ぴょろりー
ぴょろりー、ぴょろりー
タカラの耳におかしな鳴き声が聞こえてきた。
「……あれ……?」
目を開けたが、そこは自分の部屋だった。
「ああ、そうか。このところろくに寝てなかったから、オチたんだな」
ぽむ、とタカラは手を叩いた。
が。
ぴょろりー、ぴょろりー
声は聞こえ続けていた。
「なんだ?」
どうやら窓の外から聞こえてきているようである。
閑静な住宅街に朝っぱらからこんな調子っぱずれな鳴き声がすることなどまずない。
宣伝カーでも来ているのか、タカラは窓を開けた。
「ぴょろりー♪」
「わぷっ!」
顔面に何かが突っ込んできた。
緑色の、まふっとした塊。
「ぴょろりー、ぴょろりー」
その塊が鳴いていた。
掴んでみると、バレーボールほどもあるふとったひよこだった。
「な、なんだこりゃ」
「ぴよぷーです」
「ぴよぷー?」
「ひなの状態のまま大きくなっていくLVリバーの国鳥〝ひよこげるげ〟で姫のペットですね」
「へえ。ぴよぷーか。おーよしよし。お前食いすぎだぞぷよぷよしやがって……って」
そこで、タカラは気づいた。
自分は今、誰と喋っていたのだろう。
タカラは首を90度回し――
「こんにちは」
「こ、こ、こ……」
そこには、女の子がいた。
彼女はにこりと、微笑んだ。
後ろで纏めた長い桃色の髪、下品にならない程度に露出の多い服、部分部分を覆う金属鎧。
その姿は――まさしく彼の作ったフィギュアそのものだった。
「おれ、いつ1分の1スケールの作ったっけ……」
「何ぼけてるんですか」
「おお。ボイス機能まで?」
「だーかーらっ」
ぽこむ!
「うおぅっ!?」
女性のパンチが炸裂した。
「目、覚めました?」
「は、はい」
そして、またにこり、と彼女は笑った。
その笑みを向けられると、タカラも頬が緩んでしまう。
「と、ところで君は?」
「当ててみて下さい」
「と言われても……」
答えはほぼ無限だ。
わかるはずはないのだが……。
「あなたにしかわからないんです」
少女は、真っすぐ見つめてくる。
その眼差しに、タカラは吸い込まれそうな感覚を覚えた。
「そうだなあ……じゃあ……レジンキャスト……レジ……キャ……レキというのはどうだろ」
「そう。レキ。それが私の名前」
少女――レキは、満面の笑みを見せた。
それからタカラの両手を取り、ぶんぶん上下させた。
「レキ……レキっ」
にこにこしながら自分の名前を連呼する。
「あの……で、どちらさま?」
「もう、あなたが作ったんじゃないですか」
「へ?」
何を言っているか、わからない。
「あなたが私の波長を捉えて、神体を作り上げた。だから私はここにいます」
やっぱりわからない。
「さぁ、行きましょう!」
「えっ?」
レキはタカラの手を取り、つかつかと窓に向かう。
そこはさっきぴよぷーが飛び込んできた時のまま開け放たれていた。
「あれ?」
おかしい。
外の景色が変だ。
窓の外は隣の家の壁だったはず。
しかし、見えるのは、薄暗い石造りの何か。
「これは一体……」
「LVリバー城の地下聖堂ですよ」
「地下聖堂? っていうかLVリバーって何を言って……」
窓を乗り越えた先には、無数の蝋燭で照らされる巨大な広間があった。
「なんだこれ」
振り返ってみると、その大広間のド真ん中に、自分の部屋がぽつんと、まるでコンテナのように鎮座していた。
「どゆこと?」
「ようこそ。LVリバーへ。マイ・マイスター」