ずきっ
LVリバーの城下町。
土壁の家々が建ち並んでいる。
が。
「……なんか、寂れてないか?」
以前城の窓から見た時は遠目からでわからなかったのだが、近くで見るとかなり建物に年季が入っている。
建材は劣化し、ヒビが入り、ところどころ崩れて芯がむき出しになっていた。
町のあちこちに、浮浪者らしき人々。そしてストリートチルドレン。
「なんだこれ……ここって、城下町だよな……?」
もうスラムのような雰囲気である。
とても王のお膝元とは思えない。
とりあえず、タカラは比較的治安の良さそうな商店街に行ってみた。
商店街、とはいったものの、畳んだ店も多い。
そして品揃えもよくない。
タカラは、姫から支給されたそれなりの額のお金を持ってはいたが、なかなか欲しいものに巡り会わなかった。
そんな中、雑貨屋で品定めをしていると、店の外で話している声が聞こえて来た。
どうやら、町人同士が立ち話をしているらしい。
「……まったくよぉ、全然生活よくなんねえよなぁ」
「そうだな。こないだも急に祭りだとか言って、金かかったしな」
「ふざけた話だぜ。そのくせ王宮なんか、めちゃくちゃ豪華らしいぞ」
「ああ。何か外国にバカにされないためとか言ってたな。それこそバカな話だぜ。もっとほかにやることあるだろうに。だからバカにされるんだ」
「しかもそんなムダなことやる度に俺らから税金搾り取られるんだ。ざけんじゃねえチクショウ!」
「くそ……俺も他の国に生まれたかったぜ。こんな万年最下位の、おまけに無能な姫の国なんかじゃなくな……」
「まったくだぜ!」
別に、タカラは聞こうとして聞いたわけではない。
内容も、あまり気持ちのいいものではなかった。
言っている内容も、そう的外れではない。
それでも知人が悪く言われて、胃がむかむかしてくる。
だが、いつしかその会話に聞き入っていた。
「そういや、二勝目あげたらしいぜ」
「へえ。もう何十年ぶりなんだろうな。せめてもう少し上の順位まで行って欲しいよな」
「へっ、ムダだろ。どうせ待遇がよくなってもあのバカ姫だぜ?」
「かもな。……何にしろ、あのダメ精霊には困らされたもんだが、やっとマシになったなぁ」
ずきっ、
タカラの胸に痛みが走った。
そうか。
あいつが、勝ってあんなに喜んだのも――
そして喜ぶ人たちを見て寂しそうにしていたのも――
「けっ、最初だけかもしれねえぜ。期待させといていつもみてえにどうせ負けるんだ」
「そうだな。期待するだけ後の落胆がでかい。今まで勝てなかった雑魚精霊が急に順位上げられるもんかよ」
ぎり、
本人も驚くほど、タカラは奥歯を噛んでいた。拳を握りしめていた。
「お前ら……」
気がつくと、タカラは店の外に出て、男たちの前に立っていた。
「なんだてめえ」
男たちは、思いのほか屈強そうである。
特に片方は筋骨隆々の上スキンヘッドで、プロレスラーだと言われてもそのまま納得できそうなほどだ。
だが、そんなことは関係なかった。
「お前ら……あいつがどんな気持ちで戦ってると思ってる……!」
「はぁ?」
「こんな奴らのために……あいつはっ……」
「因縁つけてんのか? このモヤシ野郎」
スキンヘッドの男がぱきぱきと拳を鳴らす。
「うるせえっ!」
タカラは殴りかかった。
だが喧嘩などしたことがないタカラの拳などが、荒くれ者に当たるはずもなく。
「バカが」
重い拳がタカラの腹に突き刺さった。
「げふっ……!」
倒れ込んだタカラの頭を、もう一人の男が掴んだ。
「なぁ、兄ちゃん、喧嘩ってのは相手を見て売りな」
その男も加わり、殴り始めた。
タカラはサンドバックのように一方的に殴られ続ける。
暫く殴られ、ぼろぼろになったタカラは再び倒れ込んだ。
「まったく、弱えくせによぉ、わけわかんねえぜ」
男たちは立ち去ろうとした。
だが、
「……待てよ」
その足を、倒れたままのタカラが掴んだ。
「あ?」
「あいつを、バカにしたことを取り消せっ……」
「何言ってんだてめえ。死にてえのか」
「取り消せっ!」
タカラは、倒れたまま、男を睨んだ。
もし、この時にその男がもっと理性的な人物だったならば、その瞳の意味に気づいただろう。
触れてはいけないものに触れた、その眼。
強さ弱さなど関係なく、決してさせてはいけない眼(、、、、、、、、、、、、)。
死線をくぐり抜けたものですら、肌がそばだつほどの視線。
だが、男はそんなことに気づかないほどに、鈍感だった。
「うぜえんだよ! そんなに死にたきゃぶっ殺してやらあ!」
「お、おいそりゃ流石にまずいぞ」
「うるせえ!」
スキンヘッドの男は激昂し、足を振り上げ、それをタカラの頭めがけて一気に振り下ろした。




