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【完結】「君が好きだ」と論理的に証明する ~陰キャの俺が学園一の美少女と付き合っている件について~  作者: 槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ
具体例 (Example) 「例えば、以下の事象が我々の絆の深さを証明している」

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02-03:危機編「最大級のシステム障害と、その復旧作業 (リカバリー) 」

 システム運用において最も恐るべき事態。それは外部からの攻撃ではなく、内部からの情報漏洩 (リーク) である。

 特に、その情報が極めて秘匿性の高い「個人の尊厳に関わるデータ」であった場合、その被害は壊滅的 (カタストロフィック) なものとなる。


 我々が直面した最大の試練。それは、天道まなかの「魂の叫び」が、悪意ある第三者によって全校生徒に晒されそうになった、あの日の出来事だ。



  ◇   ◇   ◇



 現在。全校集会の壇上。

 和やかなムードが一変し、まなかの表情が強張る。

 彼女がマイクを握る手が白くなっている。


「最後は……思い出すだけでも怖い、あの事件の話です」


 会場が静まり返る。

 俺は彼女の背中に手を添え、無言で「大丈夫だ」と伝える。

 これは、我々が乗り越えた最大の修羅場であり、同時に、このプレゼンテーションにおける最強の証明材料 (エビデンス) でもある。

 俺は脳内のスライドを切り替える。


 事例3:機密情報漏洩事故。

 通称『黒歴史ノート拡散未遂事件』。



  ◇   ◇   ◇



 時間を、二週間前の金曜日へと戻そう。

 その日、俺とまなかは些細なことで喧嘩をしていた。

 原因は、彼女の新作における「ヒロインの恋愛描写」についてだ。


「なんで主人公にキスしないんだ!? ここは感情が高ぶってチュッ、という流れだろう!」と俺が論理的 (?) に指摘したのに対し、まなかは「恥ずかしいもん! そんなの書けない!」と頑なに拒否。

 その後、売り言葉に買い言葉で、彼女は「リクくんなんて知らない!」と部室を飛び出してしまった。


 そして、悲劇は起きた。

 彼女は廊下を走って逃げる際、抱えていた数冊の資料の中から、最も重要な一冊――『創作ネタ帳 (通称:ポエムノート) 』を落としてしまったのだ。

 さらに不運なことに、それを拾ったのが、今回の全校集会でも俺を糾弾している副会長・早乙女の取り巻きである男子生徒・軽薄 (けいはく) だった。


『リ、リクくん……助けて……!』


 放課後。俺のスマホに、まなかから着信があった。

 彼女の声は焦燥と絶望でかすれ切っていた。


『ノート落とした……拾われた……軽薄くんに……』

『落ち着け。ただのノートなら返してもらえばいい』

『違うの! あれには……一番恥ずかしいやつが……!』


 俺は嫌な予感がして、SNS (学園内掲示板) を確認した。

 そこには、軽薄のアカウントによる予告投稿があった。


『天道会長の落とし物ゲットw 中身ヤバすぎワロタ。今日の十八時に全ページ公開するわ。みんな、会長の「裏の顔」に期待しててw』


 添付された画像には、ノートの表紙と、チラリと見える中身の一部。

 そこには、震えるような文字でこう書かれていた。


『私の裸を見てもいいのは、漆黒の翼を持つ魔王様だけ……///』


 俺はスマホを取り落としそうになった。

 これは……致命傷だ。

 中二病設定ならまだ「趣味」で済まされるかもしれない。だが、このポエム (台詞案だが、傍目には妄想日記に見える) が拡散されれば、天道まなかの「清廉潔白な生徒会長」というイメージは木っ端微塵になる。

 彼女は笑いものになり、二度と学校には来られないだろう。


 現在時刻は十七時。

 拡散予告まで、あと一時間。


 俺は部室を飛び出し、まなかが隠れているという保健室へ走った。

 ベッドのカーテンを開けると、まなかが膝を抱えて震えていた。

 彼女は死んだ目をして、虚空を見つめていた。


「……もう終わりだ。私、転校する。山奥でひっそり暮らす……」

「諦めるな。まだ時間はある」

「無理だよ……軽薄くんたち、今カラオケにいるって……取り返しに行っても、もう写真は撮られてるし……」


 彼女は絶望の淵にいた。

 俺は脳をフル回転させた。


 物理的にスマホを奪う?

 間に合わないし、クラウドに保存されていたら終わりだ。


 軽薄を脅す?

 逆効果だ。奴らは面白がってさらに拡散するだろう。


 情報の拡散を止める手立てはない。

 ならば――どうする?


 俺の中で、冷徹な計算式が組み上がる。

 情報を消せないなら、情報の「意味」を書き換えればいい。

 毒を薬に変える。

 恥辱を、称賛に変える。

 ウルトラCの解決策 (ソリューション) 。


 俺は、彼女の肩を掴んだ。


「まなか、聞け。俺に策がある」

「え……?」

「一か八かの賭けだ。だが、成功すればお前の尊厳は守られるどころか、さらに強化される」

「な、なにをするの?」

「今から放送室をジャックする。お前はマイクの前で、ある『宣言』をするんだ」

「放送室!? 無理だよ、そんなの……」

「やるんだ。俺を信じろ。お前の『編集者』を信じろ」


 俺は真っ直ぐに彼女の目を見た。

 数秒の沈黙。

 まなかの瞳に、微かな光が戻る。


「……分かった。信じる。リクくんが言うなら、私、悪魔に魂だって売るよ」

「よし。行くぞ」


 俺たちは放送室へと走った。

 放送委員を買収 (学食のプリン券三枚) し、マイクの前に立つ。

 時計は十七時五十分。

 軽薄の予告まであと十分。

 俺はノートPCを開き、画像編集ソフトを立ち上げた。

 同時に、まなかに原稿 (スクリプト) を渡す。

「これを読め。感情を込めろ。お前は今から『女優』だ」

「う、うん……!」


 十七時五十五分。

 校内放送のチャイムが鳴り響く。


『えー、生徒の皆さん。生徒会長の天道です。急ですが、重要なお知らせがあります』


 まなかの声が学園中に、そしてSNSを見ている生徒たちの耳に届く。


『実は……来月の文化祭で、演劇部と生徒会が合同で、オリジナルの舞台を上演することになりました!』


 嘘だ。そんな企画はない。たった今、捏造した。


『タイトルは……『魔王と聖女の禁断のラプソディ』! 脚本・主演は、私、天道まなかが務めます!』


 同時に、俺は操作を実行した。

 俺がこの十分間で作った「偽のポスター画像」を、生徒会の公式SNSアカウントから投稿する。

 そのポスターには、流出しそうなあの恥ずかしいポエムのフレーズが、キャッチコピーとしてデカデカと使われていた。


『キャッチコピー発表! 「私の裸を見てもいいのは、漆黒の翼を持つ魔王様だけ……」 この衝撃的な台詞から始まる、愛と狂気の物語!』


 これが俺の策だ。

 流出を止めるのではなく、先に「公式情報」として流出させる。

 それも、「演劇の台詞」という文脈 (コンテキスト) を付与して。

 これにより、あのポエムは「まなかの痛い妄想」から、「役作りのための情熱的なメモ」へと定義が書き換わる。

 放送室で、まなかは震える声で、しかし堂々と嘘を演じきった。


『私は今、役作りに没頭しています。時にはノートに過激な台詞を書き殴ったりもしています。もし、そんなメモを見かけても……それは私の女優魂だと思って、温かく見守ってください!』


 十八時00分。

 軽薄が、SNSに画像を投稿した。

 しかし、反応は彼の予想とは全く違うものになった。


『うわ、マジだ。会長のメモだw』

『これ、さっき放送で言ってた劇の台詞じゃん!』

『すげー、ここまで役に入り込んでるのか』

『会長、ガチだな。絶対見に行くわ』

『拾った奴、これネタバレじゃね? 消せよ』


 軽薄の悪意ある暴露は、完全に空振りに終わった。

 むしろ、まなかの「演劇への本気度」を証明する宣伝材料 (プロモーション) として機能してしまったのだ。


 軽薄は慌てて投稿を削除したらしい。

 ざまあみろ、という言葉を論理的に変換し、「因果応報のプロセスが完了した」と俺は呟いた。


 放送終了後。

 放送室の床に、まなかがへたり込んだ。


「……やった……やりきった……」


 彼女は燃え尽きていた。


「見事な演技 (パフォーマンス) だった。これで危機は去った」


 俺は彼女に手を差し伸べた。

 まなかは俺の手を握り、立ち上がろうとしたが、足に力が入らず、そのまま俺の胸に倒れ込んできた。


「……怖かったぁ……!」


 彼女は俺の制服を掴み、号泣し始めた。


「本当に……みんなに嫌われるかと思った……リクくん……ありがとう……!」


 俺はためらいがちに、彼女の背中に腕を回した。

 震える小さな身体。

 彼女がどれほどの恐怖と戦っていたか、その振動が伝わってくる。

 俺は彼女の頭を、不器用ながらも撫でた。


「……安心しろ。お前の世界 (妄想) を守るのは、管理者の義務だ」

「うん……うん……!」

「それに、あのポエム……悪くなかったぞ。文法的には少し稚拙だが、情動への訴求力はあった」

「うるさい……バカ……」


 彼女は泣きながら笑った。

 そして、顔を上げ、涙に濡れた瞳で俺を見つめた。


「ねえ、リクくん。今の放送……嘘になっちゃったね」

「ああ。演劇など企画していない」

「じゃあ……本当にやろうよ」

「は?」

「嘘を真実に変えるの。文化祭で、本当に演劇やるの! 脚本は私、演出はリクくん! これなら嘘つきにならない!」


 ……呆れた。

 この状況で、さらにハードルを上げるのか。


 だが、それが天道まなかという生き物だ。

 転んでもただでは起きない。

 ピンチをチャンスに変える、無尽蔵のエネルギー。


 俺は思わず苦笑してしまう。


「……やれやれ。私の業務量 (ワークロード) をどこまで増やす気だ」

「一生増やしてあげる!」


 彼女は俺に抱きついたまま、宣言した。


「一生、私の尻拭いをして! その代わり、一生リクくんを退屈させないから!」


 その言葉は、プロポーズにも聞こえた。

 論理的に考えれば、これほどコストパフォーマンスの悪い契約はない。

 しかし、俺の心はとっくに結論 (アンサー) を出していた。


「……契約更新だ。修正不可能なバグまで、付き合ってやる」



  ◇   ◇   ◇



 現在。全校集会の壇上。

 まなかが話し終えると、会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。


「すげえ……あの演劇、そんな裏話があったのか!」

「会長カッコいい! 彼氏さんも策士すぎる!」

「ていうか、一生一緒にいろよお前ら!」


 まなかは涙ぐみながら、深々とお辞儀をした。

 俺は眼鏡の位置を直しながら、マイクを受け取る。


 これで、「具体例 (Example) 」の提示は完了した。

 日常の補完、外敵の排除、そして危機の共有。

 これだけの証拠 (エビデンス) を突きつけられて、まだ我々の関係を「不釣り合い」だの「脅迫」だのと疑う者はいないだろう。


 俺は会場を見渡す。

 最初に俺を糾弾していた副会長・早乙女も、今は何も言えずに俯いている。

 勝負ありだ。

 論理的にも、感情的にも、我々の勝利は確定した。


 だが、プレゼンテーションには最後の仕上げが必要だ。

 PREP法の最後、「結論 (Point) 」の再提示。

 ここで、最初の結論よりもさらに深く、重く、そして決定的な「主張」を叩きつける。


 俺は息を吸い込んだ。

 隣には、俺の最愛のトラブルメーカーがいる。

 彼女の手を、もう一度強く握った。


「以上が、我々の関係性を証明する具体的事例である」


 さあ、エンディングの時間だ。

 俺の声が響く。


「これらを踏まえた上で、最後にもう一度、結論を述べさせてもらう」



 -つづく-

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