独り言
もう一人の男は、トマトみたいに潰れたタカラの頭を想像したのだろう。片手で顔を覆っていた。
「ぎゃあああっ!」
しかし、その想像は外れることになった。
叫び声を上げていたのは、スキンヘッドの男の方だった。
男は足を押さえて地面を転がりまわった。
「痛ええっ! チクショウ!」
「何をやっている……!」
男の前に立っていたのは、ヤミタだった。
片手には鞘に納められたままの剣が握られている。
どうやらその鞘で男の脛を打ったようだ。
「てめえ! ぶっ殺してやるっ!」
「驕るな下郎!」
掴みかかろうとする男を、ヤミタの鞘が一線し――いや、実際は複数回攻撃されていたがその場にいた誰も見切れなかった――男は吹っ飛ばされた。男はそのまま気絶している。
「おい、貴様」
「ひっ……」
スキンヘッドの男を置いて逃げようとしていたもう一人の男を、ヤミタが呼びとめる。
「こいつを連れていけ」
「はっ、はいーっ!」
男はスキンヘッドを引きずるようにして路地裏に消えて行った。
それを確認し、ヤミタはタカラの方を向いた。
だが、助け起こそうとはしない。
「どうした。何があった」
「……」
タカラは答えず、よろよろと起きあがる。
「ふん、言いたくないか」
「……礼は、言っとくよ……」
タカラはそのまま後ろを向き、この場を去ろうとする。
「ではこれは俺の独り言だ」
ヤミタもまた後ろを向く。
「町での評判――姫様も精霊様も知っているぞ」
「……!」
「ふん……貴様もあんな眼が出来たか。……認めてやるよ。――少しだけだがな」
「ヤミタ!」
ヤミタは振り向かずに歩いて行く。
「おれは決めたぞ!」
タカラは、ぼろぼろのまま、叫んだ。
「おれは、絶対に優勝する! あいつを、優勝させる!」
それでもヤミタは振り向かなかったが――
タカラは、ヤミタがどんな表情をしているのか、なんとなくわかった気がした。




