弐
私には夢がある。
一つめは、生涯のパートナーを作ること。二つめは、そのパートナーとの子どもを産むこと。
私の周りでは特定のパートナーを作りたい、子どもを産みたいという声は少数派だ。というか、ほぼいない。熱心に子作りをしていたのは上の上の上の世代だ。快楽を得るためなら、相手を一人に絞るなんてことはしない。なぜかって? そのほうが、したいと思ったときに誰とでもすぐできる。早くきもちよくなれたほうがいい。
遊君との出会いは偶然だった。
たまたま彼が前を歩いていて、たまたま目の前で嘔吐した。多くの人は繁華街から駅へ向かうため、公園を横切って近道をする。いつもなら助けてくれる人がいたかもしれないが、さすがに終電後の公園に人の気配はなかった。だから一人きりで苦しそうにしている姿が、とても可哀想に思えたのだ。
その日も遊君は酔っぱらっていたが、格好つけて飲み過ぎたらしい。どうして格好つけたのかと訊けば、「新人が可愛い子で……飲み会で隣になったんです」と力なく答えた。青白い顔で絞り出したひと言がそれだ。近くのベンチに寝かせ観察していると「お姉さん、いい匂い」なんて言いだした。そのあとまた嘔吐したから、アルコールがまったく抜けていなかったのだと思う。
「ゆりちゃん……気持ち悪いよぉ」
私はゆりちゃんじゃない。この人、さっきからいろいろな女の名前を呼んでいる。相当遊んでいるのかもしれない。あ、私も同じか。
うなされている彼を見て不安になり、確認のためその胸に手を置く。どくんどくんと波打つ振動が伝わった。よかった、ちゃんと動いている。そう思ったのと同時に、触れている胸の筋肉が想像よりも厚く硬いことに驚いた。そんなふうには見えない。着やせするタイプだったのか。
私はそのままジャケットの内側に手を潜り込ませ、腹部、腰回りと触れていく。どこも引き締まっていて脂肪が少ない。
「う」
彼の身体が小さく跳ねた。慌てて手を引き抜くが、規則的な寝息が聞こえてきただけだった。起こさないよう、彼の乱れた髪を慎重に整える。なにも知らない、子どもみたいな無防備な寝顔が見えた。自分の胸に手をあてた。身体の奥で息を潜めていた火が、ちりちり音を立て燃え上がっていることに気づいた。一度勢いをつけた火は、簡単に消えない。
そして今日も、いつもの居酒屋へ向かう。約束したわけではないけれど、あれから毎晩のように彼と会っていた。
暖簾をくぐり中に入る。こぢんまりとした店内は、すでにお客さんでいっぱいだ。あと二席しか空いていないカウンターを通り過ぎると、満席だった窓際の席が急に空いた。店の一番奥、私たちのお気に入りの場所だ。混み合っているのにいつもすぐ空くのはありがたい。




