沈黙
「おうマイスター殿。呼び出したのは他でもない。実は対戦の申し込みがあったのじゃ」
タカラが謁見の間につくなり、ハセ姫はそう言った。
謁見の間には、エポナもいるし、ヤミタもいる。
そしてもちろん、レキの姿もあった。
だが、レキは目があってもむくれてそっぽを向いてしまう。
「……」
「む。聞いておるのか?」
「あ、はい。……で、誰からなんです? まぁ、聞いてもわかんないんですが」
「申し込んできたのは昨年四十九位じゃったフビト国のマイスター、ブルーマークじゃ」
四十九位。
全部で一〇〇カ国であるから、半分よりちょっとだけ強い、といったところだろう。
「この間のマルサは何位なんですか?」
「あやつの国は……ヤミタ」
姫が顎を向けると、後ろに控えていたヤミタがつい、と一歩前に出る。
「二十七位です姫様」
その一言だけ言ってヤミタはまた後ろに下がった。
「だ、そうじゃ」
「へえ……だったら四十九位って大して強くないんじゃないか?」
「うむ。確かトニールより下だったのは覚えておったからな。もう受けたぞ」
「な……!?」
にこりとして言った姫だが、ヤミタは絶句した。
「どうしたのじゃヤミタ?」
「姫様……失礼ながら、申し上げます」
ヤミタは額の汗をぬぐいながら、
「トニールが上位だったのは前回のマイスターが別人だったからです。あのボンボンがマイスターになったのは今年から。ブルーマークは前回初出場でその順位でした。それもその前の年は八十八位でして、それからのこのランクアップ……実力はマルサなどより遙かに上です……!」
絞り出すように言った。
「何じゃと!?」
流石に姫も驚き、声を上げた。
「そ、そんな……ぶくぶく……」
そしてそのまま、また泡を吹いて気絶してしまった。
「だから、コルセットはやめるごつ口を酸っぱくしちから言うたのに~」
手なれた手つきでエポナが気つけをすると、
「……はっ」
姫はあっち(、、、)から帰って来た。
「……な、なんにせよ、もう対戦は避けられぬ。ヤミタ、何か情報はないのか?」
もう慣れているせいか、姫はとくにリアクションもなく話を続けた。
「……そうですね。ブルーマークは世界で唯一ゲル状の神体を操るマイスターのはずです。前回大会はそれで序盤は連戦連勝。しかし、後半に対策を施され何とか勝ち越したものの最終的には中ほどの順位だったのです」
「対策ってなんだ?」
「貴様には教えてやらん」
タカラの問いにヤミタはそっぽを向く。
だが、レキの助け船はない。
「こら。ヤミタ! お主は何でそうマイスター殿に突っかかるのじゃ?」
「……理由などありません。強いて言えば、馬が合わない……ただそれだけのことですよ」
「馬鹿者が。どうして男とはそう下らぬことに固執するのかのう。……もうよい、ならば妾に教えよ」
「はっ。前大会でスライムは物理攻撃に滅法強いものの、熱に弱いことが発覚しまして、炎系統のアイテムをスロットに投入する相手国が続出したのです」
「よう、そげに知っとるねえ」
半ば呆れるようにエポナが呟いた。
タカラも内心思っていたのだが、またキレてきそうだから言うのは止めた。
「敵を知り己を知れば百戦危うからず……騎士の嗜みだ」
「ふむ。なんにせよ、ならばこちらもその対策をすれば良いだけのこと」
「果たしてそう上手く行きますでしょうか。自分が考えますに、ブルーマークは相当なやり手。おそらく耐熱加工などの対策は施してきているのではないかと……」
四年もあれば、当然その時間はある。
会議は沈黙に包まれた。
その静寂の中で、タカラはふぅ、と軽く溜息をついた。
「要はやるしかないってことだよな」
結局はその一言に集約されるのだった。
そして、戦うのはタカラと、レキだ。
二人は、喧嘩をしているわけでもないのに、話すきっかけを得られず会話もないまま決戦の舞台となる丘に向かったのだった。




