表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

最後の遺書

これは僕の遺書である。

9月31日。24回目の誕生日を終えてから2日が経った。

今日僕は死のうと思う。これが僕にとって、最初で最後の遺書である。


まず始めに宣言しておこう。

幸子さちこを殺したのは僕ではない。僕は無実だ。

僕は無実のまま、愚かな捜査機関によって死刑に処せられるのだ。


疑いをかけられたのは、幸子の絞殺死体が見つかってから2週間後のことだった。

今思い返せば、その時僕の居場所を突き止めた刑事はいくらか口端にうっすらと冷ややかな笑みを浮かべていた。既に鬼の首をとったと思っていたのだろう。現に、刑事は僕に会ったあの瞬間から僕を犯人と決めつけていた。僕の主張など全く聞く気すら見せず。


事件のことを今更説明する必要は無い。

僕の2年半付き合っていたガールフレンドが死んだ。いや、殺された。

首筋には、絞められた跡がはっきり残っており、死後1週間が経過してた。

現金も貴金属も盗まれていない。怨恨による身近な人物の犯行だと断定された。

ただ、それだけのこと。

そして、彼女は両親も兄弟もいなかったから、すぐに容疑者の候補として僕の名前がリストに挙がった。僕の逮捕まで2週間も要したのは、物的証拠が決定的には見つからなかったことと僕が逃げ出したからだ。


僕は取調べで、言葉の揚げ足をとられ彼女を憎んでいたことになり、それが犯行の動機となったと報道された。マスコミは、僕を冷酷な殺人者としてとりあげ、僕のかつての同級生は、「普段は大人しいやつだったのに」といかにもマスコミが喜びそうな証言を残した。

そして、事件は無事に解決したことになった。

国選弁護士は、「一人殺したくらいじゃ死刑にはならないよ。」と下劣な慰め方をし、面会に来た両親は、その瞳にあきらかに恐怖の感情を浮かべていた。

僕はいつからか言葉を発する力を失った。


僕は、あの2週間で幸子を殺した犯人を見つけようとしていた。

ネット喫茶やカプセルホテルを転々としながら、何かしらの手がかりを探していた。

逃げたことで僕に対する疑いは決定的になった。

逃げればそう思われることくらいわかっていた。

ただ、もし僕があそこでおめおめと捕まってしまえば警察は真犯人は別にいると鼻息を荒くしただろうか。そんなことは無い。よく自首してきたと冷ややかな賞賛を浴びせたに過ぎないはずだ。あの時、幸子を殺した人間を見つけることは僕にしかできなかった。


僕は強面の刑事に対して、あるいは人のよさそうな目じりの下がった刑事に対して何度も無実を訴えた。声を失うまで。四方を真っ暗な壁に囲まれるまで訴え続けた。それは無力だった。


僕が哀れなのではない。幸子が可哀想なのだ。自分を殺した人間を見つけてもらえない幸子が可哀想なのだ。幸子を殺した人間は、白日の太陽のもと、どこかでのこのこと生きているのだ。しめしめと思っているのに違いないのだ。そんな幸子が不憫でしょうがないのだ。


僕を捕まえたことで得をした人間がいるのだ。僕を発見した刑事は、上司から誉められ勲章をもらい、僕から偽の自白を勝ち取った取調べ官は、その義務を果たし出世するのだ。

幸子の死がそんなことに使われてはいけないのだ。

幸子の死によって関わった全ての人間が不幸にならなきゃいけないのだ。


だから、ここで僕は自殺する。

僕が自殺することで全ての悪を世に知らしめるのだ。

この事件で利益を得た人間を奈落の底に突き落とすのだ。

僕の死は、罪悪感による死では無い。愛する人を失ったことに対する嘆きの死でもない。

僕の死は私的な死では無い。

僕の死は社会的な死なのだ。


さぁ、真実は放たれた。


僕は、この僕の最後の遺書を読む人に良心があることを、ただ祈る。



幸子、今僕はとってもすっきりした気持ちだよ。

ただ、君と僕との間に生まれてくるはずの子供の顔を見れなかったことだけが残念だ。




かずお























暗い作品になってしまいました。書いているうちにこうなってしまったという感じです。何かアドバイスいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 書き方も内容もすごく好きです。主人公の無念さが伝わってきます。また幸子への思いやる主人公の人間性が良いですね! [一言] うーん、続きが読みたいです! すごいミステリー小説っぽい始まり方で…
2013/03/17 08:30 退会済み
管理
[良い点] 本文そのものが、遺書になっているところが良いと思いました。 [一言] 何だか、切ない話ですね。作品のタイトル的にも、主人公は死ぬんだな…とは思いましたが、幸せになって欲しいと願いながら読ま…
2012/12/30 17:57 退会済み
管理
[良い点] 何故遺書を残したか、などの理由や主人公の恨みや悲しみについてよく書かれ、感情移入がし易い。 [気になる点] 主人公が犯人を見つけるくだりが途中放棄されている様に感じる。犯人は見つかったのだ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ