表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/32

6-2

 正面から斬りかかる。物は試し、そんな一撃だった。

 クレアは、その一撃を切っ先で受け、軌道をわずかに逸らす。それだけで、アリスの剣は空を切った。

 アリスに、わずかな驚きが走る。あまりにも捌き方が鮮やかで、何が起きたのか、一瞬分からなかった。

 同様に、クレアも目を見開いた。物は試しの一撃など、簡単にかわして、その首に刃をつきつけてやろうと思っていた。しかし、アリスの振りの速さは想像以上で、気づけばとっさに受け流していた。かわす余裕など、どこにもなかった。


「「っ!」」


 お互い、すぐに気を取り直し、一度離れる。

 そして、今度はクレアから仕掛けた。

 ふっと息を吐くと共に、クレアが高速の突きを放つ。今度は、アリスが目を見開く番だった。


「わっ⁉」


 アリスは、とっさに体をそらし、突きをかわす。その際、体勢を大きく崩し、慌てて後ろに逃げる。


――――逃がさない……!


 クレアは突きの勢いのまま、さらに前へ踏み込む。


「〝迅閃突き(ラピッドペルセ)〟――――」


 さらに速い突きが、クレアから放たれる。思わず、アリスは刃の腹でそれを受けてしまった。

 鉄球に打たれたような衝撃が走り、アリスの体が後方に大きく吹き飛ぶ。


「ぐっ……」


 そして、背中を訓練場の壁に打ちつけ、ようやく止まった。

 アリスのもとに、ズコットが駆け寄る。


「アリス、やれるか」


 ズコットがそう問いかけると同時に、アリスは勢いよく立ち上がった。


「もちろん!」


 彼女がぴんぴんしている様子に、周囲は驚きの声を上げる。

 いくら剣で防いだとはいえ、今の一撃を正面から受け止めて、何故すぐ立ち上がれるのか。

 その理由が分かるのは、本人の他に、クレアと、ブランだけだった。


「……器用なことをするのね」


 クレアが、感心した様子でつぶやく。

 アリスは、クレアの突きを防ぐ直前、タイミングよく後ろに跳び、威力を抑えていた。


「それでも、受け止めきれませんでした。さすがクレアさんです」


 アリスの目は、まだ輝いていた。


――――来る……!


 クレアが身構えたときには、アリスは軽やかに宙を舞っていた。

 空中で捻りを加え、勢いを載せた一撃を、クレアに向かって振り下ろす。


「〝回天(ロタシオン)〟!」


 クレアは、アリスの剣を受け止める。その瞬間、ばきっと木剣が割れる音が響いた。


「あっ……」


 根本から折れた木剣を見て、アリスは間の抜けた声を漏らす。

 先ほどのクレアの一撃が、アリスの剣に深いダメージを与えていたのだ。

 誰もがしばらく状況を飲み込むことができず、訓練場は沈黙に支配される。


「……武器の破損は、試合続行不可能と見なす。勝者、クレア=ベルモンド!」


 しばらくして、ズコットはそう言った。


◇◆◇


「ま、負けました……」


 しょんぼりした顔で、アリスがクレアに頭を下げる。

 クレアは優しい笑みを浮かべると、アリスの肩に手を置いた。


「アクシデントさえなければ、勝負は分からなかったわ」

「いえ、それでもクレアさんには届かなかった気がします」


 アリスは、しょんぼりした顔のまま、肩を落とした。

 アリスの魅力のひとつに、この負けん気がある。その強さは、曲者ぞろいの攻略キャラたちが、こぞって気圧されるほどであった。


「……ブランはどう思う?」

「どっちが勝ってもおかしくなかったと思う。二人とも、いい勝負だった」

「ほら、ブランもこう言ってるわ」


 俺たちに慰められて、ようやくアリスは顔を上げた。ただ、その顔はやはり悔しそうだ。

 アリスが悔しがる気持ちも、少し分かる。慰めはしたものの、アリスの言う通り、今回の戦いはクレアに分があった。ただ、アリスは、まだまだ成長するようにも見えた。明日になれば、勝敗が逆転することだってあり得る。

 クレアも、それを察しているようだった。勝ったというのに、まったく浮かれていない。

 この様子では、きっと明日からもっと鍛錬の時間を増やすだろう。

 俺も、負けてはいられない。

 間もなく授業が終わり、教室に戻ろうとしたときのこと――――。


「クレア=ベルモンド。少しいいか?」 


 ズコット先生に呼び止められ、クレアが足を止める。


「お前に訊きたいことがある。すまないが、生徒会室まで来てくれ」

「……分かりました」


 クレアが了承した瞬間、俺はとっさに口を開いた。


「俺もついていっていいですか?」


 なんだか、嫌な予感がする。

 アリスも、何かを察知したようで、クレアの隣に並んだ。


「わ、私も! 生徒会のメンバーですし……!」

「……分かった。来い」


 ズコット先生の先導のもと、生徒会室に向かう。

 窓際のデスクには、神妙な顔をしたリンゼルがいた。

 彼の背後には、ゼストとラングが控えている。室内には、ただならぬ空気が流れていた。


「……一体、どういう状況ですか?」


 困惑しながら、クレアが問いかける。

 すると、ズコット先生が口を開いた。


「先週、第一訓練場の裏手で、ミルカ=セルドリー、そして、シロン=トーラスが暴行に遭った」      

                                              

 俺たちは、揃って息を呑んだ。

 そしてすぐ、俺は何故呼び出されたのか、理解してしまった。


「――――まさか、クレアを疑っているのですか?」


 溢れそうになる怒気を抑えながら、そう問いかける。


「昨日意識を取り戻した彼女たちが、クレア=ベルモンドに(・・・・・・・・・・)襲われた(・・・・)と言ったのだ。話を聞かないわけにもいかんだろう」


 ズコット先生の言葉に、俺は疑問を抱く。

 クレアに襲われた? そんなはずはない。学園にいる間、俺とクレアは、ほとんどの時間を共に過ごしている。二人を襲撃する暇なんてなかったはずだ。

 そのとき、クレアが口を開いた。


「彼女たちは、私のことをよく思っていませんでした。私に罪を着せるために、そのようなことを言ったのでは?」

「――――それは、君にも言えることじゃないのか?」


 そう反論してきたのは、ゼストだった。


「君の未来は、彼女たちによって潰されたようなものだ。恨みによる暴行の線を追うのは、間違ったことじゃないと思うけど」


 クレアが押し黙る。恨んでいないと言い切ることは難しいだろうし、そもそも、そう言ったところで、罪を逃れるための嘘だと思われたら、どうしようもない。

 今は下手に反論するより、冷静でいることに努めたほうが、いくらか建設的だ。


「それに、彼女たちが君に罪を着せるにしても、ここまで体を張った真似は、なかなかできないと思うけどね」

「よせ、ゼスト。彼らもそれは分かっているはずだ」


 リンゼルが制止すると、ゼストは「失礼しました」と言って、口を閉じた。

 本当なら、今すぐにでもゼストを殴り飛ばしてやりたいところだ。

 しかし、客観的に見れば、クレアが疑われる要素がすべて揃ってしまっている。被疑者として名前が挙がるのは、はっきり言って当然だろう。


「この件は、教師と騎士団で協力し、捜査を進める。生徒会にも、協力を頼みたい」

「ええ、もちろん。では、クレアの事情聴取に関しては、私たちに任せてもらえますか?」

「いいだろう。何か分かれば報告を」


 ズコット先生は、リンゼルとの短いやり取りを終え、そのまま生徒会室を出ていった。


「あ、ズコット先生……!」


 そんな彼を、ラングが追いかける。

 何か個人的な用があったのだろうか。しばらくしても、彼は戻ってこなかった。


「……今後の話をしよう」


 リンゼルが、そう切り出す。


「先に言っておく。我々生徒会は、君を犯人だとは思っていない。ゼストも、あくまで現状考え得る可能性を話しただけだ」


 リンゼルがそう言うと、ゼストはクレアに向かって、申し訳なさそうに頭を下げた。

 クレアは、それに対して首を横に振る。


「私が一番に疑われるのは当然です。それより、何故リンゼル様は、私を疑わないのでしょう?」


 もっともな疑問だった。

 ここまで疑わしい要素が揃えば、生徒会だって敵に回るとばかり思っていたが――――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ