表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

しめじ三郎 幻想奇談シリーズ

しめじ三郎 幻想奇談~つかみ取り~(888文字お題小説)

作者: しめじ三郎

お借りしたお題は「つかみ取り」です。

 神田律子は新米ママ。仕事帰りにスーパーで食材を買い溜めしようと思い、今日は娘の雪を母に預けてきている。駅を出ていつもの商店街を進んだ。帰宅時間なのでどこの店頭にも仕事帰りの主婦達がドッと押し寄せている。律子はいつものスーパーに行こうと路地を曲がった。ところが、そこにはいつものスーパーはなかった。

「あれ? 曲がり間違えたかな?」

 周囲を見渡すと曲がり角にある薬屋の看板はいつも通り、向かいの靴屋も同様。なのにスーパーだけがない。

「移転したのかな?」

 一週間来なかっただけでそんな事があるだろうか? 不思議に思いながら、スーパーがあったはずの場所へと歩を進めると、少しだけ路地から奥まった所に別のスーパーがあった。そこも買い物客でごった返していた。

「卵十個で九十九円!?」

 ここのところ、卵が値上がりしているので、律子は狂喜した。

「お醤油が一リットルで百円? どうなってるの、このお店?」

 律子は目を見開いたままで店内へと入った。

「タイムセールです。これより、つかみ取りを開始します!」

 捻り鉢巻でハッピを着た店員が叫ぶ。周囲にいた客が途端に殺到した。律子も何だろうと思いながら、行列に並んだ。前にいるのは老夫婦、後ろにいるのは部活帰りらしき中学生女子。老夫婦の前にいた女子高生が穴の開いた大きな箱に手を突っ込んで取り出したのは携帯電話だった。

「え?」

 律子は変に思った。スーパーのつかみ取りで携帯電話? 老夫婦は入れ歯と補聴器を取り出した。ますます意味がわからなくなった律子だったが、取り敢えず箱に手を突っ込もうとした。

「ああ、ダメダメ。貴女はダメです、奥さん」

 ハッピの店員に止められ、店から追い出されてしまった。

「どういう事ですか?」

 カチンと来た律子が食ってかかると、店員は律子から買い物かごも取り上げて、

「貴女にはまだ資格がないんです。お引取りください」

 深々と頭を下げた。律子は納得がいかなかったが、

「わかったわよ」

 店員を思い切り睨みつけてその場を離れた。どうしても腹の虫が収まらないので振り返った。

「え?」

 するとそこには火事で焼け落ちたスーパーの残骸があるだけで、店員も客も誰もいなかった。

ということでありました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 律子ママさん危機一髪! あのまま、あの場所にいたらもしかして・・・。 そう考えると、背筋の寒くなる話ですね・
[一言] 舞台は現代ですけど、昔話を思い出しました。 昔話だと助けてくれる何者かがいたりするもんですが、この場合は店員さんになるんですかね。ネット全盛でも死者の国ってのはなくなりそうもないなぁと、あま…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ