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異世界トリップの夢を見る

作者: 開襟

 死んだら、何かに転生できると思っていた。運が悪く死んで、でもそれは神様のミスで責任をとらせて、チート能力を手に入れる。

そして、前の世界のことなんか忘れて、新しい世界でチート無双。女の子に好かれちゃって困ったり、隠してたはずの力がばれちゃってもてはやされて困ったり。勇者に選ばれて、魔王を倒したあとは、一番かわいい子と付き合って、子宝に恵まれつつ、王様より権力のある存在になって、世界で名だたる存在になる。


 お兄ちゃん。きっとあなたはそんな生活を送っているに違いないのです。昔、よく話しましたね。異世界トリップについて、一緒に展開の無理矢理さを笑ったり、私が主人公の異様なもてっぷりをあげつらうと、あなたが異様なまでに理論武装して反論してきたり。私が好きなイケメンを白状させておいて、小バカにした態度をとったものだから、喧嘩になったこともありましたね。



 お兄ちゃん、猫をかばってトラックにひかれたあなたなら、王道過ぎる異世界トリップを無事に成し遂げたことでしょう。

 お兄ちゃん、喧嘩を売りたくて仕方ない年頃だったあなたなら、神様にだって喧嘩を売ってチート能力をもぎ取ったことでしょう。

 お兄ちゃん、実はむっつりで女の子が好きだったあなたなら、異世界に行ったら旅の恥はかきすてとばかりに積極的にアプローチしまくるのでしょう。もげればいいのに。



 お兄ちゃん、お葬式ではみんな泣いていました。小学校の同級生も、中学校のクラスメートも、お父さんもお母さんも、親戚の子達も、みんなみんなあなたの死を悲しんでいました。私は、あなたは異世界に行っただけなのに、となんだか笑いたくなりましたが、もちろん顔には出しませんでした。



 お兄ちゃん、あなたのいなくなった部屋はがらんとして寂しいです。エロゲとエロ本はお母さんに見つかってなくなりました。お母さん、泣きながら怒ってました。異世界では、そんなものが見つかって好きな女の子に嫌われないようにしてください。



 お兄ちゃん、元気でやってますか。きっと、お兄ちゃんはぶつぶつ文句を言いながら、それでも熱心に剣の素振りとか魔法の訓練をしてるのでしょう。昔、そうやって遅くまで野球の投球フォームを練習していたように。



 お兄ちゃん、手紙だけでもそちらの世界から送ることはできませんか?きっとお父さんもお母さんも無事を知ったら喜びます。もちろん、私も。でも、魔王退治をしてたら忙しいから、無理でも仕方ないですよね。よく考えてみたら、悪質な悪戯だと二人は怒るかもしれないし、むしろ届かない方が平和かもしれません。



 お兄ちゃん、異世界は楽しいですか。今日は久々に面白い異世界トリップものを見つけました。もし、ここにお兄ちゃんがいたら、感想を言い合えたのに。あまりにも面白かったので、読みながら少し泣いてしまいました。



 お兄ちゃん、王宮料理や異世界料理ばかり食べていると、日本食が恋しくなりませんか。 こちらでは、食卓に平和が訪れました。冷蔵庫にあったお兄ちゃんの名前が書かれたプリンは私が処理しておきました。文句を言えるものなら言ってみてください。



 お兄ちゃん、そろそろ魔王は倒しましたか。お母さんと、お父さんのことは私に任せてください。二人はまだ立ち直れていませんが、いつかあなたの不在を受け入れるでしょう。



 お兄ちゃん、私はこちらの世界でがんばって生きています。万が一、お兄ちゃんがこちらの世界を覗いても安心できるくらい、幸せに、天寿を全うするくらい生きる予定です。



 お兄ちゃん、あなたがなんの理由もなく死んだなんてそんなはずはありません。あなたはもっと価値のある人間でした。

 お兄ちゃん、あなたはただ、この世界からいなくなっただけで、別の世界で幸せに暮らしているのだと信じています。



 お兄ちゃん、あなたは私のなかで、永遠に異世界で生き続けます。


 ずっと若い時の姿のままで。

きっと幸せで暮らしているはずという生きる者の願い。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ストレートな切なさが良い。 言外にあるのが寂しさであるのも良い。
[一言] 異世界トリップというファンタジーと現実の知り合いをなくした気持ちを上手く合わせた作品だと思います。出来れば、現実のバランスを増やし、背景も緻密に描いて…感情表現をもう少し緻密にすると面白い作…
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