最終章1 ~一真の炎~
どんよりとした空気がその場を包んでいる。
空気だけではない、草木も川の水もすべてが重い。まとわりつくような空気の正体は怨念だ。その空間一帯をまがまがしい怨念が支配している。
「おかしい・・・・・」
その場で一人の男、夜鳥は一つのものを見上げていた。
高さ50メートルはあろうかと思う巨大な岩、そこにはしめ縄が巻きつけてあり、それを囲むように八本の古びた赤い鳥居がある。
それは大蛇の封印石。
巨大な力を持つ悪鬼が素戔嗚尊によって倒され封印された石だ。
その封印を解くには封印者の血、つまり素戔嗚尊の血が必要であり夜鳥はすでにその血を手に入れている。封印を解く準備は滞りなく進んでいた。
しかし、その途中唐突にパタリと途絶えてしまったのだ。
「今も封印を解くための要素は封印石の中に存在してる。・・・・にもかかわらず、全く動いていない・・・・・」
素戔嗚の血。つまり素戔嗚の神力は確かに石の中に存在している。しかしその力は円滑に回っていないのだ。
「・・・・チィ・・・・」
軽く腕を横に振るう。たったそれだけで、夜鳥の風は砂や岩、水も木々もなぎ倒す。
「どうなっている?話が違うぞ・・・!!」
ふつふつと世鳥の中で怒りが満ちてくる。
「なにかを間違えたか・・・・いやそれはない俺は必要なものを手に入れた。・・・・・では何故だ?!」
ブツブツと橋端に怒りを見せながら夜鳥は自問自答をする。
「考えるとすれば・・・・・」
ふと頭の中にある考えが浮かぶ。
しかしすぐさまその考えを取り除く。あまりに確率の低いことであるが故だろう。
しかし問題点を見直している時だ。
夜鳥の目の前で小さな炎が瞬いた。
「この炎は・・・・!!」
突然の見覚えのある炎に戸惑いながらも、世鳥はその炎の主を探すためにキョロキョロとあたりを見渡す。
しかしどこにもその炎の主の姿はない。
その時だ。
まるで窓ガラスでもわれるかのような音が響く。
その場に視線を向けると、空間が割れているのだ。それこそ窓ガラスを割ったかのように。
そしてその奥には一人の男が一振りの剣に炎をやどしそこにいる。
その剣を横に一閃。またもやガラスの割れるような音とともに空間に穴が開く。
すると男は何の躊躇もなくそのわれた空間から入ってきたのだ。
夜鳥の顔にイラつきが見える。
「まさか・・・・・・こんな風にして隠してあるとはな・・・・」
「加具土ィ!!!」
火の神加具土こと命道一真はついに出雲の歴史の真実の場所にたどり着いたのだ。
その姿を見た瞬間だ。
何の躊躇もなく、世鳥は一真に向けて風の一撃を放つ。
しかしそれを今度は一真は首をひねるだけで回避したのだ。
「人がイラついてる時に邪魔をする奴ほどムカつくものはない!貴様はやはりあの時に殺しておくべきだったよ!!」
「は!!笑わせるな。お前が人?冗談きついぜ悪鬼。そもそもイラついてムカついてんのはこっちも同じだ!!覚悟しろ。・・・・・次こそは貴様を殺してやる!!」
刀を鞘にしまい、ゆっくりと腰にさす。
しかしその姿を見て夜鳥はイラついた表情を崩さずに笑みを浮かべる。
「実感しているはずだ!!お前は神社での戦闘で歯が全く立たなかっただろう?俺を殺すことなど無理なんだよ!!」
「・・・・・本当に・・・・・本当にそう思うか?」
「・・・あ?・・・・」
予想外の言葉が世鳥の中で反復される。
しかしそれを考える暇もなく。一真が言葉をつなげる。
「!!」
間合いを一気に詰める。
奥歯をかみしめ、足に力を込め右手を一気に振りぬく。
居合切りだ。
本来ならば相手の攻撃に合わせる技であるが一真はあえて居合で切りかかる。
「!!?」
夜鳥は何とかその一太刀を回避する。・・・いや違う!!その胸にはボロボロの着物を破り横一文字に切り傷がある。
夜鳥の胸にジンジンとした痛み、そしてその傷からは押しつぶすのではないかと思うほどの、想像もつかないような重さが伝わってくる。
なんとも肩の力が抜けた極められたといってもいい居合。もし反応が遅れていれば世鳥の体は真っ二つになっていただろう。それほどの速度と威力。
(しかし!!回避はできた!!気を抜かなければ、致命的なものにはならない!!)
神速の居合を回避したことから、状況判断をする夜鳥。
しかし、それすらも夜鳥にとっては墓穴だった。
「まだだ!!」
「!!?」
その声に反応する。
そこには居合に遅れる形で何かが迫って来ていた。
紅蓮の炎の刃だ。
それが世鳥を襲う。
「ぬおおおおおおおおおおおお!!!!」
その状況判断よって緩んだところに迫る一撃は容易に夜鳥をのみこんだ。
しかしそれでも一真の動きは止まらない。
踏み込んだ右足を軸にしてその場で回転を始める。
「炎王!!!」
一真が刀を振るうとそこに先程の鋭い炎の刃とは違う。膨大な量の炎の波が夜鳥に向けて飛んでいく。
純粋に炎の焼き付くす力を体現した技に見える。
ジュウウウウ!!!という水が蒸発するおとともに、一真の炎は夜鳥を焼きつす。
「!!?」
しかしその炎は内側からかき消される。
夜鳥の風が内側から一真の炎を打ち消したのだ。
プスプスという音を当てながら夜鳥は軽く息を上げている。神社での一戦では圧倒的にごり押しをした夜鳥に一真の炎は確実にダメージを与えていた。
「ふん・・・これが本来の加具土ということか・・・・」
ギロリと睨みつけながら夜鳥は構えをとる。
「あの時は悪かったな・・・・・今回は絶好調だぜ」
その直後二人は炎と風を作り出すと同時に切りかかる。
いくつも作り出された小さな炎と小さな風。それは拡散弾のように広がり二人を襲うも、それらすべてが一つ一つと衝突して消え去る。
それですら一瞬で行われるのにもかかわらず、二人は一つが相殺される間に幾重にも立ち回っている。
かわしては切りかかり、間に合わなければ受け止め、そこから切り替えし、またもや回避をする。その動きに刀に纏わせた炎と風がはじける。
空気をビリビリと振動させるような二人の動きは一瞬の隙狙っている。ゆえに無駄はない。
一太刀一太刀が殺せると思った研ぎ澄まされた一太刀だ。それを二人はことごとく交わすがゆえに、連撃となる。
一太刀で勝負を決める刀での戦いはここまでハイレベルになるために一瞬の隙を見逃さない高速の太刀の連撃が生まれる。
そしてついに二人の刃が眼前で交差する。
響く金属とともに炎と風が今まで以上にはじけた。
そしてすぐさまその鍔迫り合いを解くと両者は一気に間合いを取ると一真はまたもや刀を鞘に納め居合の形をとる。
悪鬼の世界にも、武御雷と並ぶ剣豪と知られる加具土の居合がまたはなたれるのだ。
しかし夜鳥にとっては腑に落ちない。
そもそも居合の必要性は不意打ちとその回避、切り込んでくるものに対するカウンターだ。
その居合はかすめたといえども先程回避して見せたはずだ。先程と同じ手を食らうようなこともないことぐらいわかっているはずなのにそれでもなお一真は居合の形をとる。
ふと、そんなことを考える夜鳥。しかしその考えは一瞬にして消えうせる。
一瞬にして山が大地が、川が炎で燃え上がったのだ。いや空を見ればそこには幾つもの火がまるで龍のように飛び回っている。
さっきの炎とは比べ物にならない。あたり一面360度を一真の炎が埋め尽くす。
「これは・・・・」
夜鳥もその風景に驚きを隠せない。
むしろ赤一色で満たされた世界に美しさすら感じてしまうほどだった。
しかしそれは美しさというにはあまりにもかけ離れた力を持つ。
「火産霊」
業の名は加具土の別名。 その名にふさわしい炎の全てが世鳥を貫こうと襲う。
「!!」
その波は全方位から夜鳥を襲う。
チィ!!と舌打ちをすると世鳥はまるでコマのようにその場で回転を始めたのだ。
ギュルギュルギュル!!という鋭いおとともに襲ってくる炎が弾き飛ばされる。
夜鳥の巨大な風によって炎の道が出来てしまったのだ。
夜鳥の回転が止まる。
「な!!」
しかしその瞬間目の前にいたのは一真だ。
回転が止まる瞬間それを狙い一真は踏み込んだのだ。迷うことなく、その強力な一撃を撃つために。
「うおおおおお!!」
今再び鞘から刀が引き抜かれる。
まさに神速。その人たちが夜鳥の横腹めがけて切り込まれる。
「!!」
驚愕したのは一真だった。
完璧なタイミングだったにもかかわらずその人たちは夜鳥の刀で止められていたのだ。
「グ・・・・!!」
その夜鳥もギリギリだったのか、その顔や腕から全力で力を込めているのがわかる。
現に夜鳥の刀は峰に部分が腹に触れるか触れないかの距離。
片手と両手の差でありながらな今もまだ押し込まれているのだ。
夜鳥としても予期していなかったことではない。
戦いの基本の一つとして未来の絵を頭に入れ、それをもとに修正することがある。
回転後の一太刀は予測が出来た。
しかしその予想を上回る形で一真の動きが行われたのだ。
不意に一真は腕の力を緩め、一気に後ろに下がる。
(腕一本と二本じゃ勝てるわけがねぇ!!、ならば!!)
空間を包む炎が世鳥を再び襲う。
自身の力で体制を崩した世鳥に先程のように防ぐすべもない。確実にあたる。
「とでも思ったか!!」
夜鳥の声。それが間近で聞こえる。
目の前に世鳥がいるのだ。
おかしいこと後ろに一真は下がったはずなのにその距離は全く変わっていないのだ。
(コイツ!!!)
簡単なはなしだ。世鳥は一真の裏をかいたのだ。ゆえに炎も当らない。その距離も縮まらない。
それだけはない。後ろにさがる一真と前に突っ込んでいる夜鳥。どちらが攻撃をお行えるかは明らかだ。
ガッ!!と夜鳥は一真の胸倉をつかむと全力で地面にたたきつけた。
「グぁ!!!」
一真の肺から一気に空気が抜ける。
呼吸が乱れる。その乱れは頭にも響いているのか、視界もぐらつき、頭もガンガンする。
しかしそんな泣き言を言える時ではない。気合で意識を回復させる一真。そこに追い打ちをかけるように夜鳥の追撃が迫る。
「死ね!!」
夜鳥は刀を一真の顔へ突き立てる。首をひねることでその攻撃をかわす。
意識を回復していなかったと思うと全身の毛が逆立ちそうだ。
「うおおおおおおおおおおお!!!!」
「!!!」
夜鳥の攻撃はなおも続く。胸倉をつかんだまま一真を空へ投げ飛ばした。
一真もその勢いで体がねじ切りそうだ。
ボウ!!
と手のひらから炎を自らの後ろに放つ。
ピタリとその場に一真の体が止まも、
「グッ!!!」
その瞬間体全体に強い衝撃が走る。炎の推進力で空中で静止した一真だが、止まった時の勢いを殺すまでは間に合わなかった。その時だ。一瞬一真が体制を作り直すその時、
「??」
視界に入った空を飛ぶ、炎を見て不思議に思う。
(不規則な動き・・・・・・)
目に映る炎はさっきからあっちに行ったりこっちにいったりと不規則な動きをしている。
まるで何かの力の影響を受けているかのように
「まさか!!!」
すぐさま視線をしたの夜鳥に移す。
そこには両手を上げ不敵に笑みをう浮かべている。
「食らえ・・・・・!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!
大地を揺るがす、音が徐々に近づいてきてる。
「くそ!!!」
夜鳥の後ろの山。その向こうに特大の竜巻が二つ迫ってきてる。山を砕き、水を飲み、天の雲を穿ち、一真の作った炎の世界の炎を次々と消していきながら一真に迫ってきている。
巨大な破壊の竜巻に対して一真はその腕に神力を集中する。
一瞬にしてその神力は炎へと顕現し一真の体を包み込む。炎の球体に対して、無慈悲と思わせるほどに二つの竜巻は炎の球体をのみこむ竜巻同士がぶつかり、さらに力を増す。
「はぁ!!はぁ!!はぁ!!」
夜鳥はだらりとその腕を下す。肩で息を上げながら、とてもつらい表情、というよりは苦しそうな表情を浮かべる。
「はぁ!!はぁ!!・・・・息が・・・・はぁ」
のどが焼けるように熱い、いや実際焼けているのかもしれない。一真が作った炎の空間は、実質火事場のド真ん中にほうりこまれたに等しい。いや温度も勢いもその比ではないだろう。
その地獄ともいえる炎熱は空気の温度を上げ、大気中の酸素を一気に消費させていく。
「う゛っ!!・・・・がぁ!!」
その状態から夜鳥はさらに膝をつく。緊張が少し緩んだためか痛覚を感じ始めたのかもしれない。
胸に手を当てると赤黒い血がついているではないか。右上にかけえて胸を切り裂く、一太刀の傷。
(俺が上空に投げ飛ばす時に、合わせてきたのか・・・)
ただの傷ではない、その内側を炎でジワジワと焼いて言っているのだ。これの比でないにしろ真夏の海での重度の日焼けと思えば想像はつくかもしれない。
しかしその一太刀の怖さはそこではなかった。
まとわりつくような刀傷の重さ。一真の一太刀はその感覚を夜鳥の体に植え付けたのだ。
内側を焼く炎と、まとわりつく一太刀。それを感じながらも夜鳥の感覚は機敏に働いた。
上空の二つの竜巻。
炎の球体をのみこみすり合わすようにして力を増幅する竜巻の中からさ衰えを見せない、一真の神力を感じるのだ。
「全く・・・・・・加具土め・・・・!!」
竜巻の所々か赤い炎が顔を出す。
ボウ!!という風によって生まれる力強い音を出しながら炎は徐々にその量を増していく。そして遂に
バヒュウウウウ!!!!
と内側から風がはじけ飛んだ。
そこには体中にいくつもの傷を作り、服も破け去っている一真の姿が見える。
その両手には剣と刀が握られており勢いよく炎をともしている。
空中に浮かびながら一真は夜鳥と同じく、肩で息をしている。
「よもや・・・・あれを破るとは・・・・・」
感心する世鳥を無視し一真の動きは止まりを見せない。
「うおおおおおおおおおおおお!!!」
一真はここぞとばかりに一気に急降下をする。
パタパタと来ている着物が音を立てながら一真はそのまま二刀を一気に振り下ろす。
両刀の炎が一つとなりより一層強大な炎を作り出す。
(しかし、しかし!!)
「どこまで邪魔をすれば気が済む!!!火の神よ!!!!!!!!!」
プツンと夜鳥の頭で張りつめた糸が勢いよく切れた。
痛みをこらえ、夜鳥はその両手に力を込め、まがまがしい力を集中する。
「だあああああああああああああああああ!!!!」
夜鳥もここを勝負どころと感じたのだろう、その両手から夜鳥も渾身の暴風を作り出す。
濃度は今までの倍以上の風力も、エネルギーも巨大さもすべてが今までの最大。
幾度となく混じり合った炎と風。
その両者の奥義ともいえる一撃がぶつかる。
ジュババババババババババババババババババ!!!!!!!!!!!
その余波が全体に広がる。相殺しているからか、大きな破壊は生まれない。
しかしほとばしる風は大地に亀裂を走らせ、炎は空中をうねる様に乱移動する。
拮抗する両者の力。
ジリジリとその場で留まる二つのエネルギーは突然傾く。
まるで削り取るかのように夜鳥の風が一真の炎を圧倒している。
「!!」
それを感じ、一真もなお歯を食いしばり力を出すも止まるどころか、確実に風が炎を削り取る。
ここにきての力の差は何なのか、
その正体は夜鳥の後ろにある大蛇の封印石だ。
古びた赤い八つの鳥居に囲まれしめ縄が施されているその石から、黒い霧のようなものがにじみ出ており夜鳥に集まっている。
(素戔嗚が言ってた奴か!!)
一真の頭で素戔嗚の言葉が思い出される。
大蛇の力。
それをすぐさま直観する。
(ここまで上がるのか!!)
夜鳥の風力は一真の炎に何のプラス要因を与えない状態。
いうなれば蝋燭の炎に扇風機をぶつけるようなもの、五右衛門風呂の要領で火力を上げるなど不可能な力差だ。
「死ね!!!!!加具土!!!」
すでに一真の炎の半分は夜鳥に風に呑まれている。
「終わりだ!!」
夜鳥は勝利を確認する。
多少は威力は落ちるだろうが、確実に一真をぐちゃぐちゃにする威力は残る。今この状況で負けるはずはないのだ。
(ヤバイ!!))
一真もそれを実感してた。このままいけば確実に自分が競り負ける。
そしてすでにその風は一真の炎を切り裂こうとしている。
しかしそうなったらどうなる?
今はまだだが確実に八岐大蛇は復活を遂げるだろう。そうなればすべての世界は滅びに向かうことになる。
一真の大事な人たちも、その人たちの大事な人たちも、すべてが、
(負けられねぇ!!!負けられるか!!)
それでも思いに反し風は迫る。
しかし
「まけられねえんだよーーー!!!」
一真の体から紅蓮の炎が弾け出した。
その瞬間日本全土で使われていた火という火が一瞬消え去った。
一真の炎がいきなり勢いをます。押されていた場所を一気に盛り返し、
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「な!!」
夜鳥の表情ががらりと変わった。笑みから驚きに、そして焦りも見え始めている。
「何故!!?何故!!?あれだけの力の差があったにもかかわらず押し返される!!!?」
夜鳥には理解できなかった。何故この状況で一真の力が世鳥の怨念の力をうわまったのか。
(本当に何でだ?何で押し返している?俺の力でここまで・・・・・)
押し返し始めてから、一真のこことは驚くほどまでに静けさに包まれていた。
まるで、時間と空間が無限に広がっているかのような、すべての感覚がおかしくなったかのような、そんな気分だ。
しかしそこにふと、何かが浮かぶ。
香澄の顔、栄吉や響、そして一真が今まであっていた、神々や友人の顔そして最後に体は小さいが、腕や足などに炎をともした一人の幼子のすがた。
一真の力の吹き替えし。おそらくそれは世界の人間のほとんども理解していない力だったのかもしれない。
「いっけええええええええええええええええええええ!!!!!!」
そして一真の炎は夜鳥の最大の一撃を撃ち破る。
力を大きく削られた。それでもなお夜鳥を倒す力をもつ炎が直撃する。
「くそがあああああああああああ!!!!」
まだだ。まだ終わりではない。
夜鳥はその一撃を腕一本で受け止める。
「うぐ!!!ぐうううう!!!」
メリメリと踏ん張る足が地面にめり込み後ろに押される。チリチリと髪の毛を焼き、腕は既に黒ずみと化しつつある。
勢いは止まらない。そのまま夜鳥をのみこむ。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
はずだった。
炎が炸裂する。
それは左の岩場でだった。
はじいたのだ。
あの状況で、夜鳥は左腕を犠牲にして、一真の一撃を払いのけたのだ。
神の隙間から見える鬼のような眼光とヒューヒューという息遣い。
「どうだ・・・・・加具土・・・・まだだ・・・・ここからお前を、」
顔を上げた瞬間だった。
目の前を紅蓮の炎が走った。
「あ?」
間の抜けた声を夜鳥は上げる。
そのすぐそこには、刀を低く下げた一真がいる。
ダン!!!!!!!
今まで以上に一真は踏み込んだ。
「な・・・・」
一真の動きは止まらない。
そのまま、力強く流れるようにその刀は斜め上に切り上げられた。
「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」
踏み込みとともにその刀身が爆発的な炎をともす。
夜鳥の体を包み込み一真は切り払う。
あまりの勢いに夜鳥の体は宙を舞い、そして八岐大蛇の封印石にぶつかる。
「ぐっ!!・・・・・・はぁ!!!はぁ!!!!」
一真も体の力を限界まで使ったのだろう。膝をつき、刀で何とか体制を維持する。
しかしそれでも一真の眼光の鋭さは衰えない。
仕留めた相手の生死を確認するため、夜鳥をの姿を確認する。
封印石によりかかる形で、夜鳥はいた。
全身は炎で焼かれ銀髪さえも黒く焦げていおり、ところどころでしか銀髪を確認できない。
そして、体からはチリチリと炎を上げており、黒い霧のような物が体から出ている。
(やった・・・・・・)
一真は勝利を確信した。
夜鳥の怨念が形を維持できなくなっているのだ。
黒い霧、それは悪鬼の元になる負の感情だ。それが放出するということは悪鬼の死を意味する。
「く・・・・・・そ・・・・・・・が・・・・・・」
すでに死の間近の状態の夜鳥、何とか口を開いている状態だ。
「まだ・・・・・・まだ・・・・し・・・ね・・・・・・ん・・・・・・!!:
悪あがきというべきか、夜鳥はそのボロボロの左手をまるで脈打つ封印石につける。
「夜鳥・・・・・・終わりだ・・・・・お前の負けだよ」
「ま・・・・・だ・・・・・だ・・・・・・まだ・・・・・・こ・・・・れが・・・・・あ・・・・・る」
「???」
どういうことだ。一真にはその言葉の真意がつかめない。ただ単純に大蛇という存在に縋り付きたいだけなのか。
「これ・・・・・・が、これが・・・・あれ・・・・ば」
ゆっくりと黒ずみ状態の夜鳥の腕に光が和えあわれる。
いや違う封印石が光っているのだ。
まさかここで大蛇の復活か。一真の中で焦りが生まれるが、それは違うと分かる。なぜなら夜鳥の手がある場所だけが光っているのだ。
そしてゆっくりと封印石の脈打つ姿は消えていく。まるで死んでいくかのように。
「なんだ・・・・・失敗したのか?」
その突然の勢いの消失に戸惑う一真。
「ち・・・・がう」
「何?」
「鍵を・・・・抜いただけだ」
「鍵だと?」
ニタリと夜鳥は笑みを浮かべると、左手を前に出す。
その中にはフワフワと赤い液体が浮いている。
「これは・・・・・血だ・・・・・・」
「血?。響の・・・・素戔嗚の血?」
鍵の血、それはすなわち響の血だろう。しかしなぜ夜鳥はそのカギを引き抜いたのだ。目覚めてもいないのに。
背筋に何か悪寒が走る。嫌な予感だ。
それを夜鳥はゆっくりと顔に近づける。
(ちょっとまて・・・・俺たちは素戔嗚の血をどう解釈していた?・・・・・)
自問した瞬間だ。一真の頭が目が覚めたような感覚が襲う。
「まさか・・・・・!!」
一気に汗が引く。
自分達はなぜ今まで素戔嗚の存在を注意してきた。それは大蛇復活ということではなく。
悪鬼の力を何倍にも増幅する力があるかだったはずだ。
「待て夜鳥!!!!」
あわてて一真は世鳥を止めようと動き出す。
しかし、すでに遅い。
「戦いは・・・・・・これからだ・・・・」
笑みを崩さず、夜鳥はその力を増幅させるという素戔嗚の血をぺろりとなめる。




