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現代神様  作者: 有富有馬
6/23

神隠事件・・・・そして貴方は

・・・・・大丈夫ですかね・・・・・



・・・・・まぁ何とかもってはいるが・・・・・・それよりお前の方は・・・・



・・・・何とも言えないですね・・・・



 うっすらと声が聞こえてくる。



 今まで何があったのだろうか記憶がさっぱり浮かんでこない。



 (・・・・・・あれ・・・・デジャヴ?)



 こんな感覚での会話を聞いた事がある。たしか一日前の気を失ったらしい時の記憶だ。



 最初の思い出せる記憶は確か連に弁当を届けた件・・・・・それから・・・・何があって今の状況に至るのか・・・・



(そう言えば皆で花火を見ていてトイレに行ったんだよな・・・・・それで・・・・)



 その考えに至った瞬間、ゾクリ!!と体中の毛が逆立った気がした。



 それと同時に妙な眠気など吹き飛び一揆に目が覚める。



 「はっ!!、はっ!!、はっ!!」



 勢いよく起こした体は夏だと言うのに驚くほどブルブルと震えている。



一生懸命両手で体をこすり体温を上げようとするが、頭と体に残る記憶が感じる寒さを下げることを許さない。



 本当は体温など下がってなどいないのに。



 異常なほど冷たい手が自分の頬に触れた感覚をハッキリと覚えている。むしろ今も触れられている気がしてならない。



 「俺は・・・・・!!」



 両目をつむり意識を記憶探りに向ける。しかしその後の記憶は全く浮かんでこない。



 浮かぶ記憶はそこまで、しかも得に浮かぶのはやはりその冷たい女なの記憶。



 しかし、記憶と感覚、そして心のそれぞれの端にあるこの妙な淀みの様なモノは何なのだろうか。まるでそこだけ埋め尽くされたような感じだ。


 

 しかしそれ以前の記憶がないということは、響は死んだということなのか。なかなか飛躍しすぎぎな気もするがあの状況だったのだ。もし死んだとしても不思議ではない。



 「響・・・・・・・」



 その考えを否定する声が聞こえる。



 聞き慣れた声だが、ちょっと重く、心配している様にも感じ、言いたそうで言いたくないという様々な感情が入り混じった声。



 「一真・・・・・さん?」



 「・・・・・」



 「??」



 身近な人物を見たためか、少し心に余裕が出来た気がする。



 苦い表情を浮かべたまま、言葉をつなげない。すぐ隣にいる栄吉も同じような表情だ。



 この場の空気は何なのか、それに何故今この場所にいるか。



 そこはあの場所とは違う、須川家の一室。



 ここまでデジャヴが重なると恐ろしくも思えてしまうが、階段で気を失ったのと同じような状況。やはりと言うべきか、もちろん死後の世界にこの二人がいるはずもなく、何処かで気を失い家まで運ばれたのだろう。



 ここにきてようやく自分が生きており、気絶していたことを知る響。今なをあの光景が頭から離れない中でなぜか冷静にそんなことを思えてしまう。



 (あれは・・・・・夢だったのか・・・?)



いや違う。響は確かにしっかりとあの頬に触れる氷の様な冷たさを覚えている。



 では一体何だったのか・・・・・・

 

 「一真さん」



 「っ・・・・・」



 黒い瞳を威嚇するかのように響は一真に向ける。



たいして一真はまるでうしろめたい事があるかのようなな表情で視線を横にそらす。



 響だって馬鹿じゃない。


 

 あの場で起きたことが夢でない事は実感している。



 あの女の行動は間違いなく響を殺しにかかったものだった。



ならば何故?



なぜ今生きているのだ。あの後の記憶が一切浮かばない響はそれを知るすべはない。



 普通はあんな場で人が倒れていたら病院に連れて行かれるはずだ。それなのに今は須川家にいる。



 それはほかならぬこの二人が関わっているからだ。



病院に連れて行くという路線をとらず、知り合いの家にいるということは助けだしたのはこの二人なのだから。



 今思えば近頃妙におかしなことが自身のことで起きる中で、確実にかかわっているのはこの一家だ。



 今まで見たことがない様な夢を見ればそれはこの一家の家柄に関係している。



前に響が倒れた時も今回と同じだ。



一時間起きなかったのにもかかわらず、保健室という精密な検査すらできない場所で、その後に病院にいたのではなく何故かこの家だ。



 二人は何かを隠している。



いやもしかしたら香澄もグルになってかもしれない。



そうなってくると勿論自身の家族の事も疑いの対象になるが今はそれは置いとくとしよう。


 

 今目の前にいる二人は響にとって、いや神塚響という存在その者の根底から覆す何かを握っているのかも知れないのだ。



 女がまるで探していたかのように自身を襲ったのもその証拠。



今一真が顔をそらしたのもその証拠だ。



 あの夜の後何が起きたのか、自分に一体何が起きているのか、



 その真実を知るのはこの二人なのだ。


 

 「一体・・・・・何が・・・・・俺に何が・・・・・・起きているんですか?」



 少し恥ずかしい気がする。



 こんなセリフまるでアニメの悲劇の主人公の様なセリフだ。小恥ずかしセリフではあるが、今聞きたいことは何よりもそのことなのだ。



 「言わなくては・・・・・ならないか・・・・」



 小さくと息を漏らし、いかにも言いにくそうな顔を浮かべている一真に変わって言葉を紡いだのは栄吉だった。



 「本当ならば・・・・・知らずして過ごしてほしかった。本当ならお前を巻き込む様な事はしたくなかった」


 紡ぎだされるその言葉は少し震えているようにも聞こえる。



 その言葉通り本当にそう思っているのだろう。



しかしその言葉は響にとって決して良くないこの状況で、はたしてまだマシに働く言葉だったのか、それとも監禁、または死ぬことすら覚悟しなくてはならないという最悪な意味を持っているのか。


★★★★★★★


「ここで話そう・・・・」



 場所は移動され、社務所の一室。



 響も時々のぞいたことがあるが昔から変わらない部屋。



 畳の上には大きめの木の机。少し離れた所には地デジに合わせてかテレビも新しいものに変わっている。



 夜道を歩いてきたためか、電灯をつけると少し目が痛い。

少し涼しさも感じながら、二人は机を挟み響の前に座る。



 「な・・・!!」



 しかしそこには驚くべきものがあった。



 昔から変わらない部屋、そこには1人の女性が布団の上で寝ているのだ。



 白い着物に黒い髪そして異様な印象を持たせる帯についている鈴、童顔の女性の顔に響は見覚えがある。



 忘れようにも忘れられない。



 姿だけなら幽霊を想像してしまうその姿。



 「なんで・・・・・コイツが・・・・」


 

 それは響を襲った女。



 冷たく、陶器の様に色白な女だ。



 しかしその姿はひどくボロボロだ。もちろん来ている物もそうなのだが、会った時よりも頬の肉が落ちてかとてもほっそりして見え、それは足も腕も同じような感じだ。



傷で弱っているというよりは衰弱で弱っていると取れるその姿は対峙した時とは全く違った姿。



 衝撃だった。なぜ今ここにこの女がいるのか。



 体が恐怖で動かなくなる。



 するとコテンとその場で尻もちをついてしまう。



 「おい・・・・大丈夫か?」

 


 何とも冷静な声で一真は話しかけてくるが、冷静でなどでいれるはずがない。



 むしろ何でこの2人が冷静でいられるかが不思議でならない。というよりなんでこの場にこの女がいるのだ。



 すると今まで閉じでいた女の(まぶた)が上がり、ゆっくりと響の顔を見る。



黒い瞳と目が合ってしまう。それだけで響の体は金縛りにあったかの様に動かなくなる。




 「ああ・・・・・ごめんなさいね・・・・・・」



 「え?」



 予想外の言葉に響は呆けた声を上げてしまう。



 とてもつらそうな顔で優しそうな笑顔で弱弱しくこたえるその女。



 あの時の笑顔とは違う。



 獲物を狩る様な無慈悲な笑顔ではない。とても優しそうで、そしてとても申し訳なさそうで、悲しそうな笑顔。



 その笑顔を見ると何だが母性の様なものを感じてしまう。


 「大丈夫かの?」



 栄吉は女の真横に座るといたわりの声をかける。



 「はい・・・・お二人とも本当にありがとうございます」

  


 どういうことだ。



 あの時とは180度違う女の態度に戸惑いを覚えてしまう。

 2人は事情を知っているようだが。



 ふと気づくと先ほどまでの手の震えが止まっている。自身も気づかぬうちにこの女に安心感を覚えてしまったのか?

 


 「彼女は・・・・お前を襲いたくて襲ったわけではない」

 「??」



 「お前の事も含め・・・説明するには17年前の【神隠し事件】にまで遡らなければならない」

 


 神隠し事件?



 響からしたら聞いたことがない事件だ。



 大きな事件ではなく田舎で起きた事件なのだろうかと思うが事件的に17年前だ。生まれていない、ないしは0歳の時の話だ。記憶になくて当然である。



 栄吉は目をつむりながら続ける。まるで現実を逃避したいかのように・・・・・


 

 「あれは悪夢じゃった。全国で、800人もの人が被害にあった・・・・」


 800人?



 響は目を見開いて聞いてしまう。



日本人口1億人に対して8000人は微々たるものだろが、一つの事件で五百人の犠牲者を出すなんてありえないような事件だ。飛行機をハイジャックしたってお釣りがくる。

 戦争レベルでしか起きないような事件だ。

 

 

 桁数が一つ二つ上がるだけで感じる事件の大きさ、普通これくらいの事件なら何年たってもテレビで放送されてもおかしくないと思うのだが。



 「実質的な死亡者は八分の四・・・・400人だと言われているが・・・・・その後の自殺者などはプラス、200人・・・・・それも事件の名前通り神隠しの如く全ての人々が姿を消している状態でだ。」



 補足する形で補ったのは一真だった。



 「残りの人々も、精神の崩壊や今なを俺達の機関の治療を受けている人が多い・・・・事件としては俺達の機関が抑えてはいるからそこまで表立ったことにはなっていないがな」



 「・・・・なんなんですか?・・・・その・・・・【神隠し事件】っていうのは・・・」



 二人の会話の節々に見られる言葉キーワード



 機関、治療そしてそれらを包む一つの言葉【神隠し事件】



 歴史にその事件の事は名前としてしか残っていないそれは今神塚響という存在に関係してるのだ。

 

 

 「それは・・・・・人間の仕業であり、仕業ではない事件・・・・・・『悪鬼』と呼ばれる、死食い、人食いの化け物が引き起こした事件だ。」



 一瞬電灯が消えて、再度つく。



 「そして・・・・・神話の時代から続く鬼と神の戦いの事件だ」


 「神と・・・・・鬼の戦い?」



 神と鬼、どちらもとても信じがたい存在。それを突然言われても信じることなどできるはずがない。



 しかし響は違う。



それを経験しているのだ。



それこそ幽霊や妖怪といったたぐいであろう女との遭遇そして最近時々見ていた素戔嗚尊の夢。


 

  「つまりその・・・・そこにいる・・・えっと・・・・女の人も・・・『悪鬼』?・・・・・」



 チラリと布団の上で横になっている女の顔を見る。



 「正確には悪鬼ではない・・・・」

 「・・・・・は?」



 悪鬼ではないとはどういうことだ?



 さっきの説明からだと確実にこの女が悪鬼という存在だと思っていた響は頭の中が混乱してくる。



 

 「『悪鬼』とはあくまで妖怪という存在を悪か善かで分けた時、悪に属するもの達の名称じゃ。簡単に言えばこの女性は善の妖怪ということだ。本で読んだことがあるだろう。人を助ける妖怪の話などを」



 「いや・・・・でもその人は俺を・・・・」

 「だから襲いたくて襲ったんじゃないんだ。」



 響の疑問を遮るように一真が言う。

 


 「彼女は悪鬼に巻き込まれたんだ・・・・・・・悪鬼がお前の血を手に入れるためにな・・・・・・・」



 「!!!」



 後頭部をハンマーで殴られたかのような衝撃が走る。



 そうだ、この女はあの時確かに言ったのだ。『あなたの血を頂戴』と



 何故だかすっかり忘れていた。自分の頭で処理できないようなことが一気に来たからか、とりあえず響にとって重要なキーワードを思い出したのだ。



 「そうですよ・・・・なんでこの人が・・・・・俺の血を・・・」



 勿論響に自身の血を求めることに心当たりなんてない。



 つまりそのことも知られていない真実であり、響がこれからの人生を左右する鍵なのだろう。


 

 「それは・・・・あなたの血が彼らにとって重要なものだから」



 「・・・・え?」



 視線を上に向けその黒い瞳で彼女は告げる。



 「どういう・・・・?」



 「・・・・・17年前の事件の発端は1人の神の誕生が理由だ。」



 「1人の・・・・・誕生?」

 

 17年前の事件。そしてそれは響が関係している・・・・・・



 考えれば考えるほどイヤな考えが浮かんでくる。それはズブズブと沼にはまっていくかの様な感覚だ。


 

 「いつからかは知らないが・・・・・・日本神話に現れる神々は・・・・・世界の・・・・自然の調和を守るために古来より悪鬼を討ってきた。長い年月が経ち、神々はその魂を人として過ごすことにした。理由を知ることはできないがな。そしてその魂はいつの時代でも目覚め人として、神として悪鬼を討ち滅ぼしてきた。」



 ゆっくりと語り出したの栄吉だった。



 「一真もその一人、火の神加具土命だ」



 響はその言葉がしっかりと頭に入ってくる。それは隠された世界の真実を知る好奇心というよりは、本当は知りたいが真実を知りたくないというあいまいな気持からだ。



 「そして17年前・・・・・1人の人間、神が生まれた・・・・それが神隠し事件が起きた理由。」



 それはつまり・・・・・・ここまでくれば分ってしまった。



その人物が誰なのかが

 


 「お前だ・・・・・・響・・・・おまえが素戔嗚尊の生まれ変わりなんだ」



 栄吉に変わり、それを告げたのは一真だった。



 「・・・・ッ!!」



 ドクン!!と心臓が大きく鼓動した気がする。



 予想通りの答えが聞こえてきた。それでも体に響いてくる。むしろ予想できていたからこそこの程度の驚きで終わったのかもしれない。



「俺が・・・・・・俺がどう・・・・・関係してくるんですか?」



 またもやいいにくそうな表情を浮かべる二人。



 反対にギリ!!っと奥歯を響は噛み締める。



 それは果たして怒りなのか真実を知ったことに対する悔しさをかみしめているからなのか。



 「悪鬼がお前を狙うのはお前の血が・・・・・・素戔嗚尊の血が悪鬼に力をもたらすからだ。」



 「おれの・・・・・血が?・・・」



 これが真実なのか。自分の両手を響は見る。今体内に流れていいるこの血が何故そんな力が・・・・・



 やはり真実を求めるべきではなかったのか・・・



 「俺は・・・・・」



 答えを求めたからこそ、響は今、



 「俺は・・・・・」



 自分を失いそうになっているのだ。




 「俺は・・・・・・!!」



 一体なんだ?



 今までの17年間の人生。その中で自分の全てを知っているなどと思ったことはない。



 しかし、余りにも・・・・・・余りにも知らないことが多すぎる。



 それは今まで理解してきた自分という人物像を粉々に破壊されるかのような、



 それは今まで自分が創り上げてきた自分という存在が偽物であるかのような、



 そんな自分という存在を否定されるということは、それは17歳という少年にはとても重く、もはやどうしたらいいのかさえも・・・・・・



 「素戔嗚尊は高天原で横暴を振るった。それは悪鬼の行為に近しい行為。さらにその後は強大な力をもつ悪鬼、八岐大蛇を対峙している。その為にその血は悪鬼に力を与えることになったのだ。」



 「・・・・・・・・」



 「響?」



 一切動かない響に不安を感じたのか一真が問いかける。しかし答えない。



 そのボサボサツンツンの長く伸びた黒髪はうつむいた響の目を隠すには十分で響の口はまるで縫われたかのようにしかっり閉じていて、



そのこぶしは爪で血が出るんじゃないかというほどに握りこんでいて、



 一真に響の心情を察することは分らないかった。



 いやそもそも分らないのは当たり前なのかもしれない。



 一真も響と同じ存在だ。



 それでもその経緯は大きく違う。



 知ることなどできないのだ。



 自分が経験したこと以外に他人の心情を知ることなどできないのだ。



 所詮は分っている気になっているだけなのだから



 しかし、一真の問いに反応してか、遅れながらも響はふらふらとゆっくり立ち上がる。



 そこにいる三人は不安そうな表情を浮かべながらもその行動に疑問符も浮かべている。



 心情を掴もうとする不安、何をするのかという疑問、そしてどうしたらよいのかという疑問と不安。



対処に困ることを伝えねばならなかった者はどうしてら良いのか浮かぶことすらできないのが当然だろう。



 そんな複雑な感情と表情の三人を見ることもなく、存在意義すら揺るがす現実を討ちつけられた少年は何も考えることなどできるはずもなくゆっくりと部屋の襖を開けよたよたと去って行く。



 その背中は今まで見てきたことがないほど弱弱しく見える。

 


 襖は開けられたまま。



響は全ての扉を閉じることなく社務所から去って行く。



 静かな夜にその音は逐一聞こえてきており、響が出てから30秒もしない内に一真が立ち上がろうとする。



 「一真・・・」

 「・・・・・」



 それを栄吉は止める。



 おそらく一真が響を追うと踏んだのだろう。一真にとってもその言葉はそのようにとることが出来た。



 ゆっくりと一真は座りなおす。


 「お前も気づいているだろう・・・・・同じような運命でも響とお前は境遇は違う。・・・・・・あいつは17年間自分をただの人間として生きてきたんだ。それはお前とは違う。・・・・そっとしといてやれ・・・・・誰も・・・・奴の気持ちを察することなんてできいのだから・・・・」



 無慈悲だと思える栄吉の一言。しかしそれは的を射た答えだ。



 なにか苦いものを噛んだかのように一真は表情をゆがめる。



 悔いているのだ。



 自分が響に何もしてやれないことではない。



 自分が響の事を分っていると思って追いかけようとしたことをだ。



栄吉に言われて今わかることが出来た。



 響と自分では運命は似ていても境遇は違う。



 自分は生まれながら神という自分を受け入れることが出来た。でも響は人間として生きてきたのだ。一真がその気持を理解することなどできはしないのだ。

 


 「とても・・・・重い人生ですね・・・・・・・神とは・・・・・とりわけ彼は・・・・」



 女は眼を閉じながら何かを感じる様にそっと呟く。

 それに二人は何も言うことが出来なかった。


★★★★★★★★★★


自分は何なのか・・・・・

一体何度めだろうか、自分にこの問いを投げかけているのは。



 響は今自分のペットの上で夏布団にくるまって壁に寄りかかっていた。



 ベットの下にはガラスコップがあり、水がこぼれている。

 

 放心状態。



 今の響をいうならそう言うしかない。何を考えているかは問題ではない。はた目から見ればそれはそう言うしか言葉が無い。



 ドクンドクンと一定のリズムで刻まれる心臓の音が聞こえる。

 

 改めて問う。



 自分は何者なのか。



 あの場の三人から言われた自分の事実。



それを言われても自分の中でそれを受け入れることなどできるはずもなく、17年間という自分と、神という突然現れた自分が戦っているかのような感じだ。



 ドクンドン!



 心臓の音が加速している気がする。



 響は栄吉たちに言われた言葉を脳内で再生する。



 

 ・・・・・17年前の事件の発端は1人の誕生が理由だ。

 そして17年前・・・・・1人の神が生まれた・・・・それが神隠し事件が起きた理由。



 お前だ・・・・・・響・・・・おまえが素戔嗚の生まれ変わりなんだ。



悪鬼がお前を狙うのはお前の血が・・・・・・・素戔嗚の血が悪鬼に力をもたらすからだ。


 その言葉が響に重くのしかかる。



 17年前の神隠し事件が響のせいで起きた。



 そして数え切れないほどの人が犠牲になった。



 それはつまり・・・・・・



 「ック!!」



 ドクンドクン!!



 やめよう・・・・・・



 さっきから同じことだ。

 答えはすでに脳内で出ている。



 しかしその答えはとても恐ろしくそれを背負わなければならないと思うと!、とてもじゃないが口にすることなどできはしない。



 逃げて逃げて逃げて逃げて・・・・・・逃げるしかないのだ。向き合うことなどできはしない。



 その真実を、たとえ心の中で思っしまってさえも自分が本当に壊れて消えてしまいそうだから



 逃げるしかないのだ。



 いつかは消えてくれる。



 そんな投げやりな気持ちが浮かぶ。



絶対あり得ないのに。



それを受け入れなければ自分の今の状況を受け入れることなどできはしないのだから。



 一歩も前に進むことなどできはしないのだから。



 受け入れなければ言葉通り、響は『生ける屍』となるのだから。


 

 ドクドクンドクン!!!

 


 鼓動がさらに強くなる。


 

 妙に体が熱い。



 布団のせいか・・・・・・・



 取ろうとも思えるが今この布団をとってしまえば自分を守る壁が消えてしまうと思えた。



 月の光すら刺さないこの部屋の闇から何かの手が自分を連れて行ってしまうと思えた。



 たった一枚のうすい布団が、今の響が現実という攻撃から自分を守る為の壁だ。



 なんともはかない壁だ。



 力ずくですぐに壊される壁だ。



 しかし闇はそんな壁を無視するように入り込んでくるように思える。



 じわじわと、それこそ火が肉を焼く様に。



 響の隅々まで黒一色で塗りつぶす様に。



 ドクンドクンドクン!!!!!



 熱が全身にまわる。


 

 「もう・・・・・・・いいや・・・・」



 ボソリと響は呟く。



 疲れた。



 それが心に浮かぶ今の自分を表現する言葉だ。



 「もう・・・・・どうでもいいや・・・・・・」



 受け入れなければ前へは進めない、でも受け入れることなどできはしない。



 「どうでも・・・・いいや・・・・」



 ゆっくりと瞼が目を覆う。



 するとゆっくりゆっくりと心地よい睡魔が響きを包みこむ。


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