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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

流され転生者の一生

作者: きしと
掲載日:2014/03/24

シリアス、鬱展開注意。

 世の中悪い奴ばかりが得をする…良いことを行ったからと言ってそれが幸せに繋がるかはわからない…竹内蓮はそのことを知った。いや知ってしまった…。


 「いってぇ…」

 痛みにより足を引きずりながらレンは歩いていた。彼の体には複数の暴行の後があり、体の傷が人為的に作られたものだということを如実に語っていた。


 「くっそ、どいつもこいつも腐ってやがる。なんで俺がこんな目に合わなくちゃいけないだ。」

 行き場のない怒りがレンを襲う。彼は思わず近くの塀を拳で叩いた。


 そう全てはあの時から始まった…いや、終わったというべきか。レンは全てを失い。そして全てを信じられなくなっていた。


 …一年前、高校一年生の頃…レンはクラスメイトによるいじめを目撃した。周りの人間は誰もが目で見て見ぬふりをした。レンは持ち前の正義感からいじめを止め、クラスメイトを救った。それが始まりだった。クラスメイトはいじめの矛先をレンへと向けた。彼は対抗していたが日に日に嫌がらせは激化していった。彼は助けを求めたが。傍観者な教師もクラスメイトも人々も助けるものは居ず、あまつさえ助け出したクラスメイトさえ、無視し彼に矛先を向けた。


 …正しいことをしたはずなのに報われなかった。このことが彼に深い影を落とした。彼は人を信じることができずになり、一人で戦いをつづけた。今日もその戦いといっては悲しいほどの一方的な暴動から無事に逃げ帰ってきたところだった。


 レンは痛む足をさすりながら信号が青になるのを待つ。すると彼の前方に勢いを落とさずこちらに突っ込んでくる車を発見した。


 「おいおいこっちにきているのか!?」


 彼は驚き、この場から離れようとする、しかし足が思うように動かず逃げ出せない。

 

 「!!」


 車に衝突する瞬間彼が見たのは車内にある大量の酒瓶だった。

 ---飲酒運転かよ…くそやろうが!!


 地面に叩き落とされ薄れゆく意識の中で車が逃げ出していくのをその目で見続けていた。


 ---これがこんなのが俺の終わりなのか!


 少年の声なき慟哭は誰に聞かれることも無くその場に消えた。


☆☆☆


 気づけばそこは良くわからない空間だった。目の前には一枚の画面のようなものが広がっている。そこに映し出されているのは何かの光景だった。


 まず、映し出されたのは悲しみに暮れるレンの家族、そして次に映し出されたのは数少ない友人たちの姿。そしてその後に移されたのは忌々しい高校の面々だった。彼らは悲しむことも無く、人によってはあざ笑うものもいた。


 ---あいつらはどこまで…!!


 レンの心を激情が支配する。すると画面が変わった。

 幾人かの人々の幸せな家庭の様子が映し出される。レンには一瞬何のことかわからなかった。だがよく見ると次第にわかる彼らの顔はどこかで思掛けがあった。そう彼らは傍観したクラスメイト、裏切り助けたレンを見捨てたクラスメイト、いじめっ子のクラスメイト、そして逃げ切ったひき逃げ犯の未来の姿だったのだ。全員が全員笑顔を浮かべている。


 ---なんだってんだよ!なんだってんだよ!これは!!善人として行動した俺が!こんな理不尽な目にあって!悪人としてわがままほうだいしてたあいつらが法を犯した奴らがなんであんな幸せそうな顔をする!!なんであんな結果を得られる!!世の中理不尽だ!悪が悪人が得をするっていうなら俺も悪人になってやる、全てが俺を裏切るっていうなら俺が裏切ってやる。


 少年の宣誓は意識は彼がこの空間から離れるまでずっと続けられたずっと…


 泣きながらそれをする彼の姿はひどく小さく歪に見えて…そう善良な彼の良心が現実の残酷さによって壊れかかってしまったのだった…。


☆☆☆

 

 ミール-クリスは三人の冒険者を前に苦戦を強いられていた。

 彼らは初心者狩り。


 冒険者学校を卒業したミールは4人の仲間と共にこの町につき冒険者としての生活を始めた。とある依頼を受けることなったのだが他の仲間と時間的な折り合いがつかず、困っていた彼に先輩冒険者としてその三人は近づいた。先輩としてアドバイスする。そういわれたミールは素直にそのことを信じてしまい…依頼を完了したのち人目のつかない森の中で三人がミールに襲い掛かったのだった。


 降り注ぐ雨が頬を伝う。ミールは能力を発動させながら冒険者たちに声をかける。


 「こんなことはやめてください。いまならまだ間に合います!」


 ミールは必死に彼らを説得しようとする。だが彼らはそれをあざ笑った。


 「おいおい、俺たちのエサしてなんか言っちゃてるよこいつ」

 「逃がすわけねーだろうが。それにここでお前を始末すればだれもこのことを知るやつはいねーんだよ」

 「せっかく上等なアイテム持ってるんだ。いただけるものはいただかないとなぁ~」


 じりじりと彼らは距離を詰める。いくら強力な能力があろうとも初心者冒険者が三人の冒険者に勝つことはできなかった…


☆☆☆


 ぬかるんだ泥が顔に当たる…。レンは意識を取り戻した。目だけを動かしてあたりを伺う。


 ---ここはどこだ…


 すると彼の耳に声が聞こえてきた。


 「おい、しっかりと止めは刺したか?」

 「ああ、脈がないことも確認したぜ」

 「そうかそれならばいい」

 「しっかしそれにしても青い奴でしたね。初心者指導何てあっさり信じるなんて」

 「確かにそれであっさりやられるんじゃせわねーな」

 「ふん、だまされる奴がバカで悪いんだ。あいつはその程度のやつだったってことだろう?」

 「「違いね」」

 「「「ははははははは」」」


 その声と共に流れ込んできた知識で全てをレンは理解した。

 

 ---ふふふ、結局どこでもいっしょかよ、異世界でもあの世界でも、いいやつほど早く消え、悪い奴ほどのさばる。これが現実か!これが現実か!!


 レンはぬらりと体を持ち上げる。不思議と先ほどまで戦闘を行っていた体には傷が少なかった。

 こちらに気付いていない冒険者の一人に向け剣を振り向く。

 それによって冒険者の一人の頭が宙にまった。


 「「てめぇ!!」」

 気づいた冒険者たちが警戒態勢を取る。それに対しレンはいった。


 「奪われたんだったら奪ってもいいよな。お前らを消せば俺もそっち側にいけるのか?」


 …そこからは一方的だった、慈悲もない攻撃の嵐に逃げ出し命乞いをする冒険者たち、だがそれを許さず淡々とただ淡々とレンは行い続けた。これで変われると信じて、新しい未来が素晴らしい未来が、今を犠牲にすることで手に入ると信じて…すべてが終わった時、彼は地面に足を付けて雨の降る中、天に向かい咆哮した。


 「うおっぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 それはいつまでもいつまでも続いた。非道な行いをした。善良な自分に対する別れの言葉だった…


☆☆☆


 とある町の冒険者ギルドで四人の若者がたむろしていた。金髪の青年ヨファ、その妹の金髪の少女セリア、赤髪の少年キース、茶髪の大男ガンス。…かれらはミールのパーティーメンバーだった。


 「遅いな大丈夫かなミール」

 セリアは顔を強張らせそう口にする。彼女たちはいつまでたっても帰ってこない。冒険者三人とミールを心配していた。

 

「いくらなんでも遅すぎる何かあったと考えたほうが良いだろう」

 ガンスは冷静に状況を口にする。

 

 「やっぱりあいつら初心者狩りだったのかな。噂は聞いていたんだ…俺がもっと早くここにきてミールを止めていれば…」

 キースは顔を俯かせながらそう言う。それに対しヨファは否定の言葉を口にした。

 「キース、彼らは経験者としてアドバイスするためについていったと聞いている。そういう言い方は良くないぞ」

 「ヨファは人を信じすぎるよ…そういうところ魅力だと思うけどさ、でも現実ってのは残酷なんだからもっと気をつけないと」

 キースはヨファの反論に心配したかのように言葉を返す。


 いま彼らにできることは何もなかった。待つだけしか…。そして雨が上がったころ。三人の亡骸が発見された。それは装備品から冒険者二人とミールのものであると判別された。残りの一人が三人を襲い姿を消したのだろうとそう判断された。冒険者ギルドには四人の若者の鳴き声がこだました…


☆☆☆


 レンは王都に来ていた、彼はあの後、自分の状態を試し、ミールの記憶と戦闘技術を引き継いだことを確認した。だが彼の固有能力はなぜか発現することはできなかった。しかし代わりに新たな能力を発現したのでよしとしよう。様々な確認が済んだあと状況を確認し、このままではまずいことに気付いた。


 …レンは冒険者三人を消した。相手の方が襲ってきたための対処だがそんなことは関係ない。人殺しをしたレンにはもう冒険者ギルドに居場所はなかった。それ故にレンは襲ってきた男の中で一番体格の近いものと装備を交換し、冒険者たちに火をつけた。DNA鑑定のないこの世界ではこれで判別が不可能になる。レンはまんまと別人に成り代わり王都への潜入に成功していた。


 ---ここか…


 現在レンの目の前にあるのは何の変哲もない酒場…だがこの酒場には地下にあるものがある…それがレンの現在の目的地だった。


 扉を開け中へと入る。薄暗い室内と酒のにおいに顔をしかめながら、酒場のマスターに近づいた。マスターは紫の髪をした妖艶な女性だった。


 「ぼうや、何のためにここにきたんだい?ぼうやにはまだはやいよ」


 女性のその言葉にそこらかしこで違いねぇと笑い声があがる。その声をレンは気にせずマスターを見上げる。女性のマスターはレンの彼女を見上げる空虚な目の色に目を細めたあと。彼の言葉を聞き少し目を見開いた。


 「道具が必要なんだ」


 その言葉はこの酒場の地下にある裏ギルド、そこに行くために必要な合言葉だった。


 「あんたどこでそれを」

 女性は咎めるように問い詰める。だがレンは平坦な声で

 「あんたには関係ない、仕事をはたせればいいんだろう?」

 そう切り返した。


 「…きな。」

 その言葉に従い女性に連れられレンは裏ギルドへと足を踏み入れた…


☆☆☆


 裏ギルドにいた人々は明らかにまっとうな人間たちではなかった。体中傷だらけの男、全身黒づくめの男、ふしだらな服を着た女性など、様々な人が存在していた。


 レンは彼らにぶつからない様に進みギルドの最奥でマスターと同じ顔、同じ髪をした人物にであった。


 「酒場の方がミランダ、裏の方がレーベ私たちは双子だよ」

 ミランダがそういった。


 「ふん、どうでもいい。それより仕事はあるのか?俺がもっと先に進めるような仕事は」


 レーベは驚いた、まだ年若い青年だというのに彼の目には、今は、何も映っていなかった、ただ貪欲に未来だけを見、それを追い続ける孤独な目がそこにはあった。


 ---こんな少年がする目じゃない!この絶望した目この子にいったい何があったのだろう。

 レーベは素直にそう思った。レーベはこの目をなんども見たことがあったがこれは全てを奪われたものが数年、数十年をかけて今をあきらめたときに見せる目立ったからだ。若者が見せる目ではない。だがレーベは感情を押し殺した。ここは裏ギルドどんなものも受け入れどんな依頼でもだす。若者がどんな人間だろうとレーベには関係がない。そう考えるようにした。


 「いまある依頼だと…王選にちなんだ暗殺依頼が数件だけだね」


 レーベはきっぱりとそう答える。


 「そうか…ならそれを受ける一番報酬の高そうなものを選んでくれ」

 「できるのかい?こっちも客商売なんだ、へまとられたら困るんだよ」

 「できるか?できるかじゃないやるんだよ!そうしなければ変われない進む道なんてないんだ!」


 レンの拳が机をたたく、一瞬視線が集まるもののすぐにそれは消えた。この世界では他人のことなど気にしていられないのだ。レンはなぜかそれがうれしかった。


 「わかったよ。あんたの決意は本物みたいだね。だが一番高い仕事は任せられない。より確実にやれるこの仕事にしな、相手は近衛副隊長、お人よしで武力があれば隙をついてたやすく倒せる可能性がある男さ、上手くだまして倒すんだな」


 レンは何も言わず紙を受け取ると出口に向かって歩き始めた。レーベはその背中を見つめながら


 「いやな世の中になったものだよ、あんな少年がこっちの世界に身を置くことになるなんてね…」


 闇に生きる彼女は闇に身を落とそうとする少年を見て憂いた。いつの世も人は人らしく正しくは生きられない、それを知っている彼女でもあのような少年たちが正しく生きられる世の中を作ってほしい。作りたい。そう思うのだった…。


☆☆☆


 レンは目の前にある暗殺対象となる副隊長が子供と奥さんと共に仲良く遊んでいる姿を観察していた。

 「……」


 何事も言わずただ観察する。あの依頼を受けてから一周間ただ観察し続けていた。


 ---俺にもあんな未来があったのかな…


 レンは思う、正義を尊び志を持ち平和で仲の良い家族とともにある彼は、レンにとって理想の未来像だった。…だがレンはそれを壊す。良い奴ほど早く消える。この平和な幸せは悪であるレンによってつぶされるかもしれないのだ。それを思うとレンの心にどす黒い負の感情が生まれるのがわかった。


 ---ふふふ、結局壊されちゃうんだ。どれだけ正しいやつでも結局は悪い奴に食いつぶされる。それが証明される。アレヲタオスコトデおれはおれの考えがタダシイコトガ証明される…ふふふふ


 レンはただ嫉妬していただけかもしれない。この負の感情もあれがうらやましいからそう思うだけ、そうかもしれない。だが今のレンには関係がなかった。どんな理由であれ証明する、ただただ自分の考えを証明する。そうしなければ壊れてしまいそうだった。心が、自分の心が。まっとうに生き彼と同じ未来が待っていたはずの自分がなぜあんな目に合わなくてはいけなかったのか?良い奴も正しい未来が待っているならなぜ俺にはその未来が来なかったのか?なぜだ?俺とあれの違いはなんだ?俺がいけなかったのか正しいはずだった俺が…。以前の自分を肯定するためにはやつを倒さなければならない焦燥感に苛まれながら、行動を開始する。


 …動き出した針はもう止めることはできないのだ…もし止めることができたときは針が折れるとき、それはレンの意思の終わりを意味していた。


☆☆☆


 夜の町、近衛隊副隊長は足早に帰路についていた。

 

 「うぅ~さむさむ。レオンはもう寝ちゃってるかな?早く帰らないと」


 そう言いながら寒空の中、町を掛ける。あと少しで家に着くというところで突然、男が目の前に姿を現した。


 「!!」


 突然現れた存在を警戒し、剣を抜刀する。黒づくめの男はこちらに質問を投げかけてきた。


 「近衛隊副隊長ギル-スカラーだな?」

 「さて、どうだろう?それよりも君の目的はなんだい?」


 誤魔化しながら目的を聞き出そうとする。すると彼はにやけ顔になりながら


 「みればわかるだろう?」


 そういって切りかかってきた。


☆☆☆


 ギルとレンの戦闘は長期戦となっていた。ギルの固有能力を計りながらレンは堅実に攻撃を加えていく。ギルは初めは長期戦を望んでいたがこれだけ戦闘をしているにもかかわらず騎士団が来ないことを不自然に思っていた。


 「騎士団がこない?!」


 思わずその言葉が漏れる。レンは律儀にその疑問に答えてやった。


 「無駄だ。この空間は俺の固有能力で隔絶されている。助けはこない」

 「ちっ!!」


 舌打ちをしながらも冷静に剣を振るギル。だが彼はわかっていた。このままでは負ける…と。動きの読めない暗殺剣と彼の固有能力はギルにとって相性が悪かった。故にギルは説得を試みようとする。


 「キミの目的はなんだ!」

 「目的?それはお前を倒すことだ!」

 「そうじゃない。俺を倒して何になるっていうんだ!!」

 「知らんな依頼主に聞け!」

 「なんだと!?自分の意思も持たずにただ依頼だからと俺を殺す気なのか!」

 「ああ、そうだ。逆に聞くがこの世に意味のある死がどれほど存在している?みんな気づかぬ間に、何の意味もなく、たわいもなく他者に命を奪われる。世界とはそういうものではないのか?」

 「っ!?それでもたとえそうだとしても僕はこの国のためお前のような道具にはまけない!!」

 「誰だって臨んだ結果は得られない。どんな志を持とうと悪意あるものがそれを折り、人を消す。自分だけが、お前だけが望んだ結果を得られるだと!!うぬぼれるなよ小僧!!」


 レンの悪意はその能力を強化させる。レンの能力…それは空間に歪みを生み出すこと。心が歪になればなるほどその威力は増していった。


 それが均衡を破った。突き出した剣はギルの腹を突き刺しあふれ出る血が手を汚した。


 「がぁ…げぅ。こんなこんなこどで…」

 「…レオン…」


 愛する子供の名それが誇り高き男ギルの残した最後の言葉だった。レンはギルの首を取り空間をゆがめて移動する。空間をゆがめた時、空いた空間の隙間から一人の少年がこちらを見ていたことにはギルは気づかなかった。いや気づくことができなかった…


☆☆☆


 「お父さん遅いなぁ~」


 レオンは帰りの遅い父…ギルのことを心配していた。いつもならもう帰ってきていて自分を抱き上げてくれるのに今日は遅い。


 「きっとお仕事が長引いているのよ。近衛隊だなんて偉大な仕事だもの。レオンもかっこいいと思うでしょ。」

 「うん、王様を守り民を守る。すごい仕事だっていつも父さんいってたもんね。僕も大きくなったら近衛隊に入るんだ」

 「そうかいそうかい、ならもっと腕を磨かないとね」

 「うん」


 しばらく待ってもまだギルはかえって来なかった。


 「もうその辺かもしれないし僕ちょっとその辺みてくるよ」

 「あ、こらレオン!」


 静止も聞かずレオンは走り出した、そして走り出した先で見たのは父が黒づくめの男に首を取られるところだった。


 「へぇ?」

 

 あまりの出来事に思考が追い付かない。レオンはその場に座り込んでしまった。そうこうしているうちに事態は発覚する。レオンの日常は壊されてしまったのだった…


☆☆☆


 レンは水場にいた。そして手を洗い続けている。


 「くそ、くそ。おちないおちない」


 レンの手についたぬめりはどれほど洗っても取れないなんどもなんども手を洗ううちにレンの手はぼろ雑巾のようになっていた。


 「なんでだなんでだ?あの冒険者をやった時はなんとも思わなかった。魔物を倒したときだって…なのになんでだ!!」


 レンは手を洗い続ける。汚れてしまった手は洗い続け、自身の血で汚れるまで汚れが取れることはなかった…


☆☆☆


 裏ギルド窓口でレンはギルの首を渡す、レーベは一瞬レンの付けている黒い手袋に目を向けて目を細めたあと平静を装って粛々と換金を行う。


 「ほい。これが賞金だよ」


 そしてお金を渡す。それを受け取り立ち去ろうとするレンの背後に声をかけた。


 「あんた向いてないんじゃないかい?」


 レンは足を止めた。


 「あんたみたいな子供がもっと他に道はあると思うよ。なんなら私が紹介「間違えたくないんだ」」

 かけようとした言葉は途中でレンに遮られた。


 「俺には…もうこの生き方しかない…間違えたくないんだ。あの時みたいに…」


 それだけ言うとレンは歩き立ち去ってしまった。レーベは呟く。


 「何を間違うっていうんだい。間違うことは誰にもある。それは子供の特権だろう?それに今のあんたの方が間違え続けてると私は思うよ…」


 その呟きを聞くものは誰もいない…


☆☆☆


 あれから数か月が過ぎた。レンは数々の依頼をこなしていった。そんなレンの前に珍しい依頼が舞い込んだ。


 「勇者?」


 思わずレーベに問いただす。


 「そう、何でも最近見出された四人組の冒険者だとかでそのリーダーの人格が良くてそう言われてるらしいよ。第一王女が召し抱えたとかで他の勢力たちがひっきりなしに暗殺依頼を出しているのさ、まあほとんど失敗してるみたいだけどねぇ~相手が強くて」


 言われてレンはギルドを見渡した。確かに人数が少なくなっているような気がする。


 「ここにもその依頼は来ているのか?」


 レンは聞いた。


 「まあ来ているけど。やめときなあんたじゃ無理だ。先輩たちがみんなやられちまってんだからね。…私はあんたを面倒のかかる息子ぐらいに思ってる。汚れ仕事ばっかしてる奴に何言うんだって言われるかもしれないけどあんたには死んでほしくないよ。まえからいってるけどちゃんとした仕事に「やめてくれ」」


 レンの言葉がレーベの言葉を遮った。


 「やめてくれ…」


 弱弱しくつぶやくレンにレーベはかける言葉がなくなる。この数か月でレンの心はさらに壊れ体は消耗しきっていた。正直レーベには見ていられない状況だった。


 「依頼受けるよ…」

 「待ちな!!」


 その言葉もむなしくレンは空間をゆがめ消えた。


 「あのばかやろう!…」


 こんなことがいつまで続くのか、そしてこんなことを自分はいつまで続けるか。レーベはもんもんとその答えを探し続けるのだった。


☆☆☆


 レーベから離れ宿屋に戻ったあとレンは依頼書を見たそして勇者の正体を知りその目は驚愕で大きく開いた。


 「みんな…」


 そう勇者とはかつての仲間、ヨファ、セリア、キース、ガンスだった…


 運命の針は残酷に回り出す。いつの世も世界は運命は人々に耐え難い試練を課すのだった。


☆☆☆


 「この町にあのミールを殺した奴がいるのかな」


 セリアが唐突に切り出す。

 

 勇者一行は町を探索していた。彼らは王女に召喚されたという理由もあるがそれと同時に仲間のミールを殺したと思われる冒険者を探していた。なぜならその冒険者はこの町に入ったところでその痕跡を消しているからだ。ミールと特に仲の良かったセリアとキースはその怒りの気持ちも高かった。


 「あいつ絶対ゆるさん。ミールをだまして…あいつを捕まえるのが俺にできるミールへの贖罪だ」


 それをガンスとヨファがなだめる。


 「おちつけ二人とも。ミールの仇討もいいが王女さまからの依頼も果たさなくては」

 「そうだぞ、セリア、キース。この仕事はこの国の未来を決める仕事なんだ。気を引き締めてもらわないと困る」

 「まあ、そうだけどよ…」


 それでも二人の歯切れは悪い。その様子をレンは高所から眺めていた。


 「…おれは…」


 そしてその姿を消した。


☆☆☆


 ---俺はどうしたいのだろう?


 レンは一人、宿屋で苦悩していた。今日もギルドには顔を出したがレーベに明らかに心配された。それほど悩んでいるのだろうと自分でも思う。

 …ミールに取って彼らは親友と言ってもいい間柄だった。同じ冒険者学校で切磋琢磨し築き上げた友情。打算ではないお互い信頼しきった関係があった。

 俺はミールではない。だがミールは俺の中にいると思う。憑依と言う形でこの体を貰い受けたがその時にミールの知識と技術が俺の中に入ってきた。おそらくあれは俺の魂とミールの魂が融合したために起こったものだと考えられる。故に俺の中の気持ちに勇者たちを親友だと思う気持ちがあり、できれば手を出したくはない。それにミールにはこの体を貰い受けた恩がある。あのまま、あんな終わりのまま終わらないでいられるのはミールのおかげだ。この体で汚れ仕事をしているとしても、この体でミールの仲間を討つようなマネはしたくない。それにリーダーのヨファは俺やミール、ギルと同じような性格をしている。人を疑わず、正義で行動できる人間、ギルの時のように倒すのはいやだった。


 …だが…


 それは甘えではないだろうか?俺は汚れ仕事としていくつもの人々をその手にかけてきた。その中には悪人やギルのような理想に燃える善人など様々なものがいた。…俺は彼らの希望を全て奪い取った…そんな俺がミールの仲間だからと戸惑う?それは許されるのか?


 もんもんと悩み続ける。ちらりと依頼書を見るとそこには勇者が強すぎるため作られた何人もの暗殺者を同時に使用する。暗殺計画が記載されていた。


 この作戦の実行の時までには決めないと宿の天井を見ながら考え続けた…


☆☆☆


 その日勇者たちは第一王女の依頼で魔物討伐へと赴いていた。町から大きく離れ、魔獣のいるという森へと向かう。


 「ふぅ、もう町から結構離れたねぇ~」

 「そうだな」

 「あのさ目的地まであとどんくらいなの?」

 「あの森に入ればあと少しだ」


 そういってガンスが指差した方を見ると先の見えない奥深い森が存在していた。


 「森の中ではいつ襲撃されるかわからん。みんな今から戦闘準備をしておけよ。」

 ヨファのそのことばに全員準備を開始する。


 「何か嫌な予感がする。厄介な仕事にならなければいいが」

 ヨファのその言葉は森の中へと消えていった。


☆☆☆


 薄暗い森の中、いくつもの影が標的が来るのを今か今かと待ち受けていた。


 ---あいつら、全員この仕事を受けた同業者か最低でも10人ぐらいはいるな…


 レンは冷静に周囲を観察しながらも自身も標的を討つために装備を整えていた。顔に仮面をつけて外套を着て頭を隠す…そうレンも勇者たちを討つために計画に参加していた。正直まだ迷いはある。勇者たちをその目で見れば手を下すことはできないかもしれない。…だが、だがそれでもこの道はレンが選んだ道だ。間違わないように、あんな結末にならないように悪に、闇に生きると決めた道だ。どんなにつらくてもやり遂げなくてはいけない。そうでなければ未来はない。この道を進み続ければ幸福な未来が結末が待っている。…そう信じるしか道は残っていなかった。


 ---…それにしても…魔物の姿が見えないな。魔物討伐のために勇者たちは派遣されているはずなのに妙だな?…もしかしたら…いや、今、それを考える必要はないか、所詮俺は道具だ。今この場のことだけを考えればいい。


 自分の心に蓋をして前を見据える、勇者たちは森の奥へと入ってきており…今、襲撃が始まった。


☆☆☆

 

 最初に気付いたのはキースだった。キースの固有能力である索敵に複数の人間の反応があったからだ。


 「みんな、様子がおかしい。魔物の反応はほとんどないのに人が複数人いる!」

 

 その言葉が合図となったのか、後衛として後ろに控えていた、セリアに向かって弓矢が飛んできた。

 「セリア、弓だ!!」


 ガンスのその言葉にセリアは反応するが防御が間に合わない。だがセリアに弓矢が刺さる直前に弓矢は光の粒子に止められていた。


 「ヨファありがとう。」

 「気にするな」


 弓矢を止めた光の粒子こそ、ヨファの固有能力光粒子操作、空間に存在する光を集め物質として扱い展開して防御することも、収束させて攻撃として扱うこともできる…攻防一体の協力な能力だった。その光の中で戦う姿は彼の勇者としての異名の所以でもある。


 「暗殺者か、厄介な魔物の発生は俺たちを誘いだすための偽情報だったのか」

 「ヨファどうする?」

 「わざわざ律儀に戦ってやる必要もない。草原まで撤退するぞ。」


 ヨファたちはそういうと森を抜け出すために走り出す。追うように多くの暗殺者が駆け出した。


 「ちょ、まずいよ!!最低でも10人以上はいる。前にも待ち伏せがいるみたいだ!!このままじゃ囲まれるよ!!」

 「ちっ!一気にこれだけの数を投入してくるなんて、だがこんなところで負けるわけにはいかない!」


 その言葉と共にヨファの持つ剣から収束した光が放出され、暗殺者の一人を焼切る。攻撃を終えたタイミングを狙った敵の攻撃をガンスは固有能力、力道波動を使い防ぎ、吹き飛ばす。ガンスの能力力動波動はその名の通り力を道として動かし飛ばす能力。衝撃波を一定距離まで運べる能力だ。


 勇者たちの活躍により、少しずつ数を減らす暗殺者たちだが、多勢に無勢。少しずつ追い込まれ森の一部で囲まれてしまった。


 「まずい、完全に囲まれた…」


 すでに5人以上は倒しているはずだが、まだ敵の数は多くあと20人は居そうな気配があった。


 「これはさすがにまずいね、年貢の納め時ってやつなのかな」

 「アホなこというな!まだ倒れたわけではない。最後まであきらめるな!!」

 「そんなこといっても」

 「……」


 「ぐぎゃっ」

 その時、離れたところから人の団末魔が響いてきた。


 「なんだ?」


 ヨファたちも暗殺者たちもその状況に困惑する。


 「ぐげ」

 「ぶほ」

 「や、やめ…がぁ」


 次々と団末魔は響き渡る。そしてその声はこちらへと近づいてきていた。


 「なんか、こっちに向かってきてるよ!」

 キースのその声と共に彼らが退治していた暗殺者が切り裂かれた。崩れ落ちる暗殺者その先には外套を深くかぶり仮面をつけた男が血塗られた剣を逆手でもち佇んでいた。


 

 「味方か?」

 不気味なその男の素性を調べるためガンスが男に聞く。だが男はあざ笑うように鼻を鳴らすと言い切った。

 

 「なわけないだろう」


 その言葉にヨファたちは警戒態勢を強める。

 「では、なぜその男をやった?仲間なんだろう?」

 「仲間?ハッ!そんなんじゃないよ。こいつらはただの同業者。仕事が同じだったってだけでそれ以外は何の意味もない」

 「それでも同じ仕事をしていたんだろう?なら殺す必要はなかったんじゃないのか?」


 ヨファのその言葉に彼は笑いをこらえながら何でもない事のように言った。

 「だって、人が多いほど報酬が減るだろう?それ以外に意味はないよ、…意味はない…」


 語尾はかすれて聞こえなかったがヨファは目の前の男が最低な人間であるとすぐに判断できた。


 「なんてやつだ!暗殺者であろうともそんな理由で命を奪うなんて、お前のようなやつを俺は見過ごせない!!」


 そう言うのと同時にヨファは光り輝く剣で切りかかる。彼は…暗殺者の男レンは一歩も動かずその場から消えた。


 「何!?」

 目の前から消えた男に驚くヨファ、そのヨファにキースから声がかかる。

 「ヨファ、上だ!!」


 「な!?ぐうぅ!!」

 レンは落ちる勢いを利用してヨファを蹴り飛ばした。そしてそのまま地面に着地するとガンスとの距離を一瞬で詰めて切りかかる。


 「こいつ!また瞬間移動を!!」

 ガンスは何とかハンマーで防ぐが勢いを殺し切れずに吹き飛ばされる。


 「がは!!」

 そしてそのまま木にぶつかった。


 「な、一瞬で二人を!!こいつ強すぎる!」

 

 …そしてそのあとすぐキースもセリアも打倒され地面に膝をつくことになった…


☆☆☆


 倒れる勇者たちを見ながらレンは思った。


 ---こんなものか…


 かつての自分の仲間で冒険者学校の中で唯一全員が固有能力を発現させたパーティ…途中まで同じ道を歩んできていたはずの彼らはレンたった一人に無残にも全員が打倒されてしまっていた。


 ---俺とあいつらじゃ歩んできた道が違う。薄汚れた道を歩いてきた俺が勝って、正しい道を歩んできた彼らが負ける…なんてことはない、俺が見つけた現実の…世界の真理じゃないか。結局は誰もこれからは逃れることはできなかったんだ。


 レンは少し悲しい思いがした。その理由はわからない。だがもしかしたら、彼らが自分を打倒すことでこの世界の真理が間違っている…そう証明したい気持ちがレンにも残っていたのかもしれない。だがそれも全て今となっては関係ない。ここで再び証明されてしまったのだ。結局ギルもヨファも超えることはできなかった。だからこそ、レンは今の道を進まなくてはならない。剣を握る手の力を強め倒れるヨファへと向かっていく。

 …先ほどのように距離を歪め一瞬で移動するのではなく、しっかりと自分の足で…


 「ヨファといったな、お前は俺と似ている…」

 「な、なんだと…!」

 「俺も昔はお前と同じように人の善意を自分の正義を正しい世の中を夢見ていた…だがそれは結局幻想にすぎなかった。」


 レンはヨファへと一歩一歩近づきながら言葉を交わしていく。


 「俺は裏切られた信じたものに助けたものに、そして世界に…世の中正しいことをする人間が報われるとは限らない、いやむしろ正しいものほど早く消える…。結局残るのは悪い奴だけなんだよ…今お前が俺に倒されて転がっているみたいにな」

 「…」

 「だからこそ、俺は悪に染まった、もう間違わない迷わない!最後に立っているのはこの俺だ!と…そう決めたんだ…ヨファいまならお前もまだ間に合う…こちら側に来い、そうすればお前もまだまだ生き残れる未来をつかめる!!」


 レンは立ち上がろうとするヨファの前にたち、言った。


 「選択しろヨファ、お前も選ぶんだ!!」


 ヨファは立ち上がったそしてレンの手を取ることなく殴り飛ばした。


 「…!!」


 受け身を取りながら立ち上がるそしてヨファを見据えた。


 「あんたがどんな人生を歩んだのかは知らない。…あんたがいっていることも世界の真実であるとも思う…だけど…俺はそんなことでそちらに行く気はない。俺はいつまででも自分の正義を貫く、それが俺の意思だ!!」


 そういってヨファは切りかかってくる。


 「…そうか…残念だよ…」


 レンは再び距離を歪め瞬間移動をした。ヨファの真後ろへ。そして切りかかるが予測していたかのように光の粒子によって剣が防がれた。


 「!!」

 「その攻撃はもう読めている!」


 そして振り返りながら切りかかってくる攻撃を瞬間移動し、回避するがその場所にもヨファの光の剣が攻撃を仕掛けてきていた。


 「くっそ!!」


 レンは目の前の空間を歪めて光の剣を受け止める。そしてあたりを見て瞬間移動を破られた原因を見つけた。


 ---光の粒子がこんなところに…そうかこのあたりの空間すべてに粒子を散布して歪みを感じ取ったのか!!


 「ふっ、やはり空間を歪ませる能力みたいだな。それなら俺の粒子で越えられる!」

 ヨファの放つ光の力が強くなる。


 ---こいつ、歪みごと光で満たして押しとおるつもりか!!


 レンの能力は所詮歪めるだけ。空間そのものに歪めることのできないように空間そのものが満たされてしまえば、たやすく打ち破られてしまう。


 ---くそっ!相性の悪い!


 レンは再び瞬間移動を行い逃げる、だがその場所を粒子の歪みによって判別したヨファは仲間に居場所を知らせる。


 「ガンス!右だ!」


 ガンスの力道波動がレンの体を貫く、吹き飛ばされたレンは木に叩きつけられた。


 「がはぁ」

 「さっきの借りは返させてもらった」

 

 すぐに態勢を立て直し、反撃を試みようとするレンだがその前にキースが顔にめがけて放った矢が顔に命中した。


 「やったか!?」

 キースが言う。矢は仮面を弾き飛ばしていた。


 「そ、そんな…!!」

 顔を目撃したキースの目が驚愕で開かれる。同時に目撃したセリアの目も見開かれていた。


 「どうしたセリア、キース?」

 ヨファとガンスは戦闘中突如そんな態度を取った二人に疑問の目を向ける。だが彼ら自身その理由をすぐに知ることになった。

 深くかぶった外套が取れ、仮面が取れたその姿。ヨファは思わずつぶやいてしまった。


 「ミール…」


 彼らの仲間の顔がそこにはあった…。


☆☆☆


 戦場はこう着していた。予期せぬ展開に。その中で冷静に思考を重ねていたのはレンだけだった。


 ---ばれてしまったか、できるだけミールのために姿はさらしたくなかったんだがな…


 レンはあたりを伺う。誰もが唖然とするなかで、ヨファが口を開いた。


 「ミ、ミールなのか?」

 「違う」


 レンはその言葉に即答で返す。


 「だ、だが。その顔は…「お前が例え俺と似た人間を知っていようとそれは俺であって俺ではない」」

 「ど、どうゆうことだ?」

 「ミールは死んだ、あの時三人の冒険者に襲われてな、俺はこの体を借り受けただけだ…俺の名前はタケウチレン。俺はレンだ!」


 レンはその言葉と共に能力を極限まで高める。解放された能力はこの場にいる全員を覆い尽くす空間を歪め始めた。


 「ま、まだ話が!!」

 歪む空間の中でヨファが口にする。


 「俺に話すことはない!依頼を果たす!世界を歪め落ちろ!!「グラビティスフィア!」」

 その言葉と共に歪まれた空間が押しつぶされていく。


 「っ!!まずいみんな俺のそばへ!!」

 ヨファは仲間を集め光を満たし守ろうとする。


 …光が晴れた時、その場にあったのは立ち尽くす一人の男と倒れ込む四人の姿そして、クレーターのように当たりのすべてを押しつぶしてできた森の一部だった…。


☆☆☆


 レンは倒れた四人に向かって歩いていく、そして歩みを止めた時、四人に向かっていった。


 「俺はミールではない。だがミールには恩がある。だからお前らは見逃してやる。このまま死んだことにして町から消え二度と表舞台に立つな、田舎でゆっくりと暮らしてろ。…正しいお前らにはそれがお似合いだ」


 その時セリアから震えた声が上がった。セリアの能力は治癒、他人や自分を癒すことのできる能力。それで自分の体力を回復させたのだ。


 「あなたがミールじゃないならミールが体を貸しているというのなら、あなたを倒せばミールは戻ってくるの?」


 レンはその質問に一瞬考えたように止まったあと話す。

 

 「それは無理だな。俺がこの体を借りたときにはすでにミールは死んでいた。例え俺が消えようとももうミールが戻ることはないだろう。…それが現実だ。…ミールも俺やそこのヨファのように正しくいい人間だったよ。だが、だからこそ死んだ、初心者指導なんてこと言われて信じて、初心者狩りの冒険者に三人がかりでなすすべもなくやられたんだからな」


 「…」


 「現実は厳しく残酷だ、受け止めるのか逃げるのかは好きにするといい。だが決断はしろ。後悔はないようにな」


 それだけ言うとレンは空間を歪め消えた。残されたこの場には静寂とすすり泣く声だけがその存在を主張していた。


☆☆☆


 「おや、帰ってきたのかい?」


 ギルドに戻ったレンは軽く挨拶しカウンターに座った。


 「…まあな」

 「それで依頼は達成できたのかい」


 レーベのその質問にレンは一瞬迷った後答える。

 「わからない」

 「わからないってなんだいそれは」

 

 レーベは問いただそうと言葉を返すがレンの様子を見てやめた。

 「わけありかい、まあそれならそれでいいんだけどねぇ」


 そういい、レンに酒の入ったコップを渡した。

 

 「これは?」

 レンがそれを不思議に思い口にする。


 「なにただのおごりだよ。いやな事があったならそれで忘れちまいな」

 「そうか、ありがたくもらうよ」


 レンはそういって酒を口にする。だが焼けるような痛みにすぐにむせた。


 「あらあら、あんたにはまだ酒は早かったかね~」

 レーベは笑うようにいう。

 「出しといてそれいうかよ」

 レンもそれにつられ少しだけ笑った。


 「それだよ。あんたまだ子供なんだからそうやって笑って自分のやりたいように生きればいいんだよ」

 「レーベ…でも俺は…」

 「でも、じゃないよ。あんたはそうやっていつも否定しようとする。だけど自分の行いは肯定しない…あんた本当はわかってるんじゃないのかい。自分のやりたいことをしてないって、自分の心を殺して行動してるって。じゃなきゃ、でもなんて言葉はでないよ…」

 「…」

 「心を殺して進む道は人生と言うのかい?あんたはこのまま道具で終わる気なのかい?」

 「…」

 「…すまない。おばさんが出過ぎたマネだったよ。だけどあんたを見てたら言わなくちゃいけない気がしたんだ。」

 「…」

 「…そうか」


 レンは短くそれだけ返した。その言葉にどんな意味が込められているのかレーベにはわからなかった。

 静寂が空間を支配する。レンはそれを破るようにレーベに質問した。


 「今回の依頼…」

 「今回の依頼がどうしたんだい?」

 「魔物の発生を知らせたのは誰なんだ?」


 唐突な質問にレーベは目を丸くする。だがすぐさまもとに戻り資料を棚から探して調べた。

 「ええ~と、ここの資料によると。冒険者ギルドが発生を確認したとなっているね」

 「そうか、冒険者ギルドか…」

 「それがどうかしたのかい?」

 「いや、なんでもない。用事が出来たこれで失礼するよ。」


 レンはそういってギルドを後にした。


 「なんなんだろう?」


 その様子が気になったレーベも少し調べを入れてみようと考えてみるのだった。


☆☆☆


 王都、謁見の間。そこで勇者たちは王へ魔物討伐の一件の説明を行っていた。王の横には王選候補者たち…第一王女たちがならんでいる。


 そう、勇者たちは死んだことにして田舎に帰ることはなかった。彼らは負けたくなかった。レンの言う通りこのまま消え田舎で暮らす。…それは彼の善意からでた言葉なのだろう。実際それをおこなえばもうあの時のように暗殺者に狙われる心配はない。表舞台に立たなければ現実を知ることなく生きることができるだろう。だがそれは結局逃げているだけだ。彼らは証明したかった。レンの言うような結末になるのものだけが現実でないということを、正しくあり続けてもしっかりと未来を築くことができるということを。彼らは全員の意思でこの場所に来た。そして表舞台に立ち続けることを決めたのだった。その中には彼を…レンを救いたいという気持ちもあった。


 「ふむ、暗殺者とは…いったい誰が派遣したのだろうな?」

 王のその言葉に第一王女が他の王選候補たちを見渡す。


 「暗殺だなんて、そんな方法を取って私の勢力を落とそうなんて良く考えるものですね」

 

 その言葉に第二王子が怒りを表し反応する。

 「だれがそんなことをするか!!そもそも自作自演なのではないか?!俺の仲間だったギルはお前がやったのだろう?」

 「私がそんなことするわけないじゃないですか、それこそそちらの自作自演では」

 「なんだと!!」


 口論はどんどんと強くなる。お互いがお互いを疑う。醜い人間の業がそこにはあった。


 「静まれ!!」


 王の一喝で場が静かになる。


 「この場で口論などするではない。…謁見はこれにて終了する。事件の詳細は追って審理する」


 そういって一同は王の間を後にすることになった…


☆☆☆


 「ふう」

 その日の夜、第一王女は自室の椅子に座り体を休めていた。そしてクローゼットの方へ視線を向け言葉を放つ。


 「いつまで隠れているつもり?暗殺者さん?」


 その問いにより、クローゼットの前の空間が歪み、一人の男が姿を現した。


 「良く気付いたな」

 男はレンはそのまま歩き出すと第一王女の近くへやってくる。そしてその場で剣を構えたまま止まった。


 「俺が暗殺者だと分かっているなら、これからどうなるかもわかっているな?」

 「ええ、もちろん。全てあなたから聞こえてるもの」

 「聞こえている?」

 「そう、私の固有能力心眼。相手の心を見てその声を聴くことができるの。だからあなたの心も読めているわ…あなたはかわいそうな人ね」

 「なんだと?!」

 

 そのレンの言葉に王女は一瞬驚いたように目を見開き、肩をすくめて呆れる。そして言葉を紡いだ。

 「あら、自分じゃ気づいてないの?いや、気づこうとしてないだけか、ふふふ。ますますかわいそうな人ね」

 「どういう意味だ!!俺はお前にみじめに思われるほど愚かな男ではない!!」

 「そう?なら私が話してあげようかしら?」

 「そんな必要はない!!」

 「認めたくないのね、自分が抱える矛盾を、それで逃げ出してるわけね。ふふ、勇者たちに決断しろ、後悔はするなよ…と言っているくせに自分こそが逃げ出しているなんてね」

 「!?なぜそれをあの場にいたのか!!」

 「そんなわけないでしょう?今日謁見の間にきた勇者たちの心を読んだのよ、わざわざ命を奪いに来たのに見逃してあげた優しい暗殺者さんがいるってね…まあ、さすがに今日ここに来るとは思ってなかったけど」

 「今日はと言うことは俺の来ることは予想していたんだな?やはり第一王女お前があの暗殺計画の主犯か、ギルド長を吊し上げた通りだな」

 「あら、あのギルド長あなたに消されちゃったの?せっかく使えるコマだったのにもったいないわ」 「…なぜ、勇者たちを暗殺しようとした?あいつらはお前の陣営…仲間だったはずだ殺す道理はないだろう?」

 「なるほど、それをわざわざ聞くために私を生かしてるってわけね、ふふふ、優しい人ねとても暗殺者には見えないわ」

 「!!さっさと答えろ!…それにやさしいのはミールだ、これはミールのためにやっているんだ。俺じゃない!俺は甘さは捨てたんだ!!別に今すぐお前を消したっていいんだぞ!!」

 「…まあそういうことにしておきましょうか、いいわ答えてあげましょう。理由は簡単邪魔だったからよ」

 「邪魔…だと?」

 「そう、だって勇者よ?民たちの羨望と期待を一身に集める勇者…そんなものはいらないわ」

 「期待を集めるならいいじゃないかお前に損はないだろう?」

 「ふふ、何もわかってないのね。民の羨望と期待を一身に集める存在…それは次期女王である私一人で充分なの、二つ光があったところで邪魔なだけよ」

 「!!っそんな理由のために!」

 「そんな理由?あなただけには言われたくないわね。あなただって幸せな未来を得るという目的を得るためだけに何人もの人を殺めて来たんでしょ?」

 「…!!」

 「…結局、人は誰しもが目的を持っている、それがどんな目的であれ、他人にとやかく言われるものではないわ、私もあなたも、あの勇者たちもそれ以外のものたちもそれは全て同じ、彼らと私たちの違いを上げるなら、未来のために今を捨てる覚悟があるか…それだけよ」

 「…」

 「もっともあなたの覚悟というのは、善人一人殺したり、昔馴染みと敵対するだけで揺らいでしまう脆い覚悟のようだけど…私は違うわ。すべてはこの王国のため、民たちのため。私は王座へと立ちそして全ての期待を集める、その為には善人だろうが悪人だろうが利用するものは利用し、切り捨てるものは切り捨てる。それが私の覚悟」

 「っ!揺らいでなんか…」

 「それを認められないからあなたは愚かだというのよ…彼らが昔の自分に似てたから手を出せなかった?自分ではたどり着けなかった未来が見たかった?…自分がたどり着けなかった未来にたどり着こうとする彼らに嫉妬しながらも、彼らに未来にたどり着いてほしいと願う矛盾した心…それがあなたのもろさだわ」

 「…」

 「悪人がのさばり、利益を得る世を憎み、悪人を憎みながらも自分自身がそれになることを選ぶ。あなたは自分の生きた人生が間違っていなかったと証明したかった。自分に訪れた事態は同じことをしたら誰にでも起こる。世界はそうものなんだってそう思いたかっただけなんじゃない?なんで自分だけがなんでこんな目に…、あなたの心はそういっているわ、だから悪人として他の人々を自分と同じ目に合わせる、だけど自分と似た存在にそれを行うのは自分を見ているようで気が引ける。傲慢でわがままな願いね。そうやって世界に復習した気になっているんでしょう。ぷぷぷ、お笑いぐさだわ」

 「…願いなんて誰もが傲慢でわがままなものだ…俺はただ清算したいだけなんだ、帳尻を合わせたいだけなんだよ!、お前も同じだろう?笑われるいわれはない!」

 「そうね、あなたは力を使い、私は権力を使ってここまでやってきた。結局使う者が違っただけでなにも変わらないわ、その手を自分の傲慢な願いのために汚す…お互い語り合っても意味のないことね。さあ、やるならやりなさい。もう私に逃げ場はないんでしょう?」

 「…そうだな、俺は俺のために仕事をこなす、結局はそれだけだ」

 

 レンは剣を上へと振り上げる。


 「あなたのためね…本当にそれはあなたのためになっているのかしら?まあ、私にはどうでもいいことだけど…あなたはこの後選択することになるわ、貫き通せるのか、折れてしまうのか、それとも他の道を見つけるのか…あっちで楽しみにまってるから」


 レンは王女のその言葉を聞き終えるのと同時に王女の首を切り取った。


☆☆☆


 この空間を包んでいた歪みによる結界が晴れていく、すると何者かが部屋へと飛び込んできた。


 「王女さま!!」


 それは今日謁見に来て、その後帰還したはずの勇者たちと近衛騎士団たちだった。

 彼らが部屋で見つけたのは王女の亡骸だった。


 「そんな…」


 一同が状況に絶句するなか、ヨファは冷静に言葉を発する。


 「この場所へと入れるようになったのは先ほどです。まだ犯人があたりにいるかもしれない探しましょう」

 「そうだな、おいお前らあたりをくまなく探せ!!」


 気を取り直した近衛騎士団長の言葉によりそれぞれが部屋を探索する。そして一人が王女の体の一部切られた首筋とは別に指が少し出血していることに気が付く。そしてイスに刻まれた血文字を発見した。


 「これは…」


 それはレンが考え、心眼のスキルによって王女に見抜かれてしまった、レンの逃走経路だった…


☆☆☆


 暗闇の中レンは走る。能力は発動に精神エネルギーを多く使うため、結界を張るのに多く消費したエネルギーを回復する必要があった、そこで当初考えていた、瞬間移動の連続発動による逃走をあきらめ、王女の殺害により混乱した城内を隠れて突破することになっていた。


 「…」


 走り去る兵を見送り先へと進む、あと少しで城を抜ける、庭園に出れば瞬間移動での脱出も可能だ。 焦る気持ちを抑えながら、門を抜ける。だがそこで待っていたのはまぶしい光だった。


 「!!」


 それと同時に弓矢がレンへと多数向かってくる。レンは回復したエネルギーを使い空へと移動した。

 「これは!!」


 そして彼が空から目撃したのは多数の兵と勇者たちであった。


 ---なんで、あいつらがここに?謁見した後町に帰ったんじゃなかったのか?それにどうやって俺の居場所を!


 そう考えた時、王女の言葉がレンの頭の中によみがえってきた。


 『あなたはこの後選択することになるわ、貫き通せるのか、折れてしまうのか、それとも他の道を見つけるのか…あっちで楽しみにまってるから』


 ---野望を邪魔された最後の嫌がらせってところか、心眼で逃走経路を見抜いたんだな!


 空へと飛んだレンのもとへ、光を足場にしたヨファが切りかかってくる。


 「レン!!なぜ王女さまを殺した!!」


 レンはそれを剣を使い受け流しながら答える


 「決まってるだろう!仕事だからだ!!」

 「そんなことはもうやめろ!そんなことをして何になるっていうんだ!!」

 「何になるかなんて、そっちの道を選んだお前には関係ない!!」


 レンとヨファの戦闘が空中で続く中、騎士団から事象系の固有能力による攻撃がレンへと向かう。


 ---く、魔法かよ!


 火、氷、雷など様々な攻撃が飛んでくるのを見ながらレンはそう考える。だがレンにそういった攻撃は通用しない。レンは手を前にだすと空間を歪ませ、魔法のような攻撃をはじき返す。そしてそれは能力を発動し、油断した騎士団の面々に激突した。


 「お前たち!!」


 こちらに駆け寄ってきていた団長の言葉が響き渡る。レンは発生した隙を逃すことなく瞬間移動で団長に切りかかった。


 「これで!」


 だがそれは横から来た衝撃波によって妨害されレンは吹き飛ばされてしまう。ガンスの力動波動による攻撃だった。


 「ぐぅ!」


 そしてその飛ばされたレンに向かって勇者の光を集めた攻撃が降り注ぐ


 「がぁぁあ!!」


 脇腹を光で貫かれ重傷を負うレン、だがそれでも立ち上がり武器を構える。


 「…!!レンどうしてそこまで戦うんだ!君は罪を犯した大人しく捕まって裁きを受けるんだ!」


 ---これが俺の選択の結果なのか?つまらない感傷で勇者を助けてそしてそのことが原因で窮地に立たされている。俺はまた間違ったのか?少しでも優しさを見せたからまた追い込まれたのか?王女はいった、突き抜けるか、折れるか、別の道を見つけるか…それなら俺は選んでやる。もう戸惑いはしないここで勇者たちを倒し、未来をつかむ。こんなところで終わるわけにはいけないんだ。こんな何もつかめない終わりが俺の終わりであってたまるか!!


 「こんなところで…こんな終わりなんて認めるわけにはいかないんだよ!!例えお前たちを倒してでも俺は越える!!こんな終わりなんて突き破ってやる」


 腕に能力を集中させ傷へと押し当てる、痛みを歪ませ中和し、再び剣を持って切りかかる。


 「もう、やめるんだ!!」


 ヨファがそれを防ぐ、激化していく戦闘でレンは徐々に追い詰められていった。


 「ガハァア」


 血を地面へと吐き出すレン。体は傷だらけとなり、あたりには血だまりが出来ていた。そして周囲を兵と勇者たちが取り囲む。


 「ここまでだ、それだけ傷つけば戦えないキミは負けたんだ。キミの信念は間違っていたんだよ」


 ヨファの言葉が朦朧とするレンの頭に響く。


 ---俺は負けたのか?俺は間違っていたのか?


 「キミは残るのは悪い奴らだけだといったが、今この場で立っているのは俺たちだ、自分が正義と言うつもりはないが悪だけが生き残るなんてそんなことはないんだよ、正しいものだってこうやって手を取り合って立ち続けることができるんだ!」

 

 「ぐふぅ…きれいごとを…お前らだって俺に勝ったとしても結局は負けるさ、また次のやつがお前たちの正義を蹂躙する」

 「また僕らの前にレン、キミのような悪人が現れたとしても僕らは負けない。勝ち続ける。ミールのためにもキミのためにもそれを証明し続けてみせる。…その道を選択させてくれたのはほかならぬキミなんだから」

 「偉そうなこといいやがって…だ、だがな…認められないんだよ俺は!!こんなことは!!だからこそここで終わるわけにはいかないんだよ!」


 レンは最後の力を使い全ての力を瞬間移動の力へと回す、そしてこの場から消えた。


 「な!…まだ遠くにはいっていないはずだみんな探すぞ!!」


 そうして勇者たちは町へと消えていった。


☆☆☆


 「はぁはぁ」


 体を引きずりながらレンは町の裏街道を歩いていた、目指す先は酒場、裏ギルド。そこに逃げ込み立て直しを図ろうと考えていた。


 「はぁはぁ」


 悪に染まり、全てを拒んで生きていく生き方を選んだ男は今、みじめにもすがりつくように歩き続ける。そんな彼の前方からフードをかぶった子供が近づいてきていた。

 そしてその少年との距離がゼロになる。腹部に熱いものを感じそこをみるとそこにはナイフが刺さっていた。


 「…あ?」


 そして体の力が抜け倒れる。彼がその中で見えたのは血まみれの手の少年と


 「と、とうさんのかたき」


 と言う言葉だけだった。


 ---こ、これが俺の本当の終わり?あの道を選んでこんなのが?


 少年の声なき呟きは空へと消えていった。


☆☆☆


 気づけばみたことのあるような空間にいた。画面に何かが映し出されている。だが映し出されているのは以前とは違う光景だった。


 それはレンがこの異世界で奪ってきた命たちの憤怒の声と残された家族たちの悲しみの姿。

 レンが倒れていても誰も悲しんではいない…。


 そうか、これが結果か。あの道を貫き通して俺の結果か。何の意味もない結果だ。


 レンがそれを理解した時、空間は消えていった…


☆☆☆


 鉄のこすれる音が部屋に響く、そんな部屋の前に一人の女が歩いてやってきた。そして彼女は語りかける。


 「…これで…本当によかったのかいレン?」


 その問に手にかけられた手錠を見ながらレンは即答する。


 「良かったんですよこれでレーベさん」


 憑き物のとれたような表情でレンはそうレーベに返す、…そうレンは生きていた。レンではなくミールの固有能力…超回復これは体のダメージを急速に癒すことのできる能力、力尽きレンの意識がなくなったことで自らを歪め使えないように無意識に封印していた能力が解放され一命を取り留めたのだ。


 「それよりこの牢屋へどうやって入ってきたんですか?今日は処刑日でだれも入れないようになってるはずですけど」

 「ふん、私は裏の人間だよ。手なんていくらでもある。誰も見送りにこないだろうあんたを心配して今日来てあげたんだよ。」

 「それは、ありがとうございます…」


 レンの素直な言葉に再度レーベは驚いた顔つくり言葉を発する。


 「あんた、変わっちまったね」

 「そうですか?良くないですかね?」

 「今も前もどっちも子供らしくはないが、私は自分を傷つけていたあの頃のあんたより、今のあんたの方が素直でいいと思うよ」

 「そうですか」


 その言葉により、話が終わり静かとなる空間。レンがポツリと切り出した。


 「やっと…気づけたんですよ」

 「…なにがだい?」

 「どんな道を選んだってどんなことをしたって結局は関係ない。正義が折れることもあるし悪が滅せられることもある。運命ってものがあるとは信じたくないけど世の中ってのは結局そんな残酷なものさ」

 「…」

 「俺は前回の自分を認めたかった。運命なんてない、自分があんな目にあったのは正義をしたからいけなかったんだ。悪いことをすれば報われる悪い奴だけがみんな生き残れるって思って今まで戦ってきた…でもさ、それって所詮幻想なんだよな。…はじめから悪いことなんてしたくないって素直に認めてさ、平和に…あいつらと一緒に冒険していたら俺は今ここにいなくて、勇者たちのそばにいたかもしれない。」

 「…後悔しているのかい?」

 「後悔は…しているさ、俺が今までやってきたことは全部無駄なんだって思い知らされたからな、まだ少しの報いがあった前回の方がましだった。いや、これは結果の話だな。この結果の話も所詮移ろうものにしか過ぎない」

 「…」

 「本当に大切なことは、自分のしたいように、自分の生きたいように素直に生きることだったんだ。正義であろうと悪であろうと、そこに残酷な現実があっても自分に素直に生きていれば満足することができる。…俺は結果と原因にこだわって過程を何も見てなかったんだよ。それがこの結果、この後悔さ、俺はあの時、胸を張るべきだったんだ。俺のおかげで一人のクラスメイトが救われたって、そして頼るべきだったんだ、大変な目にあってるから助けて欲しいって。…こっちに来ても結局俺のやったことは変わらなかった、見たかった結果を持っている男に嫉妬して、一人じゃつらい道だからって無理やり仲間を作ろうとして、黒幕倒して自分はもっと強いんだといい気になって。…ほんと馬鹿な奴だよ。だからさこれでよかったんだ。最後の最後で俺は自分のしたいように生きる。それがどんな結果になろうと俺はそれを受け入れる。それで俺は満足なんだ」

 「そうかい、あんたが大人しく捕まってギル殺しまで白状した時はどうしたのかと思ったけど。そうかいそれであんたは満足したのかい」

 「ああ」

 「ここから抜け出せるって言われても逃げる気はないんだね」

 「そうだ」

 「そうかい」


 レーベはレンに背中を向けたそして出口へと歩いていく。顔を見せないように。


 「レーベさん、あの子と勇者たちのことは…」

 「わかってる、あんたのおかげで罪がなくなったあの子はしっかりと私が影から見守っていってやるよ。罪がなくなったからって言ったて色々な壁はあるだろうしね、勇者たちには女王殺しの真実は言わないでおいてやる。…私が調べた資料も見せることはしないと約束するよ」

 「そうですか、色々迷惑をかけます」

 「ふん、あんたに迷惑をかけられるのはこれが初めてじゃない気にするな」


 そう言った直後、レーベはおもむろに金貨を取り出しレンに投げた。レンは両手でそれをキャッチする。


 「レーベさんこれは?」

 「あの世に行くのにしても金はあったほうが良いだろう?…これは今までのあんたの頑張りに対する褒美だよ。…やったことは褒められることではないけど、あんたが苦しみながらも頑張ってきたのを私は見てきた、誰だってどんなやつだって誰かがその人のことを見てくれている、認めているってことさ」

 「レーベさん…」

 「さて、湿っぽいのは裏には合わないね、私はこれで失礼するよ。次があったとしたら今度はあんたの思うようにいきな。…それじゃあね」


 そうやってレーベは一回も振り返ることなく去っていった、流す涙を見せないように。


 「本当に不器用なやつだよ…」


 その言葉は通路の向こう側の光へと消えていった。


☆☆☆


 「罪人レン。王国近衛騎士団副団長ギル殺し、そして第一王女殺し、その他さまざまな罪によりこの者を死罪とし、処刑を執り行う。連れてまいれ」


 その言葉により、首にかけられた拘束具を乱暴に引っ張られ、レンは引きずられるように罵声の渦巻く広場へ連れ出される。

 一歩一歩歩くその先は広場の光で満たされていて、レンはレーベからもらった金貨を絶対に落とさないように強く握りしめ、処刑台の上に立った。

 ふと、目をそらすとそこにはヨファたちがいた、確固たる意志でこちらを見ている彼はレンの視線に気づくとうなずいて見せた、レンはそれに微笑みで意思を返す。そのせいで罵声がひどくなるがもうレンにとってそんなことはいやそんな結果はどうでもよかった。

 晴れ渡る空の中刑が執行される。レンはそれが終わるまで微笑み続けて見せた。


 …世界に流され現実に流され続けた男の一生はここに終わった…


☆☆☆


 日本のとある場所、一人の少年が地面へと花を手向けていた。同じように花を持ってきていた者は彼にそれを訪ねる。


 「あなたもレンの知り合いですか?」


 彼はその言葉を聞き、苦い顔をした後気を引き締めて言葉を紡ぐ。


 「知り合いってものではないですよ。僕は彼に救われた人間だ」

 「救われた?」

 「そう、彼に救ってもらった。だけど僕は救ってくれた彼に酷い仕打ちをしてしまった。救われたのにもかかわらずに…僕が弱かったから、僕が逃げてしまったから」

 「…」

 「彼がいなくなってからこの後悔に気付くなんてね、僕は本当にいやしい人間だよ。…でもそのままじゃいけないんだ。それじゃ何のために彼に救ってもらったかわからない」

 「…それであなたはどうするつもりなの?」

 「戦うつもりさ、彼と同じように、とはいかないけどもうあいつらのすきにはさせない。ここにはその決意表明でやってきたんだ。」

 「…そう」

 「レンさん、今更許してもらえるとは思っていないけど、これからの僕のことを見守っていてくれ僕は君の代わりにこの世界を良くして見せるよ」


 その少年、あの時のクラスメイトはそういうとその場を後にした。一人の決意は決まった未来を揺るがいしていく、この世界の結果はまた変わっていくのだった。

終わり方の賛否はあると思いますが、最後レンは素直になって自分のしたいことをしたのでベターなエンドだと思います。バッドエンドと思うかたがいてもそれはそれで構いません。

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