拾
「夢魔は淫魔とも呼ばれていて、人間とのセックスが好きな……ちょっとエロい悪魔なんだ」
「へぇ。私を誘惑できる悪魔がいるなら狙ってほしいかも」
「え?」
飲みかけのビールは泡が消え、ジョッキに歪なリングを作っていた。
「怖くない? よくわからないものを産まされちゃうんだよ? しかも無理やり」
「でも私のことだけをずっと愛してくれるんでしょう? それ、私の理想のタイプだもん」
遊君は苦笑いした。その目に陽気な輝きはない。期待外れの反応で盛り下がってしまったのかも。
「俺は嫌だなぁ。花ちゃんが誰かに取られちゃうの」
遊君が枝豆の殻を小皿に置き、三杯目のビールをあおった。話に夢中だったせいか、ジョッキの中身は半分以上残っている。
「じゃあさ、遊君もその悪魔みたいになってよ」周りの女なんか気にしないで、私だけを求めたらいい。
すると突然、遊君は声を上げて笑いだした。
「いいね、それ! そっかぁ。俺が悪魔になればいいのか。その視点はなかったなぁ」
「そうそう。悪魔になって、私のことを独り占めしたらいいよ」
最後のひと口になったポテトサラダを箸ですくった。大きなじゃがいものかけらが入っていたけど、一回の咀嚼で簡単に潰れた。
「後悔しても知らないよ」
珍しく静かな声の遊君が、いつかみたいにまっすぐ見つめてくる。明るい彼には似つかわしくない、仄暗い熱をもった瞳。私は急激に喉の渇きを覚え、残りのビールをひと息で飲み干した。だけど渇きはおさまらない。本当はこんな行為に意味がないからだ。
「私そろそろ帰るね」
「え? もう?」
薄っすらと浮かび上がる疑問が、いつまでもここにいてはいけないと告げている。
「遊君かなり酔ってない? 目が据わってきてるもん。また倒れちゃうよ」
「そうなったら、もう一回花ちゃんが介抱してくれたり」立ち上がった私を、ちらっと上目遣いで窺ってくる。
「他の人と遊んでいるうちはダメ」
「あっ、花ちゃん待ってよ!」




