな……」
「バカな! これは正真正銘の神盾だぞ! こんな、簡単に……」
「ブラックホールスナイパーライフル。ガンゾートが最終話で使う最終兵器だ。命中したものを事象の地平面まで放逐する以上、防御できるものなんて存在しない」
無茶苦茶な兵器である。
何しろ周りはマシンガンなどで戦っている中で、ブラックホールをぶっ放すという荒唐無稽にもほどがある設定で、ラスボスすら一撃で消滅させた問答無用の必殺兵器なのだ。
「レキ! そのライフルの側面のレバーを倒すんだ。そしたらアンチマテリアルレーザーソードになるから」
「あんちまてりある? ……は、はい。わかりました」
レキが言われた通りにレバーを倒すと、銃口から緑色のビームが迸り、刀身を成した。
「迎撃しろフリーダ!」
「行け! レキっ!」
双方の神体が走り出す。
フリーダはゼプス・キャリバーを振り下ろすが、それはタイムキーパーに弾かれた。
その残光を、緑のレーザーが切り裂きフリーダに迫る。
「くっ……!」
フリーダはレーザーソードをゼプス・キャリバーで受けた。
瞬間――
その黄金の刃が、真っ二つに切り裂かれる。
「!?」
伝説を知る全員の目が点になる。
竜すら屠る神話最強の剣が、切られた?
ならば、あれは何だというのだろう。
視線は、その謎の剣に集中する。
アンチマテリアルレーザーソード。
物質には反物質という対の存在があり、互いに触れれば全てがエネルギーとなり対消滅という現象を起こす。
本来そんなものが存在すれば、その瞬間大気の分子に触れ対消滅を起こし、大爆発する。
その対消滅のエネルギーは1g同士の反応でも核爆弾に匹敵するほどだ。
この兵器は相手に触れれば対消滅を起こし装甲を破壊、のみならずその対消滅をエネルギー源にするというご都合主義極まるものなのである。
触れたものの構成原子を対消滅させる以上、これもまた防御不能の反則的兵器なのだ。
とにかくこれでレキは相手の武器を全て破壊したわけである。
あとはトドメをさすだけだが――




