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明くる日の夜。私はもう一度遊君の家へ向かった。とにかく早く会いたい。会って伝えたい。
インターホンを押すと「はい」と低い声で応答があった。
「私だよ」
『花ちゃん?』
すぐに通話が切れ、ガチャガチャと鍵を開ける音が響く。
「来てくれてよかった。朝起きたら俺一人で花ちゃんいなかったからその」
遊君はなにを焦っているのか、やたらと早口で喋った。
「俺なにかやっちゃった?」
恐る恐る、といった様子で訊ねられた。
「ううん。昨日はとってもきもちよかったよ」
「え、あ、そんなにはっきりと……花ちゃんは正直だな」
遊君はなぜか顔を赤らめた。
「ごめん花ちゃん。すぐ連絡しようとしたんだけど、花ちゃんの番号がなくて。なんで連絡先訊いてなかったのか自分自身が意味わかんなくなるし、俺のバカヤロー! って俺に呆れた」
遊君はとめどなく話し続ける。
「だから店に行けば会えるかもしれないと思って、今日も開店時間に行ったんだ」
必死に話す遊君は、いたずらしたことを謝る幼子のようだ。どれだけ自分が花ちゃんのことを想っているか、頑張って証明している。とても愛おしい。
「そしたら……ないんだ。店が、なかったんだ。何度行っても、公園にたどり着いてしまう。裏を回っても近くを探してもどこにもない。そういえば店の名前も知らなかった」
大丈夫。そんな証明をしなくても、私はちゃんとわかっている。
「まるで全部夢だったみたいで、なんか怖くなってきちゃってさ。花ちゃんには粗相をしたかもしれなかったし……不安でたまらなかった。でもよかった。花ちゃんが会いに来てくれたんだから、やっぱり現実なんだよね?」
「そんなこと気にしてたの?」
うん、現実だよ。私たちが一つになったことは紛れもなく現実なの。遊君の話がおかしくて、つい大声で笑ってしまった。
「花ちゃん……」
それを見て安心したのか、大きな身体に包み込まれた。昨日と同じ体温を感じる。
「ん?」
「どうしたの?」
「腹になにか当たったような」
遊君がゆっくり身体を離し、私の腹部を見る。
「ゆったりした服だからわからなかったよね。見て!」
私はワンピースの布を身体にぴったり張りつけ、大きくなったお腹を強調した。
「え……なに、それ」
「私たちの子どもだよ。もうすぐ生まれるの。あ、今蹴った!」
ぼこ、ぼこ、と丸いお腹に弱い衝撃が走る。お腹の子たちが、父親に会えて喜んでいるのかもしれない。
「なんで」
「なんでって……昨日子種をくれたからだよ」私は笑顔で答える。
「実は私ね、遊君がわざと近づいてきたのかなって思ったの」
遊君は唇を震わし、私のお腹を凝視していた。感動で震えているのかな。
「今でも悪魔を殺そうとする人間たちがいるの。だから遊君が夢魔の話をしたとき疑っちゃった。ごめんね。私のことを本気で想ってくれているのに」
遊君は両手で口元をおさえた。
「どうしたの? 遊君」
「が……甘ったるい、匂いが」
そのまま地面に膝をつき、苦しそうに咳き込んだ。
「大丈夫? きっとすぐに慣れるはずだから」
遊君の背中をさすった。その瞬間、ぼん、ぼん、と衝撃が強くなった。ああ、もうすぐだ。私たちの結晶が、この世に生を受ける。
「花ちゃ、なんで……狙われるのは、女じゃ」
「ん? 夢魔に性別はないよ? 相手の人間が好む姿になるだけだから。遊君も夢の中でそう話してくれたじゃない」
まったく。私たちは真面目に生きているだけなのに、面白おかしく伝えられては変な誤解を生んでしまう。
「霊媒師さんに適当なことを教えられたんだね」
あの公園にいた霊媒師から話を聞いたのだろうか。ううん。そんなことは今さらどうでもいい。他の人間なんてどうでもいい。
遊君は息が上がり、肩が激しく上下している。汗で額にはりついている前髪を、指先で優しく整えてあげた。ゆっくり、ゆっくりでいいよ。時間はたっぷりあるのだから。
「遊君の夢、毎日すごく楽しかった。人間の生活を体験したみたいで、私にとっては新鮮だったの。ふふ。これからはずっと一緒にいようね」
ぼこ、ぼこ、ぼこ、ぼこ、ぼこ
「お腹の子が出たがってる……はぁ。遊君、もう、産まれてくるよ。私、あなたとの愛の証がいっぱい欲しいな。たくさん子どもを作ろうね」
あなたのお陰で夢が叶った。永遠に、幸せにしてあげる。
大好き大好き大好き。遊君。




