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「お姉さん、こんにちは」


 日曜日の夕方。

 コンビニからの帰り道、こんな時間には珍しい声を聞いた。


「えっ、どうしてこの時間に」

「なにそれ? いつも夜はよくないって言うくせに」


 すっかり心を許してくれたのか、少年は歯を見せて笑う。


「腹減ったぁ。何買ったの?」


 右手に下げているビニール袋を覗き込まれた。仕方なく、中身が見えるよう持ち手を広げ屈む。


「ビールと冷凍餃子、枝豆、アイス」

「なんかおっさんって感じ」

「うるさい」


 拳を掲げ叩くような仕草をすると、少年は「うわ、暴力反対」とおどけた。


「お姉さん元気になったよな。前は死にそうな顔してたのに、今はすんごい食べそう」

「喧嘩売ってんの?」


 女性は冗談交じりに少年を睨みつけるが、あながち間違いではなかった。最近、気がついたら朝になっている。いつ寝たのだろうと思うが、起きたら頭と身体がすっきりしているのだ。社会人になってから、今が一番よく眠れているとさえ思った。


「まぁまぁ。いっぱい食べるのはいいことじゃん。健康な証拠」


 大食いだとは認めていないが、女性は少年が元気な様子で安心した。まだ袋を覗きはしゃいでいる姿は、ただの無邪気な子どもだ。



 あ。



 ぬるい風とともに、甘い香りが鼻を掠めた。花のような、甘い、香りだ。


「パピコあるじゃん。これちょうだい!」


 少年は一番上に見えていたアイスの袋を素早く奪い去った。


「ちょっと」

 勝手に持っていかないでよ――そう思ったが言葉は続かなかった。至近距離にある少年の顔。いつもより明るい時間に見るその瞳に、あの夜感じた光が宿っている。妖しく艶やかな光に囚われ、目が離せなくなる。


「パピコって二つ入ってるでしょ? やってみたかったんだ。誰かと分けて食べるの」


 甘い香りがだんだん強くなってくる。近くに花が咲いているのだろうか。私はひまわり以外に夏の花を知らない。なんの花が、どこで咲いているの。


「お姉さんと一緒に食べてみたい」


 子どものころ、蝉の鳴き声が苦手だった。大音量で繰り出される音に、思考のすべてをかき消されてしまうから。だけど今は、なんの音もしない。地球の熱が暑すぎて、蝉ですら合唱を諦めているのか。


「……うん、いいよ。でも暑いから、私の家で食べよっか」


 Tシャツの中に着ているキャミソールが、汗を吸って身体にはりついていた。この不快感から早く逃れたい、家に帰ってシャワーを浴びたい、ビールを飲みたい。そのはずなのに、なぜ彼を家へ招いているのだろう。


 また、ぬるい風が吹いた。風の音に思考をかき消す力はない。いくらでも脳を動かせるはずだ。だが、今は考えることを放棄している。この暑さのせいだ、ということにして。

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