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畢竟に咲く赤い花  作者: 玲瓏
第二章
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オリジナルを求めて

 弟の誕生日までに作らなければならない、という使命感が生まれて躍起になって教科書を読み進めていった。多少理解が及ばなくとも、復習すれば大丈夫。時に学校に本を持っていき、休み時間等に熟読することもあった。友人は興味深そうにしていたが、ゲームを作っていることは秘密にしていたので何も言わなかった。

 先生は本を見ただけで理解したようだった。塾の教科書とは違って、市販で売られている教科書だということも見抜き、友人に秘密にしている事も見抜いている。

 本を読んでいる時、がんばれよ、と声を掛けてくれたのはやる気が高まった。

 もちろん、本に夢中になりながらも勉強は欠かしていないし、弟と遊ぶ時間も奪っていない。

 三ヶ月経ち、ようやく本の内容を全て終えた。母のパソコンの事を考え作ったプログラムは小さい容量でも消しながら進めてきたということもあり思い出は残っていないが、復習が不要な程にまでなった。

 さて、じゃあ早速ゲーム作りだ! 僕は大きなゲームではなく、教科書にあるような簡単な物をまず自力で作ろうとパソコンのキーボードを売っていった。タイピングの速度が三ヶ月間の間に上がった気がして、一石二鳥だと喜んだ。

 もぐらたたきゲームが完成。マウスで画面上に出現したモンスターをクリックして倒し最後に得点を出すという、極めて簡単なゲームであったのに、完成には一日もかけた。ゲーム自体は五時間半等で仕上げたが、残りはバグとエラーとの戦いだった。

 予想通りの結果だ。教科書にもゲーム作成には根気が必要と書いてあったし。

 今度は教科書に載っていなかったゲームを作ろうと、作ったプログラムを消してまた白紙の画面に戻った。

 作ろうと思っているのはアクションゲームだ。例えば、ロボット。ロボットは銃と剣を装備して、入れ替えて攻撃していく。ロボットの画像はネットから持ってくれば良いだろう。

 いざ作ろうとすると、最初の十行程だけ書いて指が止まった。

 どう作っていけばいいのか分からない。

 キャラクターを動かしたり、敵を出現させたり、弾を発射したりさせることはできる。しかし、武器の持ち替えの方法は? 装備の欄や、銃弾の数の減らし方、画面への表示の仕方は? マップやアイテム欄への画面表示方法は? 敵の体力の設定方法は? 

 ステージの作り方は?

 そもそも当たり判定という概念も必要ではないだろうか。

 全て教科書には載ってなかったことだ。つまり、応用ということになる。いやいや、あくまでも僕が読んだ本は入門書だ。僕の理想が高すぎて、まだそのレベルにまで及んでないのかもしれない。

 たった一冊の本を読んだだけでは、ゲームは作れない。

 僕はすぐに一階にいる母の元へ向かった。

「母さん、ゲームを作る本もう二冊くらい欲しい」

「一冊じゃ足りないの?」

 母は夕食の後片付けをしており、キッチンで水道を働かせながら皿をスポンジで擦っていた。先ほどの夕食の、カレーライスの香りがまだ残っていてまた腹の音がしそうだ。

「読み終わったから作ろうと思ったんだけど、まだ勉強が足りないみたいなんだ。この前買ってくれた奴はまだ初級だから、今度はもう少しレベルの高いのが欲しい」

 母は渋るように「そうねえ」と言葉を出し、すぐに続けた。

「まだあなたは小学生なんだから、これ以上を目指すのは一旦やめた方がいいんじゃない? そもそも今あの本読み終えたって、すごいことだと思うわ。これ以上レベルを高くしても疲れるわよ」

「勉強の方は大丈夫だよ」

 母が、学校の勉強の事で心配してるのではないかと思って先手を打った。

「わかってるわよ。テストの点数も好調だし、私は学校の勉強を心配してるんじゃないの」

「じゃあ何を心配してるの? お金が足りないなら安くてもいいし、一冊でもいいよ」

「お金じゃないわよ」

 母が言いにくそうにしている理由を知りたかったが、尋ねる前に母がこう切り出した。

「中学に入って、生活に慣れてきたら、とかどう? 中学は世界が広くなるから、もしかしたら俊君と同じようにゲームを作る仲間がいるかもしれないわ」

「そこまで待てないんだ。拓也に、誕生日までにゲームを作るって言っちゃったから」

 あらあら、と母は苦笑した。

「早く直した方がいい癖ね。難しい約束をするっていうのは」

「でも、しちゃったから取り返せないや。本が欲しい!」

 両手を合わせて僕は懇願した。

 僕がここまで強請ることはあまりなかった。赤ん坊の頃は分からないが、覚えてる限り強く申し出るのは今日が初めてだ。

「分かったわ。買ってあげるけど、分からないって思ったらすぐに諦めること。それと、分からない漢字とかが出てくると思うけど、そしたらすぐに辞書で調べること。いい?」

「うん、わかったよ!」

 強く出たら母も折れてくれることが分かったが、悪用しないようにそっと心の中に秘めておくことにした。

 そして日曜日。土曜日は母が用事があって夜までいなかったので、一日中復習をしていた。

 この前行った本屋の、同じコーナーへ一直線に足を運んだ。今度は父も一緒だ。行く気がないように見えたが、母の力で来ることになった。父はあまり本を読まないので、良い機会だからといって読ませようとしてるらしい。父は小説のコーナーへ向かった。

 その日は、結局一冊だけ買ってもらうことになった。なんとその一冊が、最初に買った本の二倍の値段だったからである。さすが中級難易度だ。

 それでいて、父はSFを手に取ったらしい。二百ページ位の簡単な文庫本であった。

 帰りはファミリーレストランで食事を取ることになった。サッカーの習い事をしている拓也には申し訳ない気持ちになりながらも、ハンバーグとライスの大を注文した。

「よく食べるなあ。育ち盛りか!」

 という父も、ラム肉のステーキを頼んでいる。母は健康を考えて野菜も注文した。多分、父と僕に食べさせるつもりで頼んだのだろう。

 窓際の席に座ったが、昼時のレストランは曲も落ち着いていて居心地がよかった。夕食時になれば他の親子連れ客が増え騒がしくなる。母はそういった環境が好きではないと語って、夕食にここに来たことは一度もない。僕は友達と一度だけ来たことがあるが、食事に集中できなかった事を覚えている。

 大きな窓は、外の様子を上手に映していた。交差点を歩く人の姿があるが、ここから見ると映画のシーンの一つみたいだと思える。

「本は見ないの?」

 先ほどまで父と何かを喋っていた母が、窓の外に夢中になっていた僕に訊いた。

「外じゃあまり集中できないんだ。家に帰ってからのお楽しみっていうことでとってあるんだよ」

「健気な奴め。我慢は体に毒だ、読め読め!」

「今はいいの。僕の好きにする」

「お、強く出たな! いいぞ、その調子だ」

 父が何を言いたいのか分からず、返す言葉が見当たらなかった。母はくすくすと笑い、蚊帳の外の役目を楽しんでいた。

 満腹感を得て家に帰ると、自室に駆け込んですぐに本を開いた。

 おおよそ最初の読んだ本と同じ事が書いてある。根気、時間、ただそれを得て完成した時の達成感云々。この文章を読むだけでも士気が高まるのを感じれる。

 母が見つけてくれたこの本。最初の章は今までの復習になったが、途中からは新しく学ぶ事が多くなっていった。

 僕は再び母のパソコンに教科書通りのプログラムを打ち込むことに精力を出した。

 自己満足から始まったゲーム作成が、いつの間にか弟のためへと変わっていった。

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