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 ボールのような膨らみがあった。肌色の大きな膨らみ。それが自分の腹だと認識するのに時間はかからなかった。食べ過ぎで大きくなった、なんていうレベルじゃない。これは、まるで。


「おはよう」


 呆然としたままトイレを出ると少年が立っており、とても穏やかな表情をしていた。


 ――ぼこ、ぼこ――


「あ、ぐっ」


 腹の中でなにかが動いた。


 ――ぼご、ぼご、ぼご――


 内側から肉を蹴られている。気持ち悪い。立っていられなくなり、床に這いつくばった。



 ――痛い痛い痛い苦しい苦しい苦しい――



 腹がさらに激しく動く。異常な苦しさに息は上がり、身体の中に充分な酸素が回らない。 



 ――はやくはやくはやく!――


 ――はやクコレヲダシテシマイタイ!――




 ギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャア




 耳をつんざく奇怪な叫び声。

 腹の不快感が収まった。代わりに、むせかえるような糖度の匂いが室内を覆い、床には大量の黒い花――花のようなナニカがいる。


「産まれた! 俺たちの子どもが産まれた!」

「子ど、も?」

「昨日子作りしたよね。もう忘れた?」

「あれは夢で」


 少年は楽しげに笑う。


「最近はぐっすり眠れていたでしょ? 夢で毎晩まぐわっていたからだよ」

「ど、して……それを知って」

「俺は人間の夢に潜り込む悪魔なんだ。夢魔むまって呼ばれてる。お姉さん優しいから、夢の中で俺は大好きになっちゃった。だからいつも準備してた。これからできる子どものために。ほら、気持ちを作ることって大切でしょ? 昨日は夢の外でもう一度家に入れてもらえたから、やっと子種を与えてあげられた」


 少年は血だまりの中でうごめく“子ども”を撫でた。


「これからはずっと一緒にいよう? たくさん子どもを作ろうよ」



 夢魔に狙われてしまったら逃れる方法はない。獲物となった人間が理想とする姿で現れ、誘惑する。そんなものに抗える者が、果たしてこの世にいるのだろうか。

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