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ガレキ  作者: がっかり亭
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アンダーゲイト

 この世界は、アンダーゲイトと呼ばれている。

 一〇〇の都市国家が存在し、四年に一度競い合うために大会を開く世界。

 それぞれの国が一つの神体を職人に作らせ、それに精霊を宿し、戦い合わせるのだ。

 今年はちょうどその大会の年。

 ……ということらしい。

「って言われてもなぁ」

 職人というのは自分のことだろうか。

 現実感はまるでない。

 しかし、タカラは貴賓室に通されていたのだが、そこのガラスの無いくり抜きタイプの窓から見える風景は明らかに日本のものではない。

 うっそうと生い茂る森林、石造りの住居。

杉らしきものもあるが葉の付き方が上下逆だ。まるで逆立ちしているように見える。

こんなもの人工的に作れるだろうか。

「これドッキリだったら間違いなくそのテレビ局潰れるな」

 部屋の中の調度品も、そこそこ高級そうな感じである。

 ただ、そんな高級なものを見たことがないタカラには、真贋はわからない。

 中世ヨーロッパの家具のような気もするし、江戸時代の小物のような気もする。

 どこかちぐはぐな印象もまた、この世界が本当に違う世界である証明のように思えた。

「ふぅん……あるんだなぁ。こんなこと」

 タカラは意外に落ち着いていた。

 彼はアニメキャラクターのフィギュアをよく作っていた。

 それはつまりアニメもよく見ているということ。

 異世界ファンタジーは、見なれたものだったのである。

「さぁて、これからどうなるやら……」

 レキはここでちょっと待っててと言い、どこかへ行ってしまった。

 全然知らない場所なので言われたとおり待っていたのだが、もう10分は軽く超えていた。

「おまたせ致しました」

 どこかイントネーションのおかしい声とともに豪奢なドアが開き、メイドが現れた。

 メイド、である。

「……やっぱ日本じゃないなここ」

 タカラはやっと実感がわいてきた。

 リアルメイドがいるのだから、ここは異世界だ。

 間違いない。

「どげんしたん?」

「うわっ!?」

 人生初の零距離メイドにタカラは思い切り驚いた。

「姫さまが待っとりますよ」

 オレンジの髪に、どんぐりのようなくりくりとした瞳――オレンジの髪と黒いメイド服はいま一つ合っていない――のメイドはタカラの手を引いた。

 なぜか九州の方言である。

「姫?」

「はい。我が主。LVリバーが国王代理ハセ姫です」

 貴賓室を出て、レッドカーペットが敷かれた長い廊下を超えると、また豪奢なドアがあった。

 それがごごごごご、と開き、大広間が現れた。

 大きなシャンデリアに、銀の燭台、宝石が埋め込まれた剣、虎の敷き皮、鹿の首のオブジェ……これでもかというほど豪華な部屋だった。

 その一番奥、これまた豪華で巨大な椅子があり、その大きさに反比例するかのようにちょこんと小さな人影が鎮座ましましていた。

 その隣にはレキも立っており、また家臣らしき人たちの姿も見える。

「姫様、お連れ致しました」

「うむ」

 小さな人影は仰々しく頷き、それから立ち上がった。

 立っても、小さい。

 だが極端に幼いというわけではないようだ。

 年は15、6ほどだろう。

 クラスで身長順に並んだ時に一番前に来るような、そういった背の低さである。

 宝石が散りばめられた王冠の下、その青く澄んだ髪は肩甲骨の先まで伸びさらさらと流れ、純白の生地に金糸で刺繍が施された絢爛たる衣装がきらきらと輝く。

 なるほど、まさしく姫といった出で立ちである。

 どこか猫を思わせる眼は、タカラを値踏みするかのように上下に移動した。

「……」

 姫は何も言わない。

「?」

 タカラが怪訝そうにしていると、くい、くい、と例のメイドが袖を引っ張った。

 そして、

「姫様はあなたが名乗りを上げるのを待っとるとよ。やけん、名乗らんと姫様も名乗れんとです」

 と耳打ちした。

「なるほど……えーと、どうも、夢野宝良です。タカラと呼んでください」

 タカラはとりあえず気をつけして言った。

「うむ。余はハセ。ハセ・ロング・バレー・リバー十三世。苦しゅうない。楽にせよ」

 たいそうな言い回しだが、声に威厳はいま一つない。まるで学芸会の王様役のようだった。可愛らしすぎるのだ。

「そなたがここに呼ばれた理由はわかっておるか?」

「ええと、職人とかなんとか……」

「そう。職人、すなわちマイスター。マイスターは神体を作り出す。それに精霊が宿ることにより、生を成す。そしてマイスターは神体を操り、神体大戦に挑むのじゃ。既に開会しておるからな。いつでも参戦できるぞ」

 ふんぞり返ってハセ姫は言った。

「えっと、それはつまりおれに戦えと?」

「そうじゃ。マイスターとなるは最高の栄誉。存分に喜ぶが良い」

「辞退します」

「は?」

 その場にいた全員が固まった。

「いやあ、戦うって無理です」

「な……な……」

 ハセ姫は言葉が出ず、口をぱくぱくさせていた。

「自分はフィギュア作るのが趣味なだけなんで……」

「待って下さい!」

 そこに割って入ったのはレキだった。

「そ、それじゃ私はどうなるんです?」

「え?」

「私たちは一蓮托生じゃないですか」

 目に涙を浮かべ、タカラにすがっていく。

「ちょ、だから、何が何だか……」

「あなたがいないと私は戦えないんです。不戦敗になってしまいます。……そしたら……そしたら……っ」

 言葉を詰まらせ、必死の視線を向けてくるレキに、

「わ、わかった。わかったから、泣かないでくれええっ」

 タカラは半ば叫ぶように言った。

「それでは戦ってくれるのですね。ああ、よかった。ありがとうございます」

 レキは満面の笑みでタカラの手を取りぶんぶん上下させた。

 タカラは成すがままだ。

「もういいです……どうでも」

「フン、愚図が。精霊様のために戦えるのだぞ。誇りに思うことこそあれ、辞退などありえん」

 鋭い声がした。

 その方向には一人の鎧騎士が立っていた。

 女性のように長いみどりの黒髪に加え、背もすらりと高い。

「なんなら私めが斬り捨てても……」

「ヤミタ。言いすぎですよ。タカラ様は突然のことで驚かれているのです」

「はっ……精霊様がそういうのであれば。……命拾いしたな駄犬」

「ヤミタ!」

 レキに叱責され、ヤミタは後ろに下がった。

「はっ……しかし、もしその時(、、、)が来ましたら遠慮なく声をおかけ下さい」

 懲りずにそう言ったので、ヤミタはその場のほぼ全員から睨まれた。

「ええと……で、結局おれは何をすれば?」

「そうですね。では姫様……ってあれ?」

 レキの言葉にハセ姫の反応はない。

 心なしか、白目のような気がする。

 レキがさっさっ、とその眼の前で手を横切らせてみた。

 反応は、ない。

 気不味い沈黙が流れ、

「ひっ、姫様――!?」

 例のメイドが血相変えて飛び出した。

 それからハセ姫を抱き起こし、手なれた動作でその背をどん、と叩いた。

「はっ……!」

 ハセ姫の目が元に戻った。

 意識を失っていたようである。

「お、お主は、マ、マイスターの栄誉をなんと思っておる!」

「姫様、もうそん話は終わりましたよ。タカラ様も同意されとります」

「へ?」

 にこりとして言うレキに、ハセ姫は目を丸くした。

 どうやらタカラが辞退すると言ったショックで気絶していたらしい。

「……姫様、だからきついコルセットをしとったらいけん()うとったでしょう」

 メイドがハセ姫の腰回りを触って言った。

「そ、それは……公式の場だし……」

「まだ早かです。そげなこつしとると、将来変な体型になってしまうとですよ。それに、今みたいに気を失ってしもうたらどげにもならんでしょう」

「……ふんっ」

 姫はむくれてそっぽを向く。

 なお、中世ヨーロッパでも貴婦人はコルセットの締めすぎでよく気絶していたそうな。

「えーと、だから、おれは何をすれば?」

 タカラは半ばあきれ顔で言った。

「そうじゃな。まずは神体の戦いに慣れてもらわねばな。城の傍に鍛練場がある。そこを使うとよかろう。……エポナ、案内せい」

「はい」

 くだんのオレンジの髪のメイド――エポナが元気よく答えた。

「それじゃ行くばい」

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