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【完結】「君が好きだ」と論理的に証明する ~陰キャの俺が学園一の美少女と付き合っている件について~  作者: 槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ
再結論 (Point) 「以上により、俺が天道まなかの隣に立つ資格があることは明白である」

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8/8

03-01:恋路のプレゼンテーションを終え、全校生徒の前で公開告白 (デレ)

 プレゼンテーションのクロージングにおいて最も重要なこと。それは、冒頭で述べた「結論」を単に繰り返すことではない。


 提示した「理由 (Reason) 」と「具体例 (Example) 」という強固な土台の上に、新たな視座を加えた、より強靭で不可逆的な「真の結論」を再構築することだ。


 聴衆の心に楔を打ち込み、二度と疑念を挟ませない絶対的な事実 (ファクト) として定着させる。

 それが、PREP法の完成形であり、俺、市井理屈の流儀である。



  ◇   ◇   ◇



 体育館の空気は、完全に掌握されていた。

 開会当初に漂っていた敵意や嘲笑といったノイズは消え失せ、代わりに「納得」と「羨望」、そして微かな「感動」の周波数が満ちている。約八百人の生徒たちの視線は、壇上の俺と天道まなかに釘付けだ。


 俺はマイクスタンドの前に立ち直し、隣にいるまなかを見た。

 彼女はもう震えていない。

 涙の跡が残る瞳は、スポットライトを反射して強く輝いている。


 その顔を見て、俺は確信する。

 このプレゼンは成功だ。


 だが、まだ終われない。

 最後の一ピースを嵌めなければ、このパズルは完成しない。


「静粛に」


 俺は短く告げた。

 ざわめきが、波が引くように収まる。

 場が静まったことを確認して、ゆっくりと口を開く。


「以上が、我々の関係性を構成する論理的要素である。偶然の遭遇から始まり、利害の一致による契約を経て、外的要因への対抗措置として強化された絆。そして、数々のトラブルシューティングを通じて実証された相互補完性。これらすべての事象が、一つの結論へと収束する」


 俺は一度言葉を切り、壇上の周り、次いで会場全体を見渡す。

 壇上の袖にいる副会長・早乙女と目が合った。

 彼はバツが悪そうに視線を逸らす。

 教職員席にいる鬼瓦先生も、腕組みをして頷いている。

 そして、俺のクラスメイトたち。

 「あいつ、あんなに喋る奴だったのかよ……」という呆れ顔が見える。


「最初の結論を思い出してほしい。俺は冒頭でこう述べた。『俺、市井理屈は、天道まなかの彼氏である』と。そして、『俺たちは互いの欠落を埋める存在である』と」


 俺の声が熱を帯びていくのを自覚する。

 論理的であることを信条とする俺が、今、論理を超えた領域に踏み込もうとしている。


「だが、訂正が必要だ。その定義では不十分である」


 会場がざわつく。


「え?」

「どういうこと?」


 聞こえてくる戸惑いの声を無視して、俺は続ける。


「『欠落を埋める』という表現は、マイナスをゼロに戻すだけの補修作業に過ぎない。しかし、俺たちが生み出しているのは、そんな消極的な現状維持ではない。1+1が2ではなく、10にも100にもなる爆発的な相乗効果 (シナジー) 。それこそが、我々の関係の本質だ」


 俺はまなかの方へ身体を向けた。

 彼女が驚いたように顔を上げる。

 ここからは、全校生徒に向けた演説ではない。

 彼女一人に向けた、公開書簡だ。


「天道まなか。君は完璧ではない。論理的思考力は欠如しているし、感情の起伏は激しいし、放っておけばすぐにカオスな妄想の世界に逃避する。社会適合性という観点で見れば、君は間違いなく欠陥品 (エラー品) だ」


 会場から「おいおい」「言い過ぎだろ」という声が漏れる。

 まなかもムッとした顔をする。


「ちょっと、ひどくない!?」

「しかし、その欠陥こそが、君の最大の武器 (スペック) だ。君の描く物語には、論理では到達できない熱量がある。矛盾を恐れない無垢な想像力がある。それは、俺のような効率重視の人間が逆立ちしても手に入れられない、天才の領域だ」



 文句を言う彼女に構わず、俺は言葉を続ける。

 まなかは、表情をゆるませた。


「俺はこれまで、論理こそが正義だと信じて生きてきた。世界は数式で記述可能であり、感情など計算の邪魔になるノイズだと。だが、君と出会って、その前提は崩れた。君という予測不能な変数 (バグ) が、俺の完璧だったはずの計算式を滅茶苦茶にした」


 俺は一歩、彼女に近づく。


「君のせいで、俺の平穏な日常は崩壊した。無駄なカロリーを消費し、睡眠時間を削られ、精神的疲労は計り知れない。……だが」


 俺は眼鏡を外し、胸ポケットにしまった。

 素顔を晒す。

 もはや、フィルターは必要ない。


「その『無駄』な時間が、俺の人生で最も鮮やかで、愛おしい時間であるという事実 (ファクト) を、俺は否定できない」


 まなかが息を呑む。

 その瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。

 俺は手を伸ばし、彼女の濡れた頬に触れた。


「君の物語を編集 (エディット) できるのは、世界で俺一人だ。君の暴走を制御し、君の涙を笑顔に変換できるのも、俺しかいない。これは確率論でも、義務感でもない」


 俺は、今この瞬間、自分の人生における最大の「非論理的」な言葉を口にする覚悟を決めた。

 それは証明不可能な公理であり、定義不要の真理だ。


「俺は、君を愛している。論理的に説明がつかないほどに」


 体育館の時間が止まった。

 数秒の静寂。


 そして、爆発のような歓声と拍手が巻き起こった。


「言ったー!」

「キャーッ!」

「お前ら最高だ!」


 天井が抜けるのではないかと思うほどの熱狂。

 しかし、俺たちの耳には、そんなノイズは届いていなかった。

 俺の世界には今、目の前で顔をくしゃくしゃにして泣いている、一人の少女しかいない。


「……ううっ……バカ……!」


 まなかが俺の胸に飛び込んできた。

 マイクが床に落ち、ゴトンという鈍い音を立てるが、誰も気にしない。

 彼女は俺の制服を握りしめ、子供のように泣きじゃくる。


「リクくんのバカ……! そんなこと……みんなの前で言うなんて……反則だよぉ……!」

「プレゼンにはインパクトが必要だからな」


 俺は彼女の背中に腕を回し、強く抱きしめた。


「それに、これが『結論 (Point) 』だ。反論はあるか?」

「あるわけないじゃん……! 私も……私も大好きだよ! 論理的じゃないくらい、大好き!」


 彼女は顔を上げ、俺を見つめる。

 その距離、ゼロセンチメートル。

 俺たちは、全校生徒八百名の前で、そして何台ものスマホカメラが回る前で、ゆっくりと唇を重ねた。


 歓声がさらに大きくなる。

 冷やかしの声。

 祝福の声。

 そして「リア充爆発しろ」という羨望の声。


 すべてが心地よいBGMだ。

 唇から伝わる彼女の体温と、甘い味。

 これが、俺たちの証明終了 (Q.E.D.) だ。



  ◇   ◇   ◇



 キスを終え、身体を離すと、まなかは茹でタコのように赤くなっていた。

 ようやく事態の重大さ (全校生徒の前で公開キス) に気づいたらしい。


「あ、あわわ……し、しちゃった……」

「今更だ。既成事実は積み上げるほど強固になる」


 俺は落ちたマイクを拾い上げ、聴衆に向き直った。

 会場のボルテージは最高潮だ。

 もう誰も俺たちを「不釣り合い」とは言わないだろう。

 むしろ「最強のバカップル」として語り継がれるに違いない。


「以上で、今回の報告を終了する」


 俺は事務的に告げた。


「なお、今後の我々の交際、および創作活動に対する妨害行為は、すべて論理的に排除させてもらう。異論・反論は受け付けない。……解散!」


 俺の号令とともに、予鈴のチャイムが鳴り響いた。

 まるで演出されたかのようなタイミングだ。

 生徒たちは興奮冷めやらぬ様子で、口々に感想を言い合いながら退場していく。


「マジ神回だったわ」

「小説化決定だろこれ」

「それ、天道会長が書くの? ノロケの極みじゃん」


 そんな声が聞こえてくる。


 壇上の袖に戻ると、早乙女副会長が立っていた。

 彼は気まずそうに頭を掻き、俺たちの前に来た。


「……完敗だよ、市井」


 彼は苦笑いを浮かべた。

「会長があんな顔をするなんて、知らなかった。僕じゃ引き出せない顔だ」

「認識が修正されたようで何よりだ」

「あぁ。……でも、もし会長を泣かせたら、今度こそ僕が奪い取るからな。覚悟しておけよ」


 負け惜しみだな。

 だが、潔い言葉だ。


「その心配はない。リスク管理は万全だ」


 俺が答えると、早乙女はフンと鼻を鳴らし、去っていった。

 続いて、鬼瓦先生がやってきた。


「まったく……全校集会を私物化しおって」


 先生は呆れた顔をしていたが、目は笑っていた。

 俺にそのつもりはなかったのだが、口に出すのは止めておこう。


「まあ、最近の生徒にしては骨のある演説だった。今回は不問にしてやる。ただし、イチャつくのは程々にな。目の毒だ」

「善処します」


 俺は軽く頭を下げた。



  ◇   ◇   ◇



 放課後。

 いつもの部室――「文芸部 (仮) 」の部室にて。


 西日が差し込む部屋で、俺とまなかは向かい合って座っていた。

 机の上には、ノートパソコンと、広げられた設定資料。

 日常が戻ってきた。

 しかし、その空気感は以前とは決定的に異なっていた。


「ねえ、リクくん」


 まなかがキーボードを打つ手を止め、頬杖をついて俺を見ている。


「なんだ、手が止まっているぞ。締め切りまであと三日だ」

「集中できないの。……さっきのこと、思い出しちゃって」


 彼女は、へへっと笑い、自分の唇に指を当てた。


「リクくんの唇、柔らかかったなぁ……」

「……仕事に集中しろ」

「ねえ、もう一回していい?」

「却下だ。報酬は成果物の納品後に支払われる」

「えー! ケチ! 論理的ドケチ!」


 まなかは頬を膨らませる。

 だが、すぐに悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「じゃあさ、このシーン。主人公とヒロインがキスするシーンなんだけど……」


 彼女が指差した画面には、書きかけの原稿が表示されている。


『魔王は聖女の腰を引き寄せ、その唇を奪った。それは、世界を滅ぼすほどに甘く、切ない契約の儀式だった』


「……お前、さっきの実体験をそのまま流用したな?」

「取材よ、取材! リアリティが必要でしょ?」

「描写が過剰だ。『世界を滅ぼすほど』は削除しろ。スケールが合っていない」

「えー、いいじゃん! 私の世界は滅びかけたんだから!」


 あーだこーだと言い合いながら、俺は赤ペンを入れる。

 まなかは文句を言いながらも、嬉しそうに修正していく。


 この時間が、何よりも心地よい。

 俺たちの関係は、これからも変わらないだろう。

 彼女がカオスを生み出し、俺がそれをロジックで整える。

 凸と凹。

 作家と編集者。

 そして、恋人同士。


「あ、そうだリクくん。次のプロットなんだけどね」


 まなかが目を輝かせる。


「今度は『学園ラブコメ』に挑戦しようと思うの!」

「ほう。ファンタジー路線から変更か?」

「うん! タイトルはね……『【定期報告】陰キャの俺が学園一の美少女と付き合っている件についての論理的証明』! どうかな?」


 俺は動きを止めた。

 そのタイトルは、あまりにもメタ的で、あまりにも今の俺たちそのままで。


「……却下だ」

「えーっ!? なんで!? 絶対ウケるよ!」

「理由は三つ。一、タイトルが長すぎる。二、恥ずかしすぎて俺が校正できない。三、……まだ物語は完結していないからだ」


 俺は少し顔を背けて言った。

 まなかがキョトンとし、やがて満面の笑みを咲かせた。


「そっか……そうだよね! 私たちの物語は、始まったばかりだもんね!」


 彼女は立ち上がり、机越しに身を乗り出して。

 俺の頬に、チュッ、とキスをした。


「これは前払い! さあ、仕事しよ、マイ・エディター!」

「……やれやれ」


 俺は眼鏡を押し上げ、口元の緩みを隠した。


 俺の人生における最大のバグ。

 修正不可能なエラー。

 だが俺は、このバグまみれなシステムを一生かけて運用していくつもりだ。

 なぜなら、彼女の隣にいる時だけ、俺の世界は論理を超えて、鮮やかに彩られるのだから。


 以上、報告を終わる。



 -了-

ゆきむらです。御機嫌如何。


唐突に「ラブコメが書きたい」と思い立ち、ノリと勢いで書いてみた。

個人的には面白いものにできたと思っている。

読んでくださった方々も、楽しんでいただけたなら幸い。

ブックマークや☆での評価、感想などいただけると嬉しいです。


他にもいろいろと小説を書いています。よろしければ読んでみてください。

また別作品でお会いしましょう。

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