なぁ、子供の名前は何がいいと思う?
「竜二ー!」
中学からの悪友が、いい笑顔でこちらへ走ってくる。
高校になって好きな人が出来たとかなんちゃら、随分エキサイトしてるらしい。
そのせいで俺まで毎日学校に登校。どんないい子ちゃんだ。
喧嘩っ早い禅が惚れるなんていったいどんな女かと思ったら、普通に普通の女子高生で拍子抜けした。
それで、なんだ、あのアリサちゃん?とやらを送ってった後、俺に必ず報告しにくるあいつは馬鹿なのか。
「竜二!聞いてくれよー!今日よぉ、昼飯一緒に食ったんだけど間接キス!しちまった」
「へぇ。よかったな、うん...ていうかつき合ってんの?」
そうだ、これだ。こいつの話にはいつも違和感があると思ってた。
いつも聞くのは、昼食べた、休み時間に会った、帰り一緒に帰った、だ。
それってつまり、デートがねぇだけの恋人じゃねぇ?だけどこいつの返事はおかしい、明らかにおかしい。
「あん?友達だッつってんだろーがよ」
「や、それおかしいだろ。それお前、いわゆるストーカーだ」
「友達なんだぜ?当たり前じゃねーか。おめー、俺とも普通に飯食うじゃねーかよ」
「おまえっ俺は男!そんで不良!ついでに悪友!で、そのアリサちゃんってのは、女で、友達で、普通、だろ」
よしっ俺よく言った!ちょっと厳しいかもしれねえが、コイツには自重してもらう必要がある。
この前なんて俺んちで、少し目を離したらノートに二宮 ありさとか書いてやがった。
しかも、ドアの方で固まった俺を見て、なぁ、子供の名前なにがいいと思う?とか聞いてきやがった。
今まで応援していた、というかめんどくさかった俺もコレは流石にヤバいと思ったその日、『あのころの禅くん戻って来て!レンジャー』が結成された。ネーミングセンスは自覚してるつーの。新しい名前は随時募集中だぜ。
しばらく固まっている禅を横目に、俺は攻撃を続ける。とにかく恋を忘れるんだ!
「お前、鬱陶しがられてるんじゃねーの?彼女、よく苦笑いするだろ」
ふっ、決まった。だがコレは仕方の無い事なんだ。俺もうお前のキモさに耐えられねぇよ...!
ぷるぷると震える禅がこちらを見やり、ゆっくりと口を開く。
俺、アリサちゃんのことはあきらめるぜ、とか言うんだろ?分かってるって!が、俺の予想は大幅に外れた。
そんな...まさかだ。
「マジかよ...じゃ、俺どうすればいいんだ?!」
そして禅は困ったように顔を歪める。何を隠そう俺もイケメンの部類に入る方だとは思っているが、美形のその顔は心臓に悪い...じゃねぇし!あきらめるだろ普通!ヤベーよこれ。もうキモさがグレードアップしてるぜ?ありえねー。
「竜二、おまえさぁ、なんでそんな恋愛の事知ってるんだ?すげぇな」
コレ聞いた時、悟った。
コイツの嫌にポジティブで、絡みずらくて、キモイ思考はもう修復不可能だ。
もし修復の可能性があるならそれは、コイツの恋が成就して、妄想が現実になったときだ。
ならば仕方が無い、『あのころの禅くん戻って来て!レンジャー』は解散だ。今度から、『禅君の恋!全力で応援レンジャー』と呼ぶように。あ?なんだよ。そうだよレンジャーは必須なんだよ。
こうして俺の竜二とアリサちゃんを生暖かい目で応援する日々は始まった。
禅に引きずられてる?気のせいだ。俺はいつでも自分の意志で動いてる。
「とりあえず、恋愛成就のお守り買いに行くか」
竜二君は苦労人です。