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畢竟に咲く赤い花  作者: 玲瓏
第二章
17/29

前田より

 ――そうですね。あの面談以降、俊君の心は変わっていったと思います。あれはよかったなって。長年教師をやってましたが、あれ程成功したことはなかったなって今でも思ってますとも。結局、残念な結果に終わってしまったんですけれどね。あの面談がなかったらもしかしたら、まだ生きていたかもしれないですし。彼の人生に大きく影響を与えてしまった事は、十二分に承知しております。

 心が変わった、といいましても、彼はもともと良い子でしたよ。風邪で休んだり、怪我で早退したりはあったけど、遅刻は無かったし、その数だった年に一、二度でしたからね。今ではほとんどの子がそうでしょうけど、私からしてみればそれだけでもすごい事だと思いますよ。私の年代はそりゃ、無断欠席なんてしょっちゅうでしたからね。腹痛いって仮病使ったこともあったもんです。

 何が変わったかって言われると、そうですねえ。今まで以上に友達とも仲良くしてて、今までよりも優しくなっていたというのが印象でしょうか。

 いや、これすごいことだと思いますよ。彼は劣等感に敏感なところがありましてね、私は夢を持つだけで周りよりすごいことだぞ、と誰よりも褒めてやったんです。すると、大体の子は周囲の子を見下したり、馬鹿がうつるとかいって孤立したりする。だけど彼は違ったんですねえ。

 ……なんて、良い思い出ばかり語るとまるで讃えてるみたいに見えますか。

 ですが、私はそれで良いと思うんです。死者に対しては、あれが良かったって言ってやるのが一番の供養だと思ってるもんですから。今さら悪評など言ったところで、どうにもならんですし、可哀想ですわ。頑張って生きてきたんですからね。

 悪評はありませんでしたよ、そりゃ評判良くもなりますとも。私の受け持ったクラスは良いクラスでね、イジメとかはなかったんですわ。気付かなかっただけ、なんて言いたくなくてね、証拠に暗い顔しとる人だれもいなかったんですよ。今でもそう思いますよ。俊君にいじめられる点があるかないかと言われれば、ないですからね。

 良い評判はそうですねえ。落ち着くとか、彼はすごいとかですかね。ほら、ゲーム作ってたでしょう? だからすごいって言われてたんですね、当時は。今じゃ専門学校とかもあってそりゃそこらへんにいる男児だとは思いますけど。いやいや、もちろん私はその子らも立派だと思っとります。

 彼は面倒見が良い所がありましたかね。ほら、集団下校っていって、地区ごとに集まって帰るなんていうのありませんでしたかね? あれ、僕はちょうと水染家の地区の担当にあたりまして、弟の拓也君とも面識があるんですわ。集団下校の様子なんか見てると、拓也君をたしなめたり、かといって叩いたりすることなく仲良さそうな雰囲気があったもんですから。

 失礼、ちょっとお茶を。

 それで、私としましても嬉しかったんです。今だから言えることなんですけどね、私は俊君に贔屓してる節がありまして……これ、誰にも言わないでくださいよ。彼の評判が良いのは、私にとっても嬉しい事だったんですね。

 ちょっとすみません、ハンカチを。

 …………。

 それでね、今でも卒業アルバムは家にあるくらい、あのクラスはよかったんですよ。俊君が死んだって聞いた時、私はショックで倒れそうでしたね。何かしてやれなかったのかって。俊君は僕に頼ってくれてもよかったんじゃないかなって。

 …………。

 本当にお気の毒でした。彼に何があったのか、私も知りたいくらいです。何度も良い子って言ってしまいましたけどね、本当にその思い出しかないんです。五年生、六年生、二年やったんですけど。叱った思い出もあります。でも、叱ったらちゃんと二度と同じことはしないから、結果的に良い子になったんです。評価が。

 何をどうして叱ったのかは覚えとりません。申し訳ないです。

 できることなら、もう一度あの年度に戻って、あのクラスで授業がしたいって思ってます。それくらい、私の人生にも大きく影響したクラスで、俊君も私の人生を変えてくれた子ですから。

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