表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/32

8-3

「……お前に会えてよかった、ブラン=ベルモンド」


 ラングが手を差し出す。俺はそれを、強く握った。


「今日はありがとうございました。絶対に、事件を解決してみせます」

「ああ、オレも全力で協力しよう。なんでも言ってくれ」


 ラングから手を握り返される。その瞳には、力強さだけが宿っていた。


――――それにしてもこいつ、手の力が強すぎる。加減というものを知らないのだろうか。


「……あの、すみません」


 俺の言葉をよそに、ラングは話し続ける。


「かけがえのない友とは、お前のような者のことを言うのだろうな」

「あの、そろそろ手を」


 ラングの手の力が、ますます強くなる。


「そうだ、事件を解決したら、二人で手芸屋にでも行かないか?」

「いだだだ! あの! 手! 離して! 俺の手が、壊れる!」

「む、すまん」


 俺が声を上げると、ラングはやっと手を離してくれた。たかが握手で、先ほどの決闘よりもハラハラすることになるとは。


「いかんな、どうもすぐ周りが見えなくなる。オレの悪い癖だ」

「はは……。じゃあ、俺はそろそろ行きます」

「ああ。またいつでも遊びに来てくれ」


 ラングに見送られ、部屋を出た。

 ふと空を見上げると、橙がどこまでも広がっていた。冷たい風が体を吹き抜け、思わず身震いする。

 もうこんな時間か。気づかぬうちに、かなり時間が経っていたようだ。

 ラングが正直に話してくれたおかげで、手掛かりがまた少し増えた。ただ、今日手に入れた情報だけでは、ラングの疑いが完全に晴れるわけではない。あれがすべて作り話で、ズコット先生を殺し、逃げる間もなく立ち尽くしていた可能性はゼロではない。


――――冷静に考えろ……。


 ファンとして、ラングを信じたくなる気持ちを律し、俺は状況を整理する。

 まず、犯人はアリスを階段から突き落とし、下の階へ逃走した。それから、ラングの話が本当であれば、犯人はズコット先生に呼び止められ、その場で殺害したことになる。

 現場の近くにいたのは、ゼストとラングだけ。単純に考えれば、どちらかが犯人である可能性は高い。ただ、ゼストの証言によると、悲鳴が聞こえ、クレアとすれ違ったと言っていた。つまり、第三者がいないとも限らない。


「そういえば、あのとき……」


 よくよく状況を思い出していると、ひとつ、引っかかる点があった。

 それを皮切りに、やけに筋の通ったシナリオが、頭の中に浮かんでくる。

『アンチェイン』から男を学ぶため、ひたすらに鍛え上げた分析力が、ようやく役に立つときが来た。

 このシナリオを確かなものにするには、いくつか確定させなければならない情報がある。

 俺はすぐに校舎へ向かった。


◇◆◇


 クレアは、学園の医務室に向かっていた。

 医務室の前には、護衛の騎士が二人立っている。


「持ち物を検査させてください」


 そう言って、騎士がクレアのボディチェックを始めた。

 犯人は、変化の魔導具を持っている可能性が高い。ここにいるクレアが本物か調べるためには、こうすることがもっとも手っ取り早かった。

 チェックが終わり、クレアは医務室に足を踏み入れる。そこには、いまだ目を覚まさないアリスと、その手を握るリンゼルの姿があった。


「ごきげんよう、リンゼル様。お見舞いに来ましたわ」

「クレア……ありがとう」


 リンゼルは、少し疲れを感じさせる表情で言った。


「もしや、眠らずに看病を?」

「ああ……どうしても心配でな」

「もう、いけませんわ」


 クレアは、呆れたようにため息をついた。いずれ一国の主となるはずの彼が、看病のせいで体調を崩したとなれば、さすがに苦言を呈さずにはいられない。その様子に、ばつが悪い顔をしたリンゼルは、視線をアリスのほうへ逃がした。


「まだ、目を覚ましませんか?」

「いつ起きてもおかしくないそうだが、こればかりはどうにもな……」


 クレアは、椅子に腰かけ、アリスの顔を覗き込む。

 頭に巻かれた包帯からは、少々痛々しさを覚えるものの、その顔色は決して悪くなかった。

 ほっと胸を撫で下ろし、リンゼルと目を合わせる。


「アリスは……一体誰に突き落とされたんだろうか」


 リンゼルは、ぼそっとつぶやいた。硬く握られた拳には、静かな怒りが宿っている。

 クレアも、彼と同じだった。アリスは、すべてを失ったクレアにできた、唯一の同性の友人だ。過ごした時間は短くとも、彼女の痛ましい姿を見るだけで、犯人への怒りがふつふつと湧き上がってくる。しかも、犯人は、わざわざクレアに化けて犯行に及んだのだ。

 まるで、クレア=ベルモンドの人生が汚されているかのようで、クレアは心底腹を立てていた。

 しかし、犯人に繋がる情報は、まだほとんどない。

 このまま犯人が見つからなければ、いずれクレア本人が拘束される。

 ただ、焦りはない。何故ならば、クレアには彼がいるから。彼ならきっと、この事件を解決してくれる。何故だか、そんな確信があった。


「――――失礼します」


 医務室の扉が開き、彼、ブラン=ベルモンドが姿を現す。

 その顔には、どこか達成感のようなものがあった。


「ラングのこと、何か分かったか?」

「はい。細かい点は省きますが、事件が起きる直前まで、ラング様はズコット先生と話していたようです」


 ブランが詳しく説明する間、リンゼルは腕を組み、深く考え込んだ。

 残念ながら、ラングを被疑者から外せるほどの情報ではなかった。


「リンゼル様、協力してほしいことがあります」

「それは、事件に関することか?」

「はい……!」


 ブランが力強く頷き、リンゼルが席を立つ。


「分かった。なんでも言ってくれ」


 リンゼルが、深く頷く。


「ありがとうございます。じゃあまずは――――」


 クレアは、ブランの自信に満ちた顔を見て、改めて確信する。

 やはり、彼は特別な人だ。彼がいれば、何があっても大丈夫だと、心から信じられる。

 クレアの視線に気づいたブランが、首を傾げる。


「どうかした?」

「……いいえ、なんでもないわ。それより、私にもできることはない?」

「それなら、もう一度犯行現場についてきてくれないか?」

「犯行現場? あそこはもう、捜査が済んでいるはずじゃ……」

「まあまあ、すぐに分かるよ」


 そう言って、ブランは悪戯っぽく笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ