夜の英雄 2
「誰だ?」
サリアスは問いかけたが、返事はない。
「コンコンコン……」
また扉を叩く音が聞こえた。
「おい! 一体何のようだ!」
そう言って立ち上がり、扉を開けた瞬間、
グサッという鈍い音と共に、サリアスの腹にナイフが突き刺さった。
「ぐわぁぁ!!」
サリアスは悲鳴をあげ、床に倒れた。
「誰か! 誰か!!」
大声をあげ、人を呼ぼうとしたが、誰も来る気配がない。
「無駄だ。 お前の声と俺の声はお互いにしか聞こえない」
「だ……誰だ……!」
サリアスが顔を上げると、そこには黒いローブを纏った男がいた。
「お前は……!」
「……」
「た……助けてくれ……! なにが欲しい? 金ならいくらでもある!!」
「強いて言うなら……お前の命だ。」
男は袖から短剣を取り出す。
「ま……待て!!」
サリアスが言い終わらない内に、男はサリアスの喉にナイフを突き刺した。
動かなくなったサリアスの喉元に手を当て、脈を確認する。うん、死んでるな。
音声遮断の魔法を解除し、ポケットから連絡用魔道具を取り出した。
『..........もしもし』
「任務完了です。上に伝えといてください」
『ん、お疲れ様。………もう一つ依頼がある。』
「はいはい。お腹すいたからご飯作りに来いですよね?」
『……なぜわかる』
「そりゃほぼ毎日同じこと言われてたらわかりますよ……いい加減自分で家事できるようになってください」
『……善処する...プツッ』
「はぁ〜……」
任務終わりのついでにこき使われるこっちの身にもなってほしい……
そんな事を考えながら、僕は屋敷から抜け出し、ある方向に向かって走った。
町の裏路地にある1つの扉を僕は叩いた。
「先輩。いますか?」
そう声を掛けると、中で何やら派手にコケた音が聞こえ、しばらくして扉が開いた。
「ん……きた」
中から出てきたのは、銀髪の長い髪に薄着の、おでこが赤くなっている女の子だ。
彼女はアリア先輩。僕のバディだ。
暗殺者は基本二人一組で行われる。
1人は実行者。もう1人はサポート役だ。
サポートの仕事は、実行者に依頼内容の伝達や、上への依頼完了の伝達。また、ターゲットの情報収集や、侵入先の建物の下見などもある。
彼女は僕のサポート役……なのだが、極度の引きこもりで、先ほどの依頼のように建物の下見等を怠ることが多々ある。
さらに彼女は家事全般が破滅的に苦手。なので、僕は依頼完了後よくこうやって呼び出され、家事をさせられるのだ。
(断ると、拗ねて依頼内容だけ連絡してきてその他の情報教えてくれなくなるんだよな……)
一度断ったことがあったが、その時は大変だった……。
「? 立ち止まってどうしたの?」
「いや、なんでもないです。それより大丈夫でしたか? さっき派手に転んだ音が聞こえましたが」
「ん……洗濯物に引っかかってコケた…」
「だからあれほど片付けろって言ったのに……」
「そんなことよりお腹すいた......」
「材料買ってきましたから、今から作りますよ」
「やった……!」
喜んでピョンピョン飛び跳ねてる姿をみると幼く見えるが、彼女は僕より年が上だ。いまだに信じきれていない。
「とりあえず、キッチン貸してください」
そう言って僕は中に入った。




