億分の一
「反則ではないである。但し、神宝級は制御も難しい。本来ブリキにしか使えない代物であるからな。使い方を誤れば本人もただでは済まんである」
ヨミーはいつの間にか元の調子に戻っていた。カイゼルひげをさすりながらのんきに言う。
「……そうだ。こちらにもリスクがある」
「何!?」
バインドが右腕の袖をまくり上げた。
すると、その腕は血管が浮かび上がり、真っ赤に腫れていた。
同じようにフリーダの右腕にも微細なヒビが入っている。
「一投でこれだ。何投も放てるものではない」
ただの槍を投げてもあれほどの爆発力はない。
それはとりもなおさず、この槍の存在そのものが破壊力をもっており、その破壊力の塊を投げることで対象を爆砕することを示している。
即ち、持っているだけでもダメージを受け続けるのだ。
そして、投げる瞬間にはその数倍の負荷を持ち手に与える。
「だが、二投の必要はない」
くつくつとバインドは笑った。
「く……」
もはや池はなく、ぬかるんでいるとはいえそれはレキに対しても同じこと。
蓮の上のレキの有利はなくなった。
「仕留めろフリーダ」
「イエス。マイ・マイスター」
フリーダが疾走する。
レキはよけようとしたが、ぬかるみに足をとられて上手く動けない。
普通に戦ったのなら、双方の速度はほぼ互角だろう。
しかし、一歩で長距離を移動するフリーダと、長距離を小刻みなステップで移動するレキ、結果としてのスピードは同じでも、このぬかるんだ足元では後者の方が明らかに不利。
レキの方がぬかるみの抵抗を受ける回数が多く、ロスが大きい。
二人の距離はやがて縮まり、
「これで終わり」
「くうっ!」
フリーダの剣の間合いに到達した。
レキはその一振りをかわしたが、
「隙だらけだ」
フリーダの回し蹴りがレキの腹部に命中した。
「きゃあっ!」
その衝撃にスパチュラを取り落とす。
「ぐっ……!」
タカラもリンクした痛みに呻いた。
単純な蹴りのようで、しかしそれは格闘家のそれに匹敵する。
痛みに耐えたとしても、すぐに動ける類の衝撃ではない。
その間にフリーダはレキの肩を掴み、そのまま押し倒していた。
「これでもう外さない」
フリーダは真上から剣をレキの胸に突き刺す。
「ああっ……!」
シリコン製の胸は、その弾力から刃の侵入を容易ならざるものにしていた。
切れ目が入っても、左右からの圧力で閉じてしまうのだ。
ゆえに、フリーダはぐりぐりとねじ込むように突き入れる。
「あああああっ!」
「ぐああああっ……!」
「苦しいか。ならば苦しめ。我がマイスターの苦悩の億分の一でもな」




