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想いのかたち

作者:
掲載日:2025/10/16


結婚式まであと1ヶ月。


「ねぇ、良ちゃん。もう参加者リスト、式場に出さなきゃいけないんだけど。」


「あぁ、会社の人は、メモにまとめるから、そこから入れといて。」


「マンションのカーテンも、先に注文しないといけないの。」


「すればいいじゃん。」


「長さ測らないと。売ってる既製品じゃ、丈が足りない。」


「……」


こんなキリがないやり取りにうんざりする中、私の悩みは、それだけではない。


マリッジブルーになりそう――二次会、どうしよう。


そんな時、式場のプランナーが提案してくれた。


「仲の良いご友人に一任するのはいかがですか?」


私は悩んだ末、中学1年の頃からの友人、愛子にお願いすることに決めた。

愛子とは、一時期は険悪になったこともある。


あの頃、私はつい言ってしまった。


「私に気に入らないところがあるなら、無理して一緒にいてくれなくてもいいよ。」


すると、愛子は泣きそうな顔で言った。


「嫌だよ。私は亜紀と、離れたくないよ。


納得いかないときは、また文句を言うかもしれないけど、亜紀の嫌なとこあってもいいよ。


それでも、一緒にいたい。」


あの時の言葉が、今も胸に残っている。


愛子は、高齢の母のことまで心配して、結婚式当日の送り迎えも引き受けてくれた。

二次会の相談を持ちかけると、嬉しそうに、


「任せて!」と引き受けてくれた――はずだった。


式まであと2週間という頃、愛子からメールが届く。


「任せてくれた時は嬉しかったけど、一人でいろいろ考えるのは不安だから、

亜紀も一緒にやってほしい。……一度、会って話したい。」


私は忙しいこともあって、少し苛立ち混じりに電話をかけた。


「もしもし、久しぶりだね。引き受けてくれてありがとう。

でも、無理そうだったら、ここからは他の人にお願いするからいいよ。」


嫌な言い方しちゃったな。


「……」


返事が、ない。


ん、だめ、なんか嫌な言い方とかじゃない――愛子、本気で悩んでたんだ。


「愛……」


すると、私の言葉を遮るように、愛子は慌てて言った。


「なんで?そうじゃないよ。最後までやるよ。でも、一人だと不安なの。」


私の言い方に対しての言葉として、違和感しかなかった。


またやってしまった。


また、愛子を傷つけた。



――愛子――


私にとって亜紀は、とても大切な親友だ。


中学に入学する前の私は家族との関係に、少し疲れていた。

叱られることに慣れて、返事を返す気力も薄れていく。


やがて、私はそのやり場のない気持ちを学校で消化するようになっていった。

外や学校では我慢せず、強気な態度をとる。


そんな、自分勝手な行動という形で。


それでも晴れない気持ちに、毎日苛立ちを抱えたまま迎えた、中学の入学式の日。


亜紀に出会った。


亜紀と一緒にいる時間は、すごく楽しかった。

ずっと、一緒にいたい。


でも、亜紀は誰にでも平等で、誰も特別扱いはしなかった。

私はそれが不安だったし、不満でもあった……。


亜紀は、基本的に友達を作るのも上手い。

人懐っこいのに、人を寄せ付けないような、不思議な魅力を持つ人だった。

だから、私は亜紀がそばにいない焦りや、他の友達への嫉妬すら感じていた。


やがて不安や不満は、“ 亜紀を失いたくない ”という執着へと変わった。

その執着は、苛立ちへと姿を変えていく。


抑えきれなくなった気持ちの矛先を、亜紀自身へと移して。


気がついた時には、彼女と私の距離は、もう遠く離れていた。


彼女の存在を、感じられないほどに。



「じゃあ、愛子。一人じゃなくても誰かに協力頼もうか。」


「うん……でも私は亜紀が、相談に乗ってくれたら、大丈夫だと思う。」


そう意地になっている愛子に、私の違和感はさらに深まった。


直接会って話そう。そう決めた。


「明日、午後になるかもしれないけど、愛子の家行くよ。」


「……うん。あ、でも忙しいよね。ごめんね。」

「大丈夫。じゃあ、明日ね。」


電話を切った後、愛子に任せきりにしてしまったことを後悔した。


明日、会った時に謝ろう。


次の日、私は愛子の家へ行った。


「大丈夫?一人で悩ませて、ごめんね。」


「ううん、私の方こそごめんね。」



――愛子――


私は、亜紀と離れてしまった中学の、あの頃を思い出した。


あの時、私は亜紀が離れていってしまうことが怖かった。


昔のように、愛子に呆れられるようなことには、絶対なりたくない。


亜紀の結婚が決まってから、なんだか自分が不安定になっているのがわかる。

結婚したからって変わってしまうような、そんな弱い人じゃないとわかっているのに……。


――結局、私は亜紀の一番にはなれない。


亜紀の幸せを、素直にお祝いできていない。


そんな自分の、弱さを受け入れるのが、怖い。



少し元気のない愛子に、打ち明けた。


「実はね、愛子に二次会をお願いしたのには、理由があるの。」

「そうなの?」


「うん、中学の時私たち喧嘩したでしょ?

あの時私は、” 一緒にいても楽しくないなら、離れた方がいいよ ”って切り離しちゃった。

でも、愛子は諦めずに、私に” 友達でいよう ”って言ってくれたんだよ。


わざわざ朝練休んで、朝6時に家に電話かけてきてさ。

” 朝話したいから、学校一緒に行こう ”って。


言われた時、” 私は話すことないから ”って、最初断ったの。


それでも、“ お願い。聞いてくれるだけでいいから ”って、


あれ……すごく嬉しかったんだ。

――だから、私のことを私の次に任せられるのは、

愛子だと思ったの。」


この言葉に、嘘はなかった。


「亜紀ー、どうしたのー? なんかあったの?誰かと喧嘩した?」

「何にもないよ。言ってもわかってもらえないから、もういいかなって。」


「……そんなの、言わなきゃわかんないよ。」


すぐに、うまくいかない関係を諦めようとする私に、

もう一度関係を築く、という選択肢をくれたのは、愛子だった。


愛子は声を詰まらせながら、ぽつぽつと震える声で話し始めた。


「私ね、景品も選んで買いに行ったけど、数足りるかなって心配になって……。

あと、チェキを借りてゲストにメッセージを書いてもらおうと思ったけど、

当日スムーズにできるか不安で……。

スピーチも誰にお願いしたらいいか迷って、亜紀ならどう思うかなって……。」


私は、彼女の言葉に相槌を打ちながら、静かに受け止めた。


話し終えた彼女を見て、申し訳なさで言葉に詰まった。

それでも、少しでも彼女の心を軽くしてあげたくて、話を続けた。


「うまくいくかどうかなんて、気にしなくていいよ。

愛子にも、楽しんでほしい。

でも負担なら、無理しないでいいんだよ。」


愛子は目を赤くして、頷く。


「そっか。考えすぎてたのかな。


もう大丈夫、だと思う。


亜紀が昔のこと覚えててくれたなんて、全然知らなかった。

ずるいなぁ……悩んでたのに、今はなんか嬉しいよ。


亜紀は、ずっと、変わらないね。

絶対、いい二次会にするね。」


愛子は、そう言って笑ってくれた。


私は昔、愛子との関係がそこで終わってしまってもいいと、諦めてしまった。


それはきっと、彼女をすごく傷つけていただろう。


私の大切な親友に、また苦しい思い、させちゃったかな。


そして迎えた二次会当日。


会場となるレストランに入ると、カウンターにウェルカムボードと、

愛子が用意してくれたコルクボードが飾られていた。


チェキで撮ったゲストからの直筆メッセージが入った写真が、次々と貼られていく。

愛子は、入り口から入ってくる来賓に丁寧に、笑顔で対応してくれている。


来賓が入ってきたときだった。


「こちらでチェキ撮らせてもらっても、大丈夫ですか?」

「あ、と……写真が、苦手なので……。」

「そうでしたか。無理はなさらず、よろしければこちらのメッセージカードに、

一言いただけますか?」

「はい、それなら。新婦と昔撮ったプリクラなら持ってるんですけど……。」


「それ、いい! ぜひ貼ってください。私もチェキに貼っちゃおっかなぁ。ふふっ」


その様子を見て、愛子の対応力は、お見事としか言いようがなかった。

私が入ってきたことに気づくと、笑顔で手を振ってくれた。


会場ではクラッカーの音。


シャンパンを開ける音が鳴り響く。


それぞれの音が、音楽のリズムのように、会場をさらに盛り上げてくれる。


入り口近くのカウンターでは、笑顔でペンを走らせる友人たちのにぎやかな笑い声。

代表で選ばれた友人たちのスピーチに、会場中が温かい拍手に包まれた。


ビンゴ大会では、豪華な景品が当たるたび歓声が上がり、私と夫も思わず笑い合った。


愛子が作り上げてくれた、こんなに賑やかで温かい二次会。


私は胸がいっぱいで、泣きそうになった。


ビンゴ大会が終わったあと、私はサプライズで愛子へのお礼の手紙を贈る。


盛り上がっていたビンゴの余韻が続いている中、司会者が語り始める。


「それでは、これより。

新婦から、今回の二次会の幹事を務めてくださった、新婦のご友人である、

吉崎愛子さんへのお手紙のサプライズ。どうぞ。」


賑やかだった雰囲気が、少しずつ落ちていく。


そして、明るかった照明は消え、スポットライトが私だけを照らす。


手紙を読み始めると、図ったかのように来賓は静かな雰囲気に飲まれていく。


「愛子へ


今日は、素敵な二次会を、ありがとう。


ウェルカムボードの飾り文字、愛子が描いてくれたと聞きました。

美術室で、授業中に書いていた明朝体の文字も、すごく上手だったのを思い出しました。

昔から、そういうのが得意だったよね。

本当に素敵で、思わず魅入ってしまいました。


景品もハズレなしって感じだったね。

私も手のひらサイズのクマのぬいぐるみのキーホルダー、もらいました。


中学の頃は、可愛いキーホルダー見つけると、色違いのお揃いで買って、

どっちの色にするかで、言い合いしたのを今でも覚えています。


……


私は愛子のこと、一番の親友だって思ってるからね。


これからも、ずっと、そばにいてください。


亜紀より」


愛子は、冒頭から結構泣いていて、

「もうー! 逆サプライズとか、かっこ良すぎなんだけどー。」

途中、声を上げながら笑ったり、泣いたり。


愛子の騒がしさに釣られて、その場にいた来賓も、

今日の主役である私たちまで拍手を送りながら笑ってしまった。


愛子もまた、涙で化粧までボロボロになった顔のまま、笑っていた。子供みたいに。


夫がその光景を見て、私に言った。

「愛子ちゃんにお願いして、よかったね。」


「うん、愛子でよかった。」

私も笑顔で返した。


私にとって結婚式はとても幸せな時間だったけど、

この日の二次会は彼女が考え、準備をして作り上げてくれた。


彼女が私への想いを、“ かたち ”にしてくれた、最高の贈り物。


これで終わりじゃないけれど。


愛子、クマのキーホルダー、またお揃いになったね。


ありがとう。


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