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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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3-1 新たなるウォーロック

 陸島鉄明と流山椿の決闘が終わり、数日が経過した。

 世間でゴールデンウィークと呼ばれる時期に入った頃のこと。


「なあ、俺って一体何なんだろうな?」


 どこかの山中にある周囲を木々に囲まれた墓地。

 陸島鉄明の目の前には、1つの墓石があった。墓石に名前は刻まれてなかった。そこには花と故人への供え物が添えられている。


「魔法が使えるって言う事は……やはり復讐をしろってことなんだろうなきっと。確かにあの日、何かがおかしかった。お前たちを襲ったのは多分校長が言っていたように、組織の魔女かその眷属なのかもしれない。そうだったって言うのなら、俺はしばらくあの島で自分を鍛えるさ。そしてこの墓前にお前たちを殺した奴の首を持ってきてやる。もう少し待っててくれ」


 風が大きな音を立てて墓と陸島の合間を通る。


「じゃあ。そろそろ行くよ」


 墓石に背を向け、彼はその場を立ち去る。

 墓石は喋ることなどない。ただそこにあるだけ。






「うぅー……」


「ツバキちゃんどうしたの?」


 ゴールデンウィークが終わり、休み明けの初日、体育館にて。

 周囲の学生たちの表情は辛いものであった。長い連休明けからの学校の始まりというものはどうにも拭えぬ重さがあるというものである。


「あ、いや……この連休で自分を鍛えようとしたんです」


「先月の決闘の事、もしかして気にしてる?」


「ええ。でもアイツに叩かれたところがどうにも痛くて……痛みが引くころには連休も終わっちゃいましたし」


「決闘だもん。そういうケガもありえなくはないと思う」


 相原はそう言うと、流山が痛めている個所にそっと手を伸ばす。


「大丈夫。ツバキちゃんが私のために怒って、ケガして、辛い思いをしてるってわかってるから。それも全部ツバキちゃんが優しいからって知ってるから」


「紫苑ちゃん……」


 流山は相原の微笑みとともに溢れる言葉に涙を零した。


 相原は泣き出した彼女をそっと抱きしめる。


「大丈夫。ツバキちゃんが一生懸命私のために頑張ってくれてるってのは伝わったから。私も動かないと。というより私がどうにかしないといけないことなの」


「うぅ……」


「朝っぱらから何を泣いているんだか」


 『はあ』とため息を履いたのは陸島。


「げ。何でここにいるんですか?」


「いや朝礼あるからだろ。頭打ってイカレたか?」


「ぐぬぬぬぬ……」


「二人ともやめて」


 間に割って入る相原。しばらくして互いにそっぽを向く。


「陸島君……その……ツバキちゃんに勝ったのは凄いと思う。だけどあんまり意地悪しないで」


「知らん。負け犬にかける情けなんざねえよ」


 吐き捨てるように放った言葉。

 流山は心の奥底で溢れそうなマグマのごとき怒りが吹き出そうになったが、止めに入った親友の相原もいた為……何より負けたという事実に今はただ、堪えることしかできなかった。そんな彼女に相原は小声で話す。


「ツバキちゃん。いつかリベンジする機会はあるよ」


「……うん」


 流山は小さくうなずいた。


「でもなんでこの、いけすかない男にこだわるんです?やっぱり――」


「皆さん。おはようございます」


 流山の疑問を遮ったのは体育館の壇上にいた校長。

 時刻は既に朝礼開始の時間を迎えていた。


「来るか……」


「え?」


 神妙な顔つきで陸島は呟く。


 相原は見ていた表情が今まで見たことのない顔つきに真新しさを覚える。


「さて、突然ですが皆さんに新しい生徒の紹介をしたいと思います」


 校長のどこか嬉しそうなその声に生徒たちの間にどよめきが走る。


――え?五月に!?


――どうなってるの?ウォーロックが来ただけでも珍しいのに!?


――今年何かあるんじゃないの?


 それまで陰鬱な雰囲気であった空間は瞬時に騒がしくなる。


「ハーイ皆さん静かに!」


 陸島のクラス担任の早瀬が騒ぎを抑えようと声を上げる。


「ええっとですね。再度、国の方で行われた血液検査で分かったのですが……」


 血液検査。

 この国が魔女の適性がある者を見出すために行っている検査。魔女の適性がある者にはその血よりある反応が起き、国の決まりによって極秘で玉之江島へ向かうことになっている。


「どうぞ――」


 校長の声に案内され、壇上の端からその者は来た。

 その手にマイクを握って。


「……え?」


 流山、相原……それどころか全員が現れた者によって固まった。


「あ……えーっと鼠川淳吾ねずみかわじゅんごって言います。よ、よろしくお願いします」


 男だった。

 学ランに身を包んだその容姿は背丈は同年代の男子と比べると低く、顔つきも男性というよりは中性とでもいうべきか。

 髪の色は黒く、髪型は短くまとまったスタイル。そんな彼に周囲の視線が集まる。


「魔法……とかよくわかりませんけど、色々教えていただけると嬉しいです」


――きゃあああああっ!


「え!?」


 突如響いたのは黄色い悲鳴。鼠川の容姿に女性陣の殆どが心を虜にされた。

 当の本人はその様子にただ驚くばかり。


――え!?本当に男の子?かわいいじゃん!


――そのままでいて!


――誰かセーラー服持ってきて!絶対に似合うから!!


「え……え?」


「皆さん静かに」


 響く歓喜の声を静かにして見せたのは校長。優しい笑みでそっと周囲にマイクを通して伝える。


「色々と驚きの続く年やもしれませんが、陸島君と彼もまだこの島に来て日が浅い。どうかくれぐれも優しくお願いしますね?」


「「「はーい!!」」」


 それまで陰惨だった休み明けの通学の空気はがらりと変わっていた。


(なんだこいつら。バカじゃねえの)


 その空気に反吐がでそうだった陸島は顔をしかめた。


「陸島君、知ってたの?」


「ああ、昨日の昼くらいに来たぞ」


「そーだったんですか?!」


 それからは校長の挨拶、周囲への諸注意なども終わり、教室に戻る。


「というわけで先ほども話にありましたが、今日から新しい仲間になる鼠川淳君です」


「よ、よろしくお願いします」


――おおーっ!


「じゃあ陸島君の近くに」


――ええーっ!?


「ど、どうしたの皆さん?」


「こっちがいいですよ!」


 一人の生徒が指をさした。

 そこは教室の中心の席。そこには誰も座っていない。


(あの席……確か、俺が来てからずっと空席だったな)


「え?でもそこは燦央院さんおういんさんの席では?」


 早瀬先生はその生徒の名前を口にする。


(サンオウイン?これまた変わった名前の人間だな)


 陸島はその名前を知ってはいなかった。


「誰だそいつ?」


「燦央院百合香さんって人がいるの。えっと、家が大きくて由緒ある家系の人。魔法の腕も確かで、今は本州で仕事中みたい。主に組織の魔女と戦うために必要な指示とか支援とかを今はやってるみたい」


 陸島の隣に座っていた相原がぽつりと出た陸島の疑問に答える。


「へえ。強いのか?」


「……多分」


「そうか」


 新しいクラスメイトの登場とは裏腹に二人の合間はまるで氷のように冷ややかな風が通っていた。


「うーん……やっぱり陸島君の近くの席でいいかしら?勝手に使ったら燦央院さんに怒られそうだし」


 早瀬先生は悩んだ末に鼠川の席を陸島の近くにすることにした。

 こうして陸島と相原の後ろに一つ座席ができた。

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