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現代神様  作者: 有富有馬
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加具土命(カグツチノミコト)

8月18日、深夜2時日付が変わる頃からかポツポツと雨が降り始め今では川の水が増水するほどの雨が降り注いでいる。



 それと同じく空にはゴロゴロと雷が鳴り響き周りの木々はザワザワと大きく揺れ葉についた水滴を彼方まで飛ばしている。



 このまま降り続けば木々を支える土がぬかるみ土砂崩れを起こす、それほどの大雨が降り続ける中でも人々は静かに睡眠をとっている。



 それは現代における人間の調和と言えるかもしれない。



 「はぁ、はぁ、はぁ・・・・」



 しかしその調和をまたしても壊す様に存在する生物。



 それは昨日の夜と同じ光景・・・・



 同じように何かに脅え、同じように息を上げている。しかし違うのはその体を焼きつくす様に現れている紅蓮の炎。



 この雨の中、闇夜を照らし出す炎は消えることなくその生物を外側からも内側からも焼きつくす。



 

 ドスン!!

 


 「ぐ、ぐおおおおおおおおおおおおおおお!!!」



 瀕死のその生物に追い打ちをかける様に何かが突き刺さる。



 刀・・・・・いや正確には剣だ。



 両刃の剣が炎を纏ってその生物の動きを完全に止める。



 「さっさと吐いてもらおうか・・・・・」



 ベチョリとぬかるんだ地面を踏み、1人の男の声が聞こえる。



とても冷酷に、これから拷問をする者の様な声で右手に持った一振りの刀の切っ先を向け、その表情は事と次第によっては躊躇なく黒金の刃が振り下ろされるのを暗示させる。



 「お前にいうことなど・・・・なにも・・・・ない!!」



 その生物がそう言い放つと同時に今までで、一番強烈な音と光をだし落雷が落ちる。その光でその男の顔がハッキリと確認できた。



 茶髪を首元で束ねた、顔立ちの良い男、命道一真だ。



 その生物のものだろうか、顔の頬に真っ赤な帰り血が付いており、より一層昼間の一真とのギャップを感じさせる。



 そうか、そう呟くと生物に刺さっている剣の柄尻に手を乗せると、



 「う、う゛ぉぉぉ!!」



 その生物が低い悲鳴を上げるのと連動してゆっくりと柄尻を押し刀身を食いこませていく。しかし激痛の割には食い込んだ刀身の長さは十センチにも満たない。まだまだ刀身は残っている状態だ。



 「面倒な奴だ・・・・早く喋ってくれないか?明日の朝も早いんだよ・・・・」



 「ぐ・・・・・・・」



 あくまで無言。なにがなんでも喋らいないという意思表示を見せるその生物に一真は、はぁと溜め息をつくと右手の刀をクルリと持ち替え振りかざす。



 グシュ!!!



 「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」



 今までにない絶叫を上げる生物。



 先ほどの音とは違う生々しい音、それは一真が刀で右目を貫いたのだ。



 不幸なことに、その生物の体力は人間を遙かに超える。それが災いして死ぬことどころか気絶させることすら許されない。さらに両手は一真の足で動けずのたうち回ることすら許されない。痛みを純粋に感じることしかできない状態。



 「喋る気になったか?・・・・・」



 あくまで冷酷に語りかける一真。それに対して生物の表情は怯えという恐怖しか映っていない。



 「・・・・・・・」



 だがそれでも喋ろうとはしない。

 

 ズブズブと刀は刺さって行く。



 その度に悲鳴を上げ、沈黙、そして刺す・・・・・その繰り返しが流れ作業の様に続いていく中、雨はその勢いを増し、雷はさらに轟く。



 何分たっただろうか、すでに刀の刃は鍔元まで突き刺さり、目から流れる血の量は人間の致死量と呼べる量かもしれない。



 その真っ赤な血は雨によって流れ、水面に絵の具を落としたように拡散していくものもあれば真っ赤な川の様に流れる者もある。



 「さて・・・・・じゃぁ次の左目を貰おうか・・・・・」

 


 グチュ!!!



 またしても気持ちの悪い不快な音がなる。胸に刺さった剣を今度は左目に突き刺したのだ。その剣をグチュグチュと掻きまわす様に・・・・・



 「あ・・・あ゛あ゛あ゛ぁ!!!・・・・・」



 「次は・・・・炎だ・・・・」



 2本の刀剣が赤みを帯びるとゆっくりとその生物の中に入って行く。それはまるで命を吹き込むようにも思える。



 「う、がぁぁぁ!!」



 しかし実際は違う。内側からゆっくりと、ジリジリと五臓六腑を焼きつくしているのだ。



 「さて、吐いてもらおうか・・・・」



 冷徹な言葉に対して荒れる様な声は否応でも頭にこびりつく。


 「よ・・・」

 「??よ・・・?」



 ついに喋る気になったのか、何かを喋り出す。



 「よ、よよよ、、よよよおおおおおおおおおおよよよよよよよよ!!!」



 「あ??」



 長く乱れ切った髪の隙間から見える目から血を流しながら、狂いだしたようにその生物は喋り出す。まるでバクを起こしたゲーム機の様だ。



それはまるでストッパーの様に何かを止めるような行動にも思える。



 「よよよよ・・・・・・・・・」



 気づくと先ほどまで吹き荒れていた風がピタリとやんでいる。それと同調してかは分らないがその生物の狂いだしたような、言葉もピタリと止まる。



 背中が何だかもどかしい気がする。雨によって濡れた布の張りついた感触、背中を伝う水滴の冷たさとは違う妙な引っかかりのような感覚だ。



 『お久しぶり・・・・・いや・・・・初めてといったところかな、加具土命・・・・』

 「!!」



 もどかしさが、背筋を駆け巡る電流に変わる。先ほどの女の声とは打って変わって、飄々とした軽い調子の男の声。その表情も先ほどの苦しんだ顔から一転し、ヘラヘラした何かの薬に充てられたかのような表情に変わっている。



 率直に思う、この声の主は誰なのかと・・・・・



 「お前は・・・・」



 妙に伝わってくる緊張感は先ほどのものとは数段に違ってくる。理由は分らないがハッキリとしていることは人格が入れ替わり、相手は自分が何者であるかも分っている事・・・・そしてこの悪鬼とは比べ物にならないほどに強力な悪鬼であるということだ。



 「お前が・・・・・夜鳥か?」



 数秒の間が置かれる。いきなり割りこんできたと思ったらだんまりを決め込まれるのはなかなかいらつくものだと感じる一真、まさか国と国とで行うライブインタビューの様に電波が伝わるまで時間差があるというのか。



 そんな何とも滑稽な思いを打ち払うかの様なタイミングで、



 『どうかな?・・・・しかしどちらにしても、この木偶の坊のクソ女は拷問に負け、ぺらぺらと奴隷の様に喋ろうとした。その口止めの為に割りこんできたんだ・・・・・いやはやこの女のいう通りだよ。言うことは何もない。』



 キッパリとそう言いきる男の声。



 「そうか・・・・・分ったよ・・・・」



 一真は諦めたように溜め息をつくと根元まで食い込んだ刀をいっきに引っこ抜く。



やはりと言うべきか先ほどまで大きな悲鳴を上げていた女の悪鬼はヘラヘラした表情を変えず、何の痛みも感じていないといった表情だ。



 「意識をパクられてちゃぁ・・・・聞くにも聞けねぇからな・・・・・ここで、おさらばだ。」



 一瞬のうちに刀にマグマの様な紅蓮の炎が宿る。刀に触れる雨だけではない周りの雨も蒸発させ、濡れた一真の衣服も一気に乾かしている。



 「消えろ・・・・!!」

 『前言撤回というべきか・・・・・』



 今にも振り下ろそうとした時だ。不意の予想外の一言に寸前のところで一真の刃が止まる。



 「ああ?」



 『直接関係ない事だから教えてやる。』



 一切表情を変えないまま、17年前、そう悪鬼をのっとた者は切りだす。



 『あの【神隠し事件】とお前らが読んでいる出来事・・・・・・』



 ピクリと一真の目が一瞬つりあがる。



 いやな思い出が脳内の中で駆け巡りだす。その中でひときわ思い出すのはある二人の夫婦の死だ。



 とても明確に、来ていた人間の顔の1人1人までハッキリと覚えている。



 そしてその前で泣きじゃくる1人の子どもの姿が何より印象的だった。史上最悪の事件にして悪夢、そして決意の日でもある【神隠し事件】



 「それが・・・・・・どうした?・・・・」

 『君たちがどうとらえているかは知らないが、勘違いしてはいけない』

 「勘違いだと・・・・・?」



 『そうだ・・・・あの事件はなんてことはない。あの事件は・・・』



 真実をいおうとした時だった、



 瞬きすらせず凝視していたはずの悪鬼の首が奇麗に吹き飛んでいるのだ。



 いつの間に、また誰がどうやって・・・・



 しかし気がつくとまるで台風の目の様に止まっていた風が一瞬にして暴風を巻き起きているではないか。あまりの出来事に刀に宿った炎も消えている。



 「これは・・・・・」



 バッと鋭い眼光を後ろに向ける。



 一真が見たその切り口は異様なまでに鋭く、そしてほとんど血が出ていないのだ。それはカマイタチと言われる自然現象。一真も幾度か見た記憶があるからすぐに理解することが出来た。



 ざぁざぁと強い雨が降り続ける中でそこには1人のシルエットが浮かんでいるがやはり暗闇なだけあってまったくもって顔を拝むことが出来ない。



 「誰だ・・・・?」



 大事な話の途中で妨害する形で乱入してきた侵入者。はたしてこれも口止めの為の悪鬼の手先なのか・・・・そんなことを思いながらも一真は刀を構える。



 だとしたならば、こいつをとらえれば芋ずる式に黒幕が判明してくるはずだ。



 「・・・・・」



 しかし、またもや不可思議な事が起きるのだ。吹き荒れる暴風はそのシルエットの男を中心にして一つの竜巻を創り上げる。



 一瞬の小さな竜巻・・・・・しかしその竜巻が消えた時にはすでにその男は消えていたのだ。



 「なんなんだ・・・・いったい」



 突き刺した剣の事など忘れているかのように呟く。



それはそうだろう。いきなり現れて情報源を殺しそのうえ何も言うことなく逃げ帰ったのだ。一真じゃなくても思うことのはずだ。・・・・・・・ということではなく、



 それもそうだが、それよりも乗っ取った者が言った一言。余りに奇麗ない切断面だったためか、意識が飛びきる寸前で飛んでいく頭からこんな言葉が聞こえてきたのだ。



 『ただの前座だ』



 その一言が一真の余裕を一瞬にして奪い取った。



 ハッキリとした言葉の意味は分らないが、この言葉が本当ならまだ、【神隠し事件】はまだ終わっていないことを突き刺しているということだ。

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