最終章5 ~偽善者~
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」
夜鳥が遅れながらも、左腕で響の上段からの一撃を防ぎにかかかる。
これで終わりだ。
そう夜鳥は確信した。
得体のしれない一真の目と、寒気の謎はわからないが響の一太刀を止め、逆に絞め殺してしまえばそれで終わりだ。
腕を切り落とされることはない。現に響より上な一真の太刀を何度も生身で受け止めたのだ。
天羽々斬の力は強力だが、今の自分なら大したことはない。
動揺で攻撃は許したものの対処は変わらない。
勝利を確信する夜鳥。
一真より劣る太刀筋、一真の足元にも及ばない、力に目ざまたばかりの神力。
それなのに、
それにも関わらず、
響の一撃は、
夜鳥の左腕を切り落とし、そのまま胸を斜めに切り裂いた。
今度こそ夜鳥の体に途方もないほどの衝撃が駆け巡る。
(な・・・・・なぜ!!!??)
夜鳥の心の動揺は計り知れない。今までの事から考えて、こんなことはあり得ないのだから。
勝利のイメージするできていた夜鳥からしたらあり得ないことだから。
その動揺は夜鳥の動きを完全に止める。
「うおおおおおおおおお!!!」
響は止まらない。
夜鳥の刀を漸鉄すると、さらに切りかかる。
風の力を使い切り上げ、夜鳥の体を宙に浮かせる。
そのまま響も飛び連続で切り返す。
左下から切り上げ、上段から切り、さらに切り上げ、横一文字できる。
流れる水のごとく、円を描くように、それでいて風のごとく鋭く、響の太刀が夜鳥の体を切り裂いてく。
そして渾身の最後の一太刀を切りつける。
全身全霊を尽くした連撃。
両者が空中から地上に落ちる。
夜鳥は、堕天したように地面に落ちる。
響きも着地も受け身も取れず、棒切れのように地面に落ちた。
「ぐがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」
夜鳥が絶叫を上げる。
体中を焼けるような痛みが走り出した。
力が体外に出ていくのを感じる。
天羽々斬の力によって、力を消滅されているのだ。
「何故だああああああ!!!!!??????なぜ!!???そんな奴に!!!!!俺が!!!!絶対的な力を手に入れた俺が!!!!???」
夜鳥は起きた現象を納得できない。
あり得るはずがないのだ。
最強とも呼べる力を手に入れた自身が負けることなど、
それを実感しているのは夜鳥だけではない。
刀を支えにして立ち上がった響さえも、この現象を飲み込めていなかった。
「へ・・・・・へへ・・・・・やっ・・・・・ぱり・・・・・な」
「!!??」
虫の鳴き声にも及ばない小さな声が響の後ろから聞こえる。
その言葉に夜鳥も反応する。
「かぐずちぃぃ!!!貴様か!!??貴様が素戔嗚に何かしたのか!!!!????」
「ちげーよ・・・・・俺は・・・・・なにも・・・・・して・・・・・ない」
「では!!!!何故!!!!??」
夜鳥の体から黒い霧がにじみ出てくる。それを見て夜鳥の顔にも恐怖の表情が出てくる。
腹に重傷を覆いながらも一真は体を起こす。
切り取られた腕を肩にあてると、オレンジの炎が切り口を覆う。
ゆっくりと、腕と体が結合する、
それでも一真は今にも倒れそうだ。
「お前が・・・・・・スサ・・・ノオの力を・・・・・手に入れてから・・・・・俺の攻撃は・・・・・・・全く・・・・・きかなかった。・・・・・・だがな・・・・・・・・・効いていたんだよ」
さらに一真が自身の腹の傷口に炎を当てる。
すると徐々にだが傷口がふさがってくる。
「まさか」
「そうだ。響・・・・・・お前の・・・・・攻撃・・・・・だけは・・・・・すべて・・・・あたっていたんだ」
「出鱈目を言うな!!!!俺は現に素戔嗚の攻撃を防ぎ、圧倒していた!!!!」
しかしその言葉を言ったとき。夜鳥の頭に一つの言葉が恐怖を超えて、表れた。
『防いでいた』という言葉が。
左肩が、殴られた場所が、頬の小さなひっかき傷が、切り付けられた傷以上に痛み出しているのを感じていた。
「防いでいた・・・・・だけさ・・・・・・・・・だがな・・・・当たった時は・・・・・・確実に・・・・・お前に・・・・・傷を負わせていたのさ・・・・」
そう、響が夜鳥に攻撃を当てた時、その時は大きくはなくとも、確実にダメージを与えていた。
最初の肩への一太刀。
拳で殴り飛ばした時
カマイタチを左手に放った時。
砂鉄が夜鳥の頬を引っ掻いたとき。
大きな技をすべて夜鳥は力をぶつけて打ち負かしていた。
一真の攻撃は切ろうが燃やそうが全く傷を受けなかった。
その為に気づけなかったこと。
大した傷ではないにしろ。
響の攻撃は、確実にダメージを与えていたのだ。
その気づけなかったことがここにきて夜鳥に致命的なダメージを与えたのだ。
「ふざけるなぁ!!!!そんなことが!!!!そんなことがあってたまるか!!!!死なん!!!!死なんぞ!!!こんなところで!!!貴様らごときに!!!!」
夜鳥は立ち上がろうとする。
「無駄だ・・・・・俺でもわかる。お前はここで消えるんだよ」
響の目にはうっすっらと生気が見えた。
夜鳥の体からは黒い霧があふれ出していた。天羽々斬の斬撃が夜鳥の怨念を浄化する為のかのように、ひび割れのようにして広がっていく。
響はフラフラになりながらも刀を杖代わりにして何とか立ち上がる。指で一押しすればそのまま倒れそうだ。
「死なん!!!死なん!!死なん!!死なん!!死なん!!死なん!!死なん!!死なん!!死なん!!死なん!!死なん!!」
響きと同じように完全に満身創痍ながらも、夜鳥は立ち上がった。
乱れきった髪や顔には砂利がこびりついている。
その眼に宿るのは、死への恐怖ではない。
怒りとも違うように響には見えた。
怨念だった。
何処までも黒く。ドロドロとした怨念がその目には宿っていた。
伝わってくる。
くしくも夜鳥が響の血を取り込んだ為なのか。
その怨念の正体が。
響は心臓が見えない手で鷲掴みにされた気分なる。
死の淵。より明確には、殺された人間が最後に感じ取った、復讐心という怨念。
それこそが夜鳥の怨念の正体だったのを響は感じ取らされてしまった。
「死なんぞ!!殺してやる!!ここで殺してやる!!」
ついに天羽々斬の傷口が顔にまで広がる。
しかしその眼光が、口調が、纏う雰囲気が衰える様子は全くない。
復讐のための怨念の力が途方もないのを実感する。
「んでだよ?・・・・・なんで・・・・」
響は思ってしまう。
こんな時だけ思うのは調子がいいのかもしれない。
時折ニュースで見るような話を聞いてもなんとなく見逃している人間が言うにはあまりにも軽薄で都合がよく、マニュアルどおりな言葉だというのを響自身がわかっていた。
だって、自分がその復讐をする立場になったらそう思うかなんてわからないから。
他人の気持ちを理解するには同じ経験をするしかない。
響には決してその気持ちを持った人達の事を理解はできない。
「なんで?だからこそ・・・・・その苦しみを知っているからこそ・・・・・・踏みとどまろうと思えなかったんだ・・・・・・・・・・・・・」
だから、この言葉は響の独りよがりの言葉だ。自分がそうあってほしいという、美意識から生まれた中身のない言葉だ。
少しでもそう思う人を減らしたい。それが、苦しみから生まれる感情を知らない奴が、それでも心のままに、率直に思う言葉だった。
それを希望と取るかは、綺麗ごとと取るかは人によって変わることだろう。
小さいながらも、妙に響いたその言葉。
しかし、夜鳥は全く聞く耳を持っていない。
「・・・・・」
足を引きずりながらも響は夜鳥に地下ずく。
とどめの一撃をいれるために。
そして
「終わりだ・・・・終わってくれ・・・・」
ただこの言葉だけは心の底からこぼれ出た言葉だった。
この一言だけは、夜鳥でも一真でも誰でもない。響自身に投げかけた言葉だった。
響はこれ以上を見たくなかった。
しかし異変は起きた。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!!!!」
響が刀を振り上げた時だった。
夜鳥から漏れる出す怨念。それがまるで綱引きでもするかのように行ったり来たりを繰り返し始めていた。
この奇妙な光景に響の目も釘づけになった。
そして、ついにその綱引きは引き込む方が勝てしまった。
「!!」
「うおおおおおおおおお!!!」
ハッ!!と思ったときには遅かった。
夜鳥の左手が、無防備に空いた響きに頬を容赦なく長り飛ばした。
立っているだけの存在が出せる力を超えていた。
響は飛ばされるようにして吹き飛んだ。
「あ・・・・ぐ!!!」
ジンジンと伝わる痛み。
頬の骨が砕けなかっただけラッキーだったのかもしれない。
それだけ夜鳥の力も弱まっているのだろう。
すでにボロボロだった響に立ち上がるほどの力はない。
目線を動かすか、声を出すのが精いっぱいだ。
ちらりと横を見る。そこにはす澄んだ碧色の勾玉が転がっていた。
(あの勾玉は・・・・・)
意識が飛びそうな中妙にあの勾玉が気になった。
そういえば、ここに向かうとき、栄吉から渡されたのだった。
どうやら先程殴られた時にはずれてしまったようだ。
「はぁ!!はぁ!!はぁ!!」
そんなことを思っているとすぐそこにはすでに夜鳥が来ていた。
「何が!!!」
夜鳥が響の腹をけり込んだ。
それだけで意識が飛びそうになる。
「何が!!何が!!」
何度も何度も響を夜鳥はけりつけた。
今度こそ理由のない夜鳥の復活に思考回路が飛んでいた一真は事態の理解に気付くと、神術で響を動かそうとするも、すでに炎が作れないほどにまで体力を消耗していた。
一真は這いずってでも響のところへ向かう。
「何が、踏みとどまろうとしなかっただ!!!俺の負の力の正体を知ったようだがな、所詮そんなものはただの素だ。俺という存在を作るための素だ。たかが人間ごときの復讐心で俺がうごくか!!!!人間の怨念など、俺の食い物でしかない!!!」
容赦なく蹴りこむ。
すでに響は意識が飛びそうになっていた。
夜鳥は息を乱しながら、蹴るのを中断すると口元に邪な笑みを作る。
「いいことを教えてやろう。素戔嗚。」
「??」
一真がその言葉に機敏に反応した。何か嫌な予感がしてならない。
「お前はさっき、俺に踏みとどまれなどといっていたがなぁ・・・・・そもそも何で俺達が、17年前の悪鬼が人を食らったか、お前は知っているか」
ピクリとその言葉に響きが小さく反応する。
それを確認してか、夜鳥の顔の顔が狂喜に満ちてきた。
「やめろ!!!夜鳥!!!」
一真が慌てて制止の声を叫ぶも夜鳥は耳を貸さない。
「お前を探すためだよ。お前を・・・・お前の血を探すための人間を殺したんだ。分かるか?この意味が?」
「なに・・・・」
響の顔が青ざめていく。何を言うのか頭の中で理解してしまったのだろう。
「いままで死んだ人間すべてがお前のために死んだんだ!!いうなればお前が殺したんだよ!!!お前さえいなければ誰も死なずに済んだかもしれんのになぁ!!」
その言葉を聞いた瞬間響の頭の中は真っ白になった。
『おいおい、なんで地獄に行かなきゃならんのだ。まさか、お前自分を皮肉しているのか?』
生と死の狭間で素戔嗚に言われたその言葉が真っ先に浮かんできた。
本当はわかってたんじゃないのか?
それに遅れて夜鳥の一言一言が明確に伝わってくる。
壁を作って隠していた物が、次々と壁を壊され見えてくる。
響は知っていたのだ。
無意識のうちにその事実を隠していた。
その隠れた真実があらわになった時、響の中にすっぽりと穴が開いた。
それは徐々に大きくなり、響の中を占めていく。
「終わりだ・・・・」
夜鳥は左手で響の胸倉をつかみ高く持ち上げる。
その手にはゆっくりではあるが、風の力が蓄積されている。
ゼロ距離射撃の準備が終わりを迎えていく。
「クソ!!!」
一真が懸命に前進する。
しかしこの距離では絶対に間に合わない。
攻撃しようにもそれをそれをするだけの力がない
「死ね!!」
夜鳥の風の力が解き放なたれる。
はずだった・・・・・
ゴキリ!!!
という鈍い音が世鳥の体を通して聞こえた。
「ぐっ!!!!???」
猛烈な痛みによって響を掴む手を放してしまう。
何が起こったのか・・・・その痛みの素を見ると、響が夜鳥の腕を砕いていたのだ。
「・・・・なんだ・・・・この力は・・・・・」
突然の異変に夜鳥は痛みの感覚が麻痺する。
なにがおきているのかわからない。すでに虫の息だった男が出せるような力ではない。
必死に引き抜こうとするもびくともしないのだ。
そこに更なる痛みが夜鳥を襲う。
グジュゥゥ!!
という、生理的に耐えれない音がした。
その音とともに夜鳥は響の手から解放される。
夜鳥が響をにらみつけるとそこには夜鳥の腕がある。
響が腕をもぎ取ったのだ・・・・
その光景に一真は呼吸をするのを忘れてしまう。
そのかわりにゾワゾワと背中を何かが駆け上がった。
夜鳥のもぎ取られた腕が黒い霧によって、みるみるうちに消え去った。
それだけではない、フラフラと揺れる響自身にも見える形で変化が出ていた。
髪が異常なまでに伸び、その体を黒い霧が・・・・夜鳥と同じ霧が包んでいき、まるでオーラのようにほとばしっている。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」
その砲口を上げた瞬間。空気が異様なまでに重く鋭くなった。
どす黒い雲が天を覆い豪雨を、雷を巻き起こし始めた。
光とともに音が鳴り、雨が視界を遮り、音すらも聞こえなくする。
地上にはメキメキと大木がまるで樹海のように生え始める。
水が舞うで波のように暴れ狂い始める。
天変地異
そういっても過言ではない。現象が起き始めた。
起きた変化はそれだけではない、
まるで響のその変化に共鳴したのか、大蛇の封印石も真っ赤にそまり、天に向け黒い霧を打ち上げ始めた。
「封印が・・・・・・」
それを見た一真が呟く一真がポツリとつぶやく。そのあまりの光景に状況処理がついていかなくなった。
それでもこのことはわかる。
「大蛇の封印が・・・・解けた?」




