何か
胸部を作る際、型にシリコンを流しこむ溝をデザインナイフで彫っていた。
その時に、型に食い込むなりして替刃が外れたのを、睡眠不足から気づかなかったらしい。
そしてそのまま成形されたことで、胸の中に埋まっていたのだ。
レキは、胸を貫かれた際、存在に気づいたのだろう。
「うあああああっ!」
フリーダの体に出来た亀裂に、レキは拳を叩き込む!
べぎん!
ごぎゃっ!
「かはっ……!」
「ぐおおおおっ!」
フリーダの亀裂はどんどん広がり、自重で二つに分たれそうになる。
趨勢は決した。
タカラがガッツポーズし、レキが泣きそうになり、姫が気絶しそうなほど興奮し、それを見てエポナがはらはらし、ヨミーが試合を終わらせようとした――
が。
「まだだ! こんな所で終われるものかよ!」
バインドは叫び、マントの中から人形を取り出した。
それはフリーダの素体だった。
バインドは素早くスタンドの素体とそれを入れ換える。
「転移せよ! フリーダ!」
「イエス。マイ・マイスター」
「何だと!?」
ルールに明るくないタカラですら思わず声を上げていた。
壊れかけたフリーダの素体が蛍色に輝き、その光が塊になるとスタンドのそれに乗り移った。
瞬間、フィールド内のフリーダの神体の傷が消滅する。パージしたはずの鎧もまた元に戻り、はねた泥すら消えていた。
「転移完了」
「……ふん。まさか最下位相手に奥の手中の奥の手を使う羽目になるとはな」
「こんなのアリなのか!?」
「そうじゃ! こんなことバカげておる! ジャッジ!」
「う、うぅむ……」
振られたヨミーは顔を歪める。
「1・対戦により神体が破壊され、精霊の器がなくなった場合負けとなる。――つまり、破壊寸前に別の素体へ移ることは禁止されてはいない」
「確かにルールに含まれていないであるが……流石にこれは……」
これは、神体大戦そのものを揺るがす行為である。
何しろ究極的には半永久的に決着がつかなくなってしまいかねないのだから。
そして各国が頭をひねり、工夫を凝らして生み出し競う神体のアイデンティティを無意味なものにしてしまうとも言える。
性能が良いものではなく、数が多い方が勝つというのであれば、もはやそれは工夫でもなんでもない。
何より、通常破壊寸前まで行けば、その激痛にマイスターが耐えられるものではない。
ゆえに、思いついたところで実行する者などいなかったし、出来なかったのだ。
つまり、バインドは破壊される痛みにも耐え続ける覚悟をしていることを示している。
それほどの覚悟、もはや彼を止められるものなどいようはずがなかった。
「この試合の後でどのように罵られようが構わん! 己は負けるわけにはいかんのだ!」
「ジャッジ!」
姫が叫ぶが、ヨミーは試合を止められない。
「む、無理である。現行のルールではどうにもならんのである……」
「そんな……こんなもの、卑怯すぎるじゃろう……」
「何とでも言うがいい! だがこの場は勝たせてもらう!」
バインドはまたしてもマントを翻し、中から剣と盾を取り出した。
金色の刃を持つ銀の剣。鍔には竜が意匠され、荘厳な輝きを放っている。
鏡のように磨き抜かれた盾。しかしその輝きが映しているのは、この世の風景ではない。花が咲き乱れる理想郷を映し出している。
「神剣ゼプス・キャリバー、神盾エイ・ジ・アース――英雄ブリキの持つ武器の中でも最高ランクの神宝だ。これで己が持つ全ての手は出しきった! もはやお前たちを侮らん! 最大の宿敵として、全力で叩き潰す!」
バインドはそのまま二つの武具をスロットに投入した。
同時にフリーダの両手に、それぞれ剣と盾が出現する。
「我が神体フリーダの最強形態。これに勝てる者などおらぬ!」
バインドの目は、ただ真っすぐにタカラを射抜いていた。
「お前……」
タカラ自身、前回はヤミタの乱入がなければ負けていた以上、文句を言えないし言うつもりもない。
しかし、違う何かが口をつきそうになる。
だが、それは言葉になることはない。




