桃太郎退治記
あのあと鬼は、金棒屋に頼みこみ、凶悪で残忍な特注金棒を手に入れた。
・
「出てこいっ 桃太郎」
地響きのような声が響いたあと、ほどなくして桃太郎が姿をあらわした。その手にはスマホが。
「も~ こまっちゃうな~」
「桃太郎、今度こそ、このオレ様の勝ちだっ」
「はい~ それでいいです~」
桃太郎は、やる気がなかった。どこまでも、どこまでも。
あまりのことに、鬼は、目の前の青年が桃太郎だと信じられなくなった。
「お前、ほんとに桃太郎か?」
「はい~ そうです~」
しかし、この熱量の低さでは鬼としても張り合いがない。
「どうした?」
「いま~ 動画編集~ 忙しくて~」
「ど、動画編集? とな? んんん、そんなことはいい、勝負だ! 勝負しろっ」
「え~ やるんですか~」
「さっさと支度しろっ」
「しかたないですね~ じゃあ~」
「よし、さあこいっ」
「でも~ 野球ですよ~」
・
めんどうくさそうに着替えをする桃太郎に向かって、おじいさんは、
「あんまり無理せんでいいぞ」
と言い残し山へ向かった。
おばあさんは、
「ほどほどが一番ですよ」
と声をかけ、川へと向かったのだった。
・
さて、試合である。
「野球だろうとなんだろうと、オレ様にかかれば」
鬼は、例の特注金棒を手に、バッターボックスへ入った。
「じゃあ~ いきますね~」
桃太郎があくび交じりに投げた球に対し、鬼は金棒をフルスイング。特注金棒の、殺傷力ましましの禍々しい突起部分がボールをとらえた。
ガッッッキーーーーーーーン!!!
「どうだっ」
抜けるような高音とともに、白球が青い空の彼方へと消えていく。
「あ~ みんな~ よろしく~」
桃太郎が声をかけるより先にキジがタイミングよく宙を舞いボールを叩き落とす。叩き落とされたボールは木の枝から勢いよく飛び出したサルが、地面スレスレのところでキャッチ。それを犬に向かって素早く投げる。犬はボールを咥え、鬼めがけて走っていった。
「鬼~ アウト~」
お供のものたちの連係プレーが決まり、鬼にとっては、ふたたび無念の結果となった。
「ちくしょう、またしても」
「鬼さん~ もう殴り合いの時代じゃ~ ないですよ~」
桃太郎の言葉に、鬼は、あり金はたいて購入した金棒をしずかに置いた。
その帰り、鬼はスマホを購入した。出世払いで。
動画編集についても、おいおい調べてみよう、そんなことを思いながら、鬼は眠りについたのだった。




