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夜の英雄

 この世界には、人類を脅かす脅威が存在する。


 邪神の作ったダンジョン、名をルーン迷宮。


 遥か昔、突如地上に舞い降りた邪神は、世界の中心にダンジョンを作った。


 そしてこの言葉を残して消えていった。


___時がたてば、迷宮は崩れ、地上に魔物が溢れかえる___


 その言葉は、人々を恐怖させるのに十分だった。人々は、いつその時が来るのかと怯えていた。


 そんな時、人々に変化が訪れた。

 

 一部の者たちの手の甲に紋章、"エンブレム"が表れ始めたのだ。


 エンブレムは、発現者たちに様々な力を与えた。


 エンブレムを授かった者たちは、その力を活かし、ダンジョンへと挑んだのである。


 時がたち現在。最高迷宮攻略階層は34階層。どこまで続くかわからないダンジョンも攻略されていき、人々の恐怖は少しずつ落ち着いてきている。

 

 僕たちは迷宮攻略の現在の最前線。先代勇者パーティーの到達階層、34階層を目指している。


 勇者と呼ばれる者には、生まれたときに勇敢のエンブレムが発現する。これは勇者の証でもあり、このエンブレムを持つ者はこの世に一人しか存在できない。


 僕はそんな勇者パーティーの一員であり、叡智のエンブレムを授かった賢者。……それが、表での僕だ。

 

 ブブブ……ブブブ……


 ポケットに入っていた連絡用魔道具が震える。


「……もしもし」


『あ……やっとでた……私、何度も連絡したのに』


 淡々とした口調の声が聞こえる。


「出れるわけないでしょ……今までダンジョンにいたんですから」


『まぁいい。それより仕事』


「......ターゲットは?」


『貴族街の上層に住んでる貴族。表では一部貧困街の管理、裏では奴隷売買を生業としてる……』


「それはまた典型的なターゲットですね」


『パーティーをあと4時間後に自宅で開催予定。自宅の位置は式神に送らせたから。侵入方法は……自分で探して。』


「あんた絶対下見してないでしょ……」


『……なんのこと。』


「たまには外出たらどうですか…。どうせ今も家に……」


『じゃあよろしく。 プツッ……』


「あっ。……切りやがった…」


 言いたいこといってすぐ切るなあの人……


「はぁ……。とりあえずいくか……」



 ダンジョンの脅威、そしてエンブレムの発現と同時に、裏社会の活動も活発的になった。

 

 違法取引、人身売買、密輸など、各国でもこのような犯罪が後を絶たない。

 

 このルーン迷宮がある国、ミルティシアも例外ではない。

 

 さらに、近頃はエンブレムの力を利用し、国家転覆や世界征服を目論む奴らも増えて来ている。

 

 そんな裏社会の進行を抑えるために、とある組織が建てられた。

 

 その名を"暗殺者ギルド"という。

 

 このギルドは完全秘匿されており、存在を知っているのは世界中のごく一部のお偉いさん方だけだ。

 

 この組織の目的は、裏社会の抑制及び、世界情勢を裏から支えること。

 

 僕はそんな"暗殺者ギルド"の一員。そして、巷を騒がせている謎の暗殺者、"夜の英雄"とは……僕のことである。

 

 

「あそこか……」


 相変わらず大きいな、貴族の屋敷は。それに警備も厳重だ。


「道案内ご苦労な。式神」


 そういうと、僕の前を飛んでいた小鳥が光に包まれ、紙となって僕の手に落ちた。

 それをポケットにしまい、僕は屋敷に向かって走る。


 パーティーまであと2時間。余裕だな。


「侵入するには……ここしかないか」


 屋敷の一部の壁に手を押し当て、魔法を唱える。


「ウォールハック」


 唱えると、壁に手が吸い込まれていき、そのまま壁をすり抜けて中に侵入する。


「サイレント」

 

 気配を消す魔法を使い、俺は屋敷の中を走り出した。


 


_____屋敷の一部屋にて。

 

「サリアス様。お時間よろしいでしょうか」


 使用人の声で振り返った太った男は、機嫌悪そうに言った。


「あと1時間もしたらパーティーなんだ。手短に頼むぞ」


「はい。実は、サリアス様の奴隷売買に手を貸していた一部の貴族たちが、この件から手を引きたいと申しておりまして」


「なに……?」


「いかがいたしましょう?」


「ふざけるな! ただでさえ人手が足りないんだ!! 金ならいくらでもある、何としても引き止めろ!!」


「了解いたしました。失礼します」


 使用人が扉を閉めたあと、サリアスは机を思いきり叩いた。


(クソッッ……これで4件目……。これも"夜の英雄"とかいう奴のせいで……!!)


 近頃国内で動いている謎の暗殺者。その影響はサリアスの奴隷商売にも響いている。

 

 件の暗殺者による殺害や、騎士団からの調査を恐れた同業者がことごとく手を引いていっているのだ。

 

 無論、サリアスも恐れていないわけではない。屋敷の警備は厳重にし、奴隷商売に関する情報や証拠品になりそうなものは徹底的に管理している。


(せっかくの商売を台無しにされてはたまらん!!)


 奴隷は値が付く。女や子供は変態貴族の所有物として。男は労働の道具として売られることが多い。さらに、エンブレム持ちの場合、高値がついたり、奴隷同士を戦わせる闘技場(コロシアム)での見世物としても売られる。

 

 そのため、奴隷の入手さえ容易であれば、奴隷商売は金を稼ぐのに最も使えると言ってもいいだろう。


(このために俺は何十年も頑張ってきたんだ……! こんなとこで終わるものか!)


「コンコンコン……」


 不意に、部屋の扉を叩く音が聞こえた。

ep2も読んでくださりありがとうございます。

よければご感想等もお願いいたします。

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