表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/14

12

「花ちゃん?」


 暗闇の奥から、よく知った声が聞こえた。周囲を見回すが、すでに霊媒師の姿はなかった。


「なにしてるの? こんな時間に」

「遊君のこと考えてたの」

「俺のこと?」

「うん。そしたらね、出会った場所に来たくなって」

「わざわざ夜中に来なくてもいいのに」


 遊君は眉を寄せ隣に座った。


「だって、あのときもこれくらいの時間だったでしょう? 同じ雰囲気を味わいたかったの。それに人もいないし、いろいろと思い出すにはちょうどよくて。そういう遊君は? また遊んできたの?」


 コーヒー、香水、煙草、汗。いろいろなものが混ざった匂いがした。人には固有の匂いがある。遊君はたくさんの匂いを纏っているから、それだけ多くの人――女と関わりがあるということだ。


「俺は悪魔になってきたよ」


 木の揺れる音が止まった。


 私が固まっていると「これからは花ちゃん一筋だってこと!」と恥ずかしそうに言った。


「ごめん遊君。ちょっと意味わかんなかったかも」

「やべぇ。完全にすべってるわ」

 遊君は両手で顔を隠した。


「俺、今まで遊んでた女の子たちとはスッパリ縁を切ってきた。全員と話してたらこんな時間になっちゃってさぁ……ほら、連絡先もすっからかん」


 遊君はスーツの内ポケットからスマートフォンを出し、画面に連絡帳を表示した。


「家族と会社の人だけ」


 遊君と同じ田中という苗字の人が三人と、あとは数人分の登録しかない。その中に女と思われる名前はなかった。


「そうなんだ……」

「今までの女の子たちは俺が誘ったら簡単に応えた。でも君は気がありそうな素振りをするくせに、追いかけても振り向いてくれない。なんでも受け入れる天使みたいな顔で、男に隙をみせない。俺は、そんな花ちゃんが気になって仕方ないんだ」


 暗い公園で、二人の姿だけが浮かび上がっている。今はサイレンの音も、虫の声も葉の揺らめきも聞こえない。ただ、遊君の濡れた瞳が私の炎を蝕んでいく。


「ねぇ、花ちゃん」頬に触れた遊君の手は温かい。「今なに考えてる?」


 私はその手に自分の手を重ねた。


「遊君の手、大きいなって思った。遊君は?」

「花ちゃんのこと連れて帰りたいなーって思ってた」


 どちらともなく、目を閉じて唇を寄せた。また、いろいろな匂いが香ってくる。でも、いいの。これから私の匂いで上書きすればいい。

 唇を離し、お互いをきつく抱きしめ合った。遊君の熱を感じる。幸せな温もりだ。


「ねぇ遊君。一応訊くけど、遊君は普通の、”ただの人間”なんだよね?」

「へ? あ、さっきの悪魔のくだり? 真面目に訊かれるとますます恥ずかしいんだけど」


 遊君は肩を落としてうな垂れた。この様子だと、本当に冗談を言っただけのようだ。もしかしたら遊君は本当に素直なだけで、今までの発言はすべて真実なのかもしれない。


「ねぇ、霊媒師って悪魔を退治できると思う?」

「花ちゃん、もうそのネタやめて……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ