神の心 天使知らず?
気が付いたら、真っ暗だった。どうしてかと思って視線を動かそうとすると、何やら違和感。
あ、目を閉じていたのか。そりゃ真っ暗なわけだな。でも、何で目を閉じてんだ?
そんなことを思いながら目を改めて開くとーー……、同時にピシリと身体が固まる。
どうしてかと思う?
そりゃあ……、目の前に何人もの人間がいてこっちを見てりゃ誰だって固まるわ!!
見知らぬ奴らならなおさらだ!!
と、取り敢えず落ち着け。えーっと、あたしの名前は天宮皐月、高校生だ。
うん、名前は覚えてんな。一応女ではあるが女に思えないとはよく言われる。
余計なお世話だっつーの。で、確か学校が終わったから耀太と帰ろうと……って。あれ、耀太はどこいった?
「……う、うう……。お、重い……」
なんか聞き捨てならない単語を聞いた気がするぞ。
あたしの足の方から?
イラッとしながらそっちに視線を向けると、そこには男が一人倒れていた。
……あたしの足の下で。
「何やってんだ、お前」
「い、いやいや、それは、俺の……台詞……。頼むから、どいてくれ……」
足蹴にされた状態で懇願してくるのは、あたしのクラスメイトで同じ施設で育った佐倉耀太。
文武両道、顔も良く、男女問わず人気が高い。神に愛された男と他人は言うが、神に愛されたなら親がいないっつーことはないとあたしは思う。
耀太の親は育児放棄をしたから、こいつは施設で生活してるわけだし。だけど、大抵の奴はんなこと知らねぇから、耀太に憧れる。
んで、同じ施設っつーこともあってわりと一緒にいることが多いあたしに向かうやっかみもたっっっくさんあるわけだな。
嫌がらせぇー、イジメェー、呼び出しぃー、などなど。
ま、やられっぱなしなあたしじゃねぇけどな?
呼び出しやイジメは目の前で、嫌がらせとか陰でこそこそタイプは探しだしてやっぱり目の前で、あたしを相手にすることの愚かさを教えてやった。そうすりゃ、簡単に全部なくなったから、ある意味楽だったなー。
けどまぁ、あまり気にしてないとはいえ、やっぱりそういう過去にあった嫌なことを思い出すと、イラッとするわけで。
いまだに耀太の上に乗っている状態だったから、小さくジャンプして後ろに降りてやった。
当然の如く、それをすれば踏みつけられている側としては余計に体重がかかるため、「ぐえっ」という蛙が潰れたような声が耀太から聞こえたが、シカトして辺りを見回した。
あたし達がいる空間はかなり広い。なんつーか、体育館並みの広さ?
んで、あたし達がいる場所は数段高くなっていて、そこから見下ろすと、十数人の見知らぬ人間があたし達を呆然と見上げていた。
しっかしまぁ、見事に目が痛い。
色々な髪の色をしているし、これまた色々な色やタイプの服装をしているからだ。普通ならありえない色の髪や服。目の色はここからじゃよく見えないけど、多分これも色んな色をしているんだろうな。
更にあたし達がいる所の床が金色に光っているってことはだ、……ようやく、か。
長かったな、割りと。そんなことを考えていると、復活した耀太があたしに詰め寄ってきた。
「何すんだよ皐月! 俺を殺す気か!?」
あの程度でお前が死ぬか。「別に。まぁ、そうなってもあたしは気にしない」
「いや、気にしろよ! ……頼むから、何でそんな面倒くさいことしなきゃならないんだ的な顔しないでくれ。さすがに泣けてくる……」
「泣けば? あたしは止めねぇから。いっそのこと、その勢いで存在消しちまえ」
「お前いつも容赦ないな! 本当に人間かよ!?」
半分涙目で耀太が言う。人間か? って聞かれれば答えは一つ。いい機会だから教えてやるか。
そう思って口を開きかけると、別の方面から声が響く。
「あ、あの……」
開きかけていた口を閉じ、視線を声の方へ向けると、十数人いた奴らの一番前にいた女がおずおずと進み出て、あたしらを見上げていた。純白のローブに身を包んでいて、銀色の髪は腰ぐらいまで真っ直ぐ伸びている。この中でも、トップの人間っぽいな。
「……す、すみません、勇者様……ですよね?」
何で聞くんだよ。いきなりんなこと言われて、状況をよく把握してない奴じゃ聞かれてもわかんねぇだろ、普通。
その証拠に耀太が何言ってんのこの人みたいな顔になってんだろーが。仕方ねぇな、代わりにあたしが答えてやる。
耀太に右手の人差し指を向け、言い放った。
「こいつが勇者だ」
「は……、皐月!?」
「うるせえ黙れ反論は認めねえからそこで丸まってのの字でも書いてろ」
「…………………………」あ、ホントにやり始めた。弱えな、マジで。
そんなあたしらのやり取りに困惑している気配が下にいる奴らから伝わってきた。さっき質問してきた女があたしに瞬きをしながら視線を向ける。
「あの、ではあなたは……?」
そんなの決まってんだろ。あたしは両手を腰に当て、仁王立ちの状態で言った。「巻き込まれたただの一般人Aだ」
そして、それから数時間後の今、あたしは一人で小高い丘の上に立っていた。
そこから下の方には、大きな街が見える。中央にそびえ立つのは巨大な城。
勇者召喚を行われた場所で、一般人Aこと天宮皐月が先程までいた場所だ。
結論から言えば、あたしは城から追い出された。あの後耀太は召喚された場所から移動させられて行き、あたしの方はというと、あのやり取りで勇者に害なす者と判断、即座に追放と流れるような素晴らしい作業をして下さり、今に至るというわけだな。
「……ふっ……、ふふふ……、あーはっはっはっは!!」
ああ、笑いが止まらない! こんなに上手くいくなんてな!?
長かった……、本当に。どれだけこの時を待ちわびたか!
ようやくあたしは自由だ!「これで、全てが終わって全てが始まる……。ここから、あたしの素晴らしい未来が待ってーー」
《バッ……カものーーーー!》
突然、怒号が頭の中に響き渡り……、あたしの意識が白に染め上げられたーー。
「お前は一体何を考えとるんじゃ!!」
意識が覚醒すると同時にいきなり怒鳴られた。
声の主は、目の前にいるハゲ頭のジジイ。
髭だけはやたらと長く立派で、頭には……金色に輝く輪っかが浮かんでいる。
ちっ、面倒な奴が現れやがったな。
「面倒とは何じゃ、面倒とは! 仮にもお前、神に向かってーー」
「うるせえよ、ハゲ神」
勝手に心読んでんじゃねぇっつの。
「誰がハゲじゃ! これはあえてしておるのであってハゲじゃない!」
「やかましい。頭に毛がなけりゃ誰でもハゲなんだよ」
「……ぐっ、……お前、本当に口が悪いの! それでも天使なのか!?」
耀太と似たことを言う。鼻で笑って、それに答えた。「元の姿に戻ったあたしを目の前で見といてそれか。随分耄碌したんじゃねえの?」
そう。今、ここにいるあたしの姿は先程と違っている。
頭にはジジイ同様、光る輪っかが浮かんでいて、背中には鳥を思わせるようなふわふわした純白の羽。
髪と目の色はあたしからじゃ見えないが、きっと黒髪黒目だったのが金髪碧眼に変わっているんだろうな。あたしの罵りに、ジジイは絶句して項垂れた。
「……人選、いや、天使選を間違ったかのぅ……」
何を今さら。一応こっちは一度断ったんだ、それを無理やり押し付けたのはそっちだろ。
この世界の天使であるはずのあたしが、何故地球という異世界に……それも人間の振りをして生活していたかと言うと、ひとえに耀太の為だ。
あいつはいずれ、この世界に召喚されることが決まっていた。
理由は、魔王を倒すため。世界は魔王に蹂躙されるとわかっていて、恐怖と混乱に満ちた世界を支配し、いずれは神を倒し自分が神となる、という魔王の目論見を潰すために耀太は勇者となって貰う必要があったんだ。
それで人間に召喚の術を教え、勇者をこの世界に呼び寄せた。
だけど、そうなる前に勇者が死んだりしたら元も子もない。
だから、天使が派遣されたんだ。あいつを事故や病気等から守るためにな。
結論から言えば、事故とか病気とかは無縁だったが厄介だったのはあいつの周り。
勇者としての素質があったためか、無駄に人が集まってくる。で、護衛だったあたしはほぼ確実に側にいるもんだから、やっかみやらが酷かった。
最も? 天使が人間に負けるわけはねぇし、目の前でコンクリートの塊を素手で砕いたりとかしてやったら、勝手に恐れて次第になくなっていったがな。
人間て、ホントわかりやすい。素直な奴は大好きだ。暴力はふるってないから、問題もねぇしな?
ちなみにあたしが選ばれたのは怪力とか図太い性格が理由。失礼にも程があるとおもわねぇ?
「思わん!」
……思考に答えはいらねぇんだよ、ハゲ神。
「……っ、これ以上、話を脱線されても困るから、本題に戻るぞ。……何故、勇者から離れた?」
「ああ゛? 召喚された以上、もうあたしは用済みだろ。自由にして何が悪い」「バカ者! 命じられた以上、最後まで務めは果たさぬか!」
「却下」
「するな!」
頑なな態度に、ハゲ神は頭を抱えた。どうしてこんな風に育ったのか……。と言わんばかりだ。余計なお世話だと言っとこう。
「……もう、よい。勇者に同行するのは嫌なのだな」「面倒なのはもうゴメンだね」
だいたい16年も頑張ったんだ、そろそろ休みもらったって構わねぇだろ。
「わかった、ならお前は自由にするといい。だが……」
「だが?」
「地上に降り、魔族……並びに魔王の動向を調べよ。それぐらいなら良いだろう? 調査をしっかりすれば何をしようと干渉はせん」「……マジ?」
「うむ。じゃが、仕事は正確にな」
……交渉、成立だ。
こうしてあたしは自由になった。
仕事ももちろんしなけりゃならねぇけど、これまでより好きにやれりゃ充分だ。
さぁ、自由生活の始まりだぜ!!
初めて異世界召喚モノを書きました……。
文章能力低くて分かりにくい所もあると思いますが、大目に見てくれると嬉しいです。
誤字脱字があったら遠慮なくどうぞ!
皆さん、これから宜しくお願いします。